前年優勝チームのリーダー、永瀬拓矢王座(28)が連覇に向けてインタビュー受けた。プロ将棋界の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」のドラフト会議を前にしてのことだ。4人だけのタイトルホルダーのもとに、当然「指名して欲しい」と売り込みもあるだろうと予想されたが「棋士は言葉じゃなくて盤上で表現、披露するもの」とバッサリ。売り込みなどされずとも、自分が力を信頼する棋士を選ぶという。優勝候補筆頭と呼ばれた前回大会の振り返りと、今回に向けた意気込みを聞いた。
プロ将棋界初の団体戦となった「第3回AbemaTVトーナメント」。ドラフト会議では、重複指名を恐れることなく藤井聡太王位・棋聖(18)を指名し、くじ引きの末にゲット。さらに2巡目には若手実力者・増田康宏六段(23)と、若き才能が結集した最強チームを作り上げた。「ドラフトでかなり勝敗が決したのかなと思います。その時点で優勝しないとマズいチームに仕上がりましたので、藤井王位・棋聖を獲得し、増田六段を獲得した時点で、優勝濃厚だったんじゃないかなと思います」と、出来すぎたチーム構成だったと振り返った。
ただ、チームが組めたからといってすんなり行かないのが、この団体戦。初戦で、広瀬章人八段(34)、青嶋未来六段(26)、黒沢怜生五段(28)のチームと対戦したが、先鋒の増田六段、中堅の藤井王位・棋聖が相次いで敗れ、永瀬王座自身も三番勝負で先勝を許し、大ピンチに陥った。「チームとして気を引き締めて頑張らないといけないと、一致団結した瞬間だったかもしれないですね。予選敗退が見えていたので、そこで危機感を持って踏ん張ることができたので、3人が一生懸命指して苦難の乗り越えたのが大きかったかなと思います」と気合を入れ直すと、なんとか予選通過。本戦に入ってから怒涛の快進撃で優勝まで突き進んだ。
この大会も含め、2020年度は実に多くの対局をこなしてきた。「1年通してかなり対局が多くなり、いろいろと注目していただく機会が多かったのかなと思います」と、充実の1年だ。その中で団体戦でも、藤井王位・棋聖、増田六段という若き仲間とともに過ごした時間が、公式戦での活躍にもつながった。
では、第4回大会はどう戦うか。絶大な信頼を寄せた藤井王位・棋聖はリーダー棋士となり、敵になった。「藤井王位・棋聖が選ぶ側に回られてしまったので、戦力がかなり分散された印象があります。どのチームも平等に苦しくなった、やせ細ったんじゃないかなと思います」と、真っ先に戦力の均等化をあげた。その上でドラフトについては、「自分の中でかなり実力が上位の方を選びたいと思っています。自分の中では上位ですけど、みなさんと見る目は少し違うかもしれません」と、将棋に対しては人一倍ストイックな男の眼力で選び抜くという。
プロの間でも、この大会の注目度は高く、特に前回出場できなかった棋士の出場意欲の高まりはかなりのものだ。当然、リーダー棋士には「ぜひ自分を」と売り込む棋士も出てくるが、永瀬王座は手厳しかった。「自分はきっぱり断っちゃうタイプなんで。どうでしょう、言われたんですかね(笑)。さらっと答えたはずなんで」と言った後、さらに強烈だった。「自分に自信がある人は、そういうことを言わないと思うので。言わずとも、棋士は言葉じゃなくて盤上で表現、披露するものだと思っているので、言葉を駆使するようでは少し苦しいんじゃないかと思います」。願い出てくる時点で、その棋士の自信のなさが出ている。そんなパートナーは指名しないのだ。
実力を認めた者だからこそ、そこには自然体が作れるチームワークも生まれてくる。「一緒にいる時間が長いと、少しでも気心が知れていた方が、ほどよい緊張感を持ちながらリラックスする状態ができると思います。知らない人だと身構えてしまったりすると思うので。注目していただける大舞台ですと、リラックスするところはリラックスしないと結構きつい。そういうものも大事かなと思います」と、まさに“同志”を求めている。
目標を聞かれると、最初は「予選通過」と控えめだったが、続いて「取りたい人が取れれば自信はあります」と、連覇への自信も見せた。はたして、永瀬王座の厳しい目で選ばれるのは、どんな棋士か。
◆第4回ABEMAトーナメント 前回までは「AbemaTVトーナメント」として開催。第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦になった。チームはドラフト会議により決定。リーダー棋士が2人ずつ順番に指名、重複した場合はくじ引きで決定する。第3回は12チームが参加し永瀬拓矢王座、藤井聡太王位・棋聖、増田康宏六段のチームが優勝、賞金1000万円を獲得した。第4回は全15チームが参加。14チームは前年同様にドラフトで決定。15チーム目はドラフトから漏れた棋士によるトーナメントを開催、上位3人がチームを結成する。対局のルールは持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チーム同士の対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負に変更された。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。