「縦割り行政打破で事故や虐待から子どもを救いたい」 子ども政策の一元化を目指す「子ども家庭庁」の実現性は
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■「子ども家庭庁」創設に向けて動き出した自民党若手勉強会


 妊娠・出産から幼稚園、小中高校へと子どもが成長していく過程にかかわるあらゆる政策を一元化し、責任をもって対応する「子ども家庭庁」を創設しようと、自民党の若手議員を中心に勉強会を立ち上げて議論をはじめた。

【映像】縦割り排除へ 「子ども家庭庁」とは

 現在、子どもにかかわる政策を担当する部署は、厚労省や文科省や内閣府など複数にまたがっており、縦割り行政になっている状況だ。勉強会では、様々な観点から「子ども家庭庁」の必要性を訴えていこうと、当事者からのヒアリングに力をいれている。これまでに、子どもの死因究明に関する取り組みや虐待の対応にあたる専門家、過去に虐待を受け現在は支援者として活動している方からヒアリングを行ってきた。

 また、「子ども行政への要望」について一般にアンケートを行い、約4万8000件の回答が集まった。アンケートの中では、妊婦検診や出産費用や子どもの医療費など、子育て支援の充実度が市区町村によって差があること、国の制度を増やして均等にしないと、より地域差が広がるなどの指摘もあった。こうして集まった当事者の意見を丁寧に汲み上げ、「子ども家庭庁」の創設を訴える提言に反映していきたいとしている。そのうえで、どんな政策をしていくかという具体策については、今度検討をしていくことになる。
 

■実は過去にも必要性を訴える声はあったものの見送られてきた

 民主党政権時代には、「子ども家庭省」をマニフェストに掲げるも見送られた。当時政権にいた議員は、「10年前に実現できていたらどれだけ違ったか…」と悔しさをにじませながらも経緯を振り返った。

 「当時は、子ども家庭省をどういう組織にするかという中身のデザインの議論から入ってしまったことにより、厚労省や文科省など、それぞれ子ども政策を担ってきた役所同士の綱引きが始まってしまった」

 子どもに関する政策を一元化することへの官僚の反発が大きく、実現に至らなかったのだという。

 今回あえて、「子ども家庭庁」のデザインの議論を詰める前に、まずとにかく箱を作ろうと動いているのも、創設に向けて着実に進みたい狙いの一つと言える。

 箱をつくった上で、そこに集まってくる様々な課題を具体的に検討していこうという手法は、菅総理肝いりで進められたデジタル庁の創設と同じである。
 

■なぜ子ども政策を一貫してみる体制が必要なのか

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 一番の目的は、子どもにかかわる政策に向き合う責任部署を明確にさせたいということだ。例えば、子どもが事故で亡くなるという痛ましい出来事が起ってしまったときに、事故が起きた場所によって原因究明を担当する省庁が異なる。幼稚園であれば文科省、保育園であれば厚労省、公園であれば国交省など細かく分かれているのが現状だ。

 勉強会の中では、私立幼稚園の引率で川遊びに行った際に亡くなってしまった男の子(当時5歳)のケースが紹介された。事故後、遺族はどうして亡くなったのか知りたいと検証を訴えたが、自治体は、「私立幼稚園への指導監督権限がない」と回答。一方で文科省からは、「自治体がすべてだ」という回答だった。

 たらいまわしになった結果、行政と行政の隙間に落ちてしまった。子どもの事故というものに向き合う責任部署がないために、事故直後に一人の男の子の死の原因究明がなされなかった。

 「子ども家庭庁」ができれば、日本で起きた子どもの事故に関する事例が一カ所に集まってくることになる。そこでなぜ事故が起こったのか原因分析がなされ、さらにそれが蓄積されていけば、事故の予防というものにも繋げていけるかもしれない。

■縦割り・横割り打破で子どもを虐待から救う体制づくりを

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 度重なる子どもへの虐待の事件でいつも焦点となるのが、どうして異変に気づけなかったのかということだ。ここにも行政の縦割り、さらには国と自治体という横割りの問題が背景にある。虐待かどうかを調査する際には、児童相談所や自治体や学校など複数の行政がかかわるが、その分役割や責任が分散してしまう。例えば、厚労省の分野である児童相談所、警察、文科省所管の学校や教育委員会との連携がうまくいかず、それぞれが対処していても、役所と役所の連携が不足する部分に見落としがあり、子どもの命を救えなかったケースが多々ある。

 ただ現状の法体系では、そもそも児童相談所が警察マターの仕事に割って入ったりすることはできない。行政が垣根を越えて仕事したら違法行為になってしまうという現実がある。行政の連携不足という問題があると言われても、そもそも限界がある。子どもの命を守っていくためにも、縦割り行政の今の仕組みに横ぐしをさして連携していけるような体制づくり、その司令塔機能が必要だ。

 虐待の事例も「子ども家庭庁」へと集中して集まってくれば、どこに気をつけて子どもを見るべきなのか、異変はどこで見落とされてしまっていたのかなど、全国の様々なケースが蓄積される。責任をもって原因分析にあたる場所ができるということが大きな変化となる。「子ども家庭庁」を通じて虐待の防止、早期発見に役立てていける体制をづくりを目指していく。

■「子ども家庭庁」の創設を自民党の選挙公約に

 若手の議員らは衆議院選挙の公約に「子ども家庭庁」の創設を入れることを目指している。菅総理が総裁選の際に掲げたデジタル庁の創設や携帯料金の見直しなどは着々と進んでいるが、新たな打ち出しはない状況だ。そうしたときに選挙の目玉政策として何を打ち出すかというのは大事になってくるが、若手議員らは「子ども家庭庁」を新しい球として入れ込みたいと狙っている。

 ただ一方で、選挙は高齢者、票になるのは高齢者だとの考えも自民党内には根強くあるのも事実だ。党幹部の一人も、「子ども・子育て支援と言うと、高齢者支援が手薄になるのではないかという否定的な考えもあるから」と慎重な意見を漏らしていた。

■実現への高いハードルにどう挑むのか

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 「子ども家庭庁」の勉強会を立ち上げた山田太郎議員は、1月24日に菅総理と面会して、子ども家庭庁の創設を直接提案した。その時は、総理はあくまで聞き置いたという感じだったようだが、翌日には、加藤官房長官から、「提言がまとまったらもってくるように」と連絡が来たと明かした。菅総理も官房長官に指示をおろしていることから、「菅総理の頭の片隅には残っているのではないか」と期待を込めて話す議員もいた。

 一方、これまで子どもに関する政策は、厚労省や文科省や内閣府でそれぞれ予算をつけて対応をしてきた。「子ども家庭庁」を創設するとなれば、これまでの行政の仕組みを“大改革”することになる。実現させるためには菅総理に改革を促し、高齢者政策に向きがちな党内世論もまとめあげなくてはいけない。強力なリーダーシップで動かしていけるかどうかが課題となる。

 年々深刻になる少子化の危機に直面する中、子どもに関する政策にどれだけ舵をきれるのか、政治の本気度が試されるのではないか。

■プロフィール

土田沙織(つちだ・さおり)

テレビ朝日政治部記者。これまでに安倍政権で総理番として、政府の新型コロナ対応などを取材。現在は二階幹事長や野田幹事長代行ら自民党議員を担当。代理出産など生殖補助医療に関する法整備の検討や夫婦別姓について取材を進めている。

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