宝塚歌劇団が1日、SNS上における誹謗中傷への対応を発表した。「昨今、SNSなどで、出演者やスタッフに対する誹謗中傷や事実に基づかない悪意ある憶測を流布する行為などが多くみられている」と指摘し、「特定の個人を攻撃するような行為を確認した場合には、法的措置を検討するとともに、発信者の情報開示請求を実施する」としている。
社会問題化しているネット上の誹謗中傷。昨年5月、女子プロレスラーの木村花さんが亡くなったことを機に、総務省は議論を加速させていた。
「この法律案はインターネット上の権利侵害について、迅速かつ適正な解決を図るため、発信者情報の開示請求にかかる新たな裁判手続きを創設するなどの改正を行うものであります」(武田総務大臣)
政府は26日、プロバイダー責任制限法の改正案を閣議決定し、国会に提出。この改正案が施行されれば、中傷した人を特定するための手続きが簡素化される。
現状では、SNS運営会社やネット接続のプロバイダー事業者を相手に、2回の裁判手続きを経ないと、投稿者を特定できず、情報開示に1年以上もかかるケースが多かった。新たな制度では被害者の申し立てをもとに、裁判所が事業者に対して投稿者の情報開示を命じられるようになる。これによって、申し立てから情報開示の判断まで数カ月程度に縮まる見込みだ。
また、SNS事業者にIPアドレスなどの通信記録がない場合は、ログイン時の情報を開示できる内容も盛り込まれているほか、投稿者の情報が消えないよう、事業者には情報の消去の禁止なども命じられる。
■「ネット上に完全な“匿名”はない」特定簡易でネットの誹謗中傷は変わるか
芸能人の急死などに端を発し、政府も対策強化に乗り出したネット上の誹謗中傷。オンラインメディア「BuzzFeed Japan News」副編集長の神庭亮介氏は「これまでは被害者側の負担が大きかった」と指摘する。
「木村花さんの痛ましい事件もあり、ネット上の誹謗中傷対策が急務になっていた。今は相手を特定するまでに2回の裁判が必要で、そこからさらに相手方に損害賠償請求するなど、合計3回の裁判をしなければいけなかった。相手の情報を開示するまでに半年、1年と長期間かかっている。誹謗中傷を受けた側の負担が大きく、被害者が泣き寝入りするケースも多かった。手続きを簡素化してスピーディーにするのは、基本的にはいいことだ」(以下、神庭亮介氏)
傷ついた心の状態では、半年以上の時間をかけて相手を特定し、合計3回の裁判を起こすハードルは高い。また、今回の改正案では、開示要件が緩和化されるわけではないため、申し出によっては棄却される場合もある。神庭氏は「すべてのケースで情報開示されるわけではない」とした上で、「あまりにカジュアルに開示請求するようなケースが続出すると、言論の萎縮も懸念される。開示請求が無闇に乱発されない運用が望ましい」と話す。
「こと誹謗中傷問題に関していえば、ネット上に完全な匿名はない、ぐらいの心構えでいた方がいい。『芸能人の悪口を言うために匿名で発信してやろう』といった甘い考えでいると、特定されて訴えられることになる。内部告発や不正の追及など匿名が必須になるケースはまた別だが、基本的には名前を出して言えないようなことは、匿名でも言わない方が無難だろう」
「改正案が施行されれば、罵詈雑言を吐くために匿名アカウントをつくっていたような人たちも多少は控えるようになるかもしれない。誹謗中傷の抑止効果を出しつつ、言論の萎縮効果につながらないような、バランスのとれた運用が大切だ」
改正案は今国会で成立すれば、来年末にも施行される見通しだ。
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