その独創性溢れる指し回しでファンを魅了する佐藤康光九段(51)が、2度目となる団体戦でもドラフトから盛り上げる。プロ将棋界初の団体戦となった「第3回AbemaTVトーナメント」では、森内俊之九段(50)、谷川浩司九段(58)という3人で「チームレジェンド」を結成。大会を盛り上げまくった。期間中にはTwitterのアカウントも解説。終了後には書籍も出るなど、3人が結集したことをフル活用し、将棋界に話題を振りまいた。その佐藤九段が今年のドラフトについて語ったのは「もう少し我々の世代も選出される」というベテランの逆襲。日本将棋連盟会長の読みは、ずばりと当たるのか。
第3回大会は、連盟会長としてもコロナ禍で沈む将棋界にとって大きなものだと実感している。「将棋界初のドラフト制、団体戦ということで、コロナ禍の中ではあったんですが、大変な盛り上がりになり注目をいただきまして、非常にありがたかったです」。棋士としても2人の永世名人と準決勝まで勝ち進み、充実した時間を過ごせたことは、多忙な日々を送る中でも、また違った刺激を受けた。
今や全員が50代となったレジェンド三人衆。結成直後から、その注目度は優勝した永瀬拓矢王座(28)、藤井聡太王位・棋聖(18)、増田康宏六段(23)に勝るとも劣らないものがあった。どの世界でも「世代交代」という言葉がよく使われる中、その新たな波を跳ね返すように戦うベテランたちへの声援は実に大きかった。「最近若手が中心に活躍しているというのもありますので」と、本人も実感があった。
ファンの反応をダイレクトに受けたのが期間限定で行ったTwitterだった。「ファンの声を身近に直接やりとりできて、声を聞けたのは大きな収穫だったかなと思います。何か活かしていければ」と、50歳を過ぎても新たな発見はいくつもある。それは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算というフィッシャールールも同じだった。「対局も非常にスリリング。時間が短い中でどう戦っていくかというところで、なりふり構わずというところが全面に出たり、ご自身のスタイルを貫かれている方もいたり、様々でしたね。今の時代はAIも出てきて、棋士になかなか特徴がないと言われがちですが、今回の企画は棋士の個性も際立っていたと認識できました」と、人間と人間がその能力をフル活用して戦う将棋の魅力、棋士の魅力が引き出されたとも感じたという。
大成功だった前回を踏まえての第4回大会。「1秒間に1億と3手読む」とも形容されるレジェンド棋士だが、ドラフトばかりはまるで見当がつかない。一応、前回の戦いを振り返りながら予想を立ててみた。「個人的には森内九段が前回大活躍されたので、普通は競合するんじゃないかと見ているんです」と、昨年のチームメイトが人気になると考えた。ただ、直後には「普通のスカウトの人ならそう考えると思うんですけど、前回も藤井聡太さんが2チームしか競合しなかったこともあるように、ちょっと何を考えているかわからないところがある」と、思わず苦笑いした。確かに昨年のドラフトでは、少なくとも半分の6人は指名すると思われた藤井王位・棋聖だが、名前を書いたのはわずか2人だけ。一番わかりやすそうな指名がこれでは、難しいにもほどがある。
それでも一つ、傾向は感じている。「森内さんや久保利明(九段)さんなど、勝率も高くてレベルの高い将棋を見せていたので、競合になってもおかしくないと思います。前回参加しなかった中でも、実力者がたくさんいらっしゃいますので、そういう方が選ばれてもおかしくない」と、少し年齢層が上がると見た。また世代間交流の効果にも期待がある。「若い世代が先輩の世代を選んで交流が生まれることによって、お互いに刺激が得られるという効果があるんじゃないかと思っているところです。同世代が集まって切磋琢磨するのは一つの方法ですけど、前回我々の世代で若手ばかり選んだ棋士もいます。今回そういうものが増えるんじゃないかと予想はしています」と、シナジー効果に着目した。
ベテラン棋士の指名増加、若手・ベテランの交流。これがドラフト全体だけでなく、佐藤九段本人の構想にも直結している可能性はあるが、最後には「こればかりはわかりません。棋士が考えていることは全くわかりません」と、笑った。やはり独創性の塊といった棋士。このコメントの中から、指名候補者を見つけるのは難解だ。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。