「こんなことが起きるのもヘビー級格闘技だ!」
劇的KOでの“ビック・アップセット”に実況が思わず絶叫した。鳴り物入りで参戦したイランの英雄の右フック2発で顔面が崩壊…誰もが惨敗を確信するなか、起死回生の左ストレート“一撃”で大逆転KO。ヘビー級の一撃が物をいう大逆転劇に解説陣も「まじか…」と声を揃えて驚愕した。
3月5日に配信されたONE Championshipシンガポール大会「FISTS OF FURY II」に元RIZIN無差別級トーナメント準優勝のアミル・アリアックバリ(イラン)が初登場。KO勝利の大きな期待がかかるなか韓国のカン・ジウォンと対戦。終始圧倒しながらも、カンの左ストレート1発で豪快に沈み、1ラウンド1分54秒でのビック・アップセットを許した。
アリアックバリは元グレコローマン・レスリング世界王者で、過去の総合格闘技の戦績は7勝1敗。唯一の1敗は日本のRIZINに参戦した2016年の大晦日「RIZIN無差別級トーナメント」のミルコ・クロコップ戦でのKO負けのみである。
対する韓国人ファイター・カンは2月にONEに参戦したばかり。初戦でカンがKOしたメフディー・バルギ(イラン)がアリアックバリの同門という因縁もさることながら、戦前から「アリアックバリが勝ったら次の相手はヘビー級王者・ブランドン・ベラ」など、“イランの英雄”の勝利を信じて疑わなかった。
192センチのアリアックバリと184センチのカン、対峙すると明らかにフレームの大きさが異なる。視聴者からも「身長もガタイも負けてるな」「カンはどうやって(この相手に)勝つのよ…」「勝てる絵が見えない」など、視聴者においても“アリアックバリ有利”の声が優勢だ。
ゴングが鳴らされると、カンは警戒心から極端に距離を取る滑り出し。ABEMAで実況解説を務めた西達彦アナウンサーの「組ませたくないカン・ジウォン。距離にそれが表れています」という指摘どおり、カンは1メートル以上の距離を保ちながらサークリング。指一本も触れることのない序盤の攻防に「遠すぎ」「ビビリ過ぎ」など厳しい声が飛んだ。
開始1分間で何もできずに逃げるカンの様子をみて、この日のゲスト解説・長谷川賢がしびれを切らしたように「厳しそうですね、これを見ると。勝負にならないのかなぁ…。前に入ると貰っちゃうと思って必死に外そうとしてるんだけど、これだと入ったときに当てられてしまう」と口を開いたタイミングで、アリアックバリが一気に距離を縮め、強烈な左のフック2発を振り抜いた。
「バキッ バキッ」と鈍い音が鳴り響くと、カンは鼻から出血。2発のパンチでカンの左目あたりは変形しており「効いた」「痛そう」「もうダメだ…」と悲観的なコメントが並ぶ。必死でローを散らしながら応戦するカンだが、さらにフックを被弾すると後退を余儀なくされる。
一方的な実力差に「なんという噛ませ感」「かわいそう」と絶望コメントも。しかし、そんな空気が一変する。再びアリアックバリが右フックを振るいながら前進すると、カンが右で触りながらカウンターの左ストレートを一閃。「バシッ」と乾いた音とともに、アリアックバリの巨体が大の字に崩れ落ちた。パンチの感触に勝利を確信したか、カンは相手を見ずにガッツポーズしながら雄叫びをあげた。ヘビー級ならではの一撃によるビッグ・アップセットだった。
この衝撃結末に実況陣は「まじかー」と声をそろえて絶叫。西アナウンサーが興奮気味に「こんなことが起きるのもヘビー級格闘技だ!」と声を上げると視聴者も「なんじゃこりゃあ」「嘘でしょ」と応じた。その一方、長谷川は冷静に「ごめんなさいですね…カン・ジウォンさんに。びっくりした」と予想外の結末を振り返るようにつぶやいた。
勝利したカンではあるが、左の目の上から額にかけてパックリと切れ、目のまわりに大きなアザができる“まるで敗者のような”痛々しい姿。対象的にダウン後の状況が飲み込めないアリアックバリが錯乱したように何かを訴えかける姿も印象的だった。
勝利インタビューでカンは「なんと言っていいかわかりません、言葉になりません」と口を開くと「彼が上で僕はアンダードッグ(噛ませ犬)だと判っていました。パンチをかわして左を当てるというのが当初からのプランでした」と淡々と自ら演じたビッグ・アップセットを振り返った。