本当に“10年”は節目なのか? 記者・石戸諭氏「10年生きてきた被災者に敬意を」
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 2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年。2021年3月現在、死者は1万5899人、行方不明者は2526人(全国総数)となっている。

 被災3県の人口にも変化があった。震災翌年の2012年と2020年の人口を比較してみると、宮城県は約マイナス4.5万人、福島県は約マイナス11万人、岩手県は約マイナス8万人とすべての県で減少している。

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■Webサイト「TOHOKU360」編集長・安藤歩美氏「報道にギャップを感じた」

 Webサイト「TOHOKU360」は、住民参加型の“ニュースサイト”だ。メディアで過去に編集経験がある編集者と、東北6県の各地に住む通信員(約60人)が力を合わせ、まだ知られていないニュースを発信している。2016年にスタートしてから、これまでに配信されたニュースは約600本。編集長の安藤歩美氏は、新聞記者として宮城県に赴任経験がある。

【映像】Webサイト「TOHOKU360」の試み

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 「TOHOKU360」を立ち上げたきっかけについて、安藤氏は「震災の地域に住んでいる人自身が発信できる仕組みがあれば、もっと細かい情報が届けられるのではないかと思った」と語る。

 3月11日に行われているハッシュタグ企画「#今見せたい東北」では、東北の住民に「全国に知ってほしい東北の風景」を募集。2017年から行っているこのハッシュタグ企画は、安藤氏が実際に報道を見て感じたギャップがきっかけになっている。

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「毎年この時期にセンセーショナルな報道やショッキングな映像が多かった。被災地に住んでいる側は、この3月11日だけでなく、日常の中で何かしら思いを抱えている。報道と実際に住んでいる人のギャップを感じた」(以下、安藤氏)

 外からではなく中から「日常の中で今日思うこと」を募集した安藤氏。過去、投稿された中には、一度は津波に流された雛人形の写真と投稿主の思いがつづられていた。

「日常の中で津波に対する思い、震災時に抱いていた思いや言えなかったことは(東北の)中の人間からしか出てこない」

■記者・ノンフィクションライター石戸諭氏「この10年を生きてきた被災者に敬意を」

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 震災当時は毎日新聞記者で、過去に被災地取材も行ってきたノンフィクションライターの石戸諭氏は震災の本質について「個人が抱えてきた悲しみの大きさにある」と話す。

「同じ日に多くの人が亡くなって、多くの人が家に帰れなくなってしまった。復興と言っても、同じ町並みは二度と返ってこないし、亡くなってしまった人は二度と返ってこない。福島の原発事故でも大きな被害を受けて、10年間、自分の家に帰れなくなったままの人たちが今も多く残っている。この日を境に、一人ひとりがそれぞれに悲しみや喪失感を抱えてしまったことに本質がある」(以下、石戸諭氏)

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 その上で、石戸氏は「節目はマスメディアが人間が決めることではない」と指摘する。

「10年が節目だと言われているが、そういうことではない。10年経ってもまだ自分の悲しみを自分の言葉で語れない、あるいは悲しみを抱えているままの人たちがいっぱいいる。そういう人たちのことを忘れてはいけないと、ずっと思っている。節目かどうかは、誰かが決めることではない。今必要なのは、待つことではないか。(被災者が)語りたくなったとき、『関心を持っているよ』と言い続けていくことが大切で、そこにわかりやすい節目は関係ない」

 未曾有の災害から10年――石戸氏はこの10年を生きてきた被災者に「敬意を払うことも忘れてはいけない」と語る。

「別の観点から『3月11日』を捉えると、今生きている人たちはあれから10年分だけ、歳を重ねることができたことは間違いない事実としてある。その間、多くの赤ちゃんも誕生しているし、当時まだ小さかった子供たちも成人になった。僕の周囲にもいるが、被災地で育った当時の10代がメディアに就職して、すでに伝える側に回っている」

「今、生きている人たちはその後の10年間をちゃんと生きてきた。困難を抱えながらも生きることを選んできた、どんな形であれ歩み続けることを選んだとも言える。僕は、これまで震災の取材で出会った人たちには敬意を払って祝福したいとも思っています。よくぞ、この10年間を生きてくださった、そして、経験を伝えてくれてありがとうございますと言いたい。その意味で『3月11日』は、2011年以降を懸命に生きてきた人々を祝福する日でもある。つらくて悲しい出来事や喪失感を抱えながらも、”一緒に生きてきた”人々への敬意も忘れてはいけない」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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【映像】ニュースサイト「TOHOKU360」を立ち上げた理由
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