「夜に包丁を突きつけられて勉強」母の教育虐待…当事者が語る苦しみ 教育熱心との境目は?
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 Twitterでトレンドに入り、注目が集まった「#教育虐待」。きっかけは2018年1月、滋賀県で起きた殺人事件だ。桐生のぞみ被告は、医師になるよう強く要望した母親を殺害し、遺体を遺棄。共同通信によると、大阪高裁は被告に懲役10年の判決を言い渡した上で「同情の余地がある」と判断したという。

【映像】「お前みたいな美人でもないやつはどこも採用しない」当事者が語る“教育虐待”の実態

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 行きすぎた教育が虐待につながり、起きてしまった悲劇。医師で、一児の母のゆっこりさん(仮名)も、桐生被告と似たような経験があるという。ニュース番組「ABEMAヒルズ」に、自身が母親から受けた壮絶な体験を明かしてくれた。

■「親子関係が破綻する前に気づいて」母から教育虐待を受けた当事者


「母親には、一日の朝起きる時間から寝るまでの時間を管理されました。何時にご飯を食べて、何時にこの勉強をやるか、全て決められていました。塾に行く間は携帯のGPSで居場所をチェックされていました。ある日、やっていなかった問題集があって、夜寝ている部屋に母親が怒鳴り込んできて、包丁を突きつけられながら勉強をした記憶もあります」(以下、ゆっこりさん)

 母は怒るとゆっこりさんを“お前”と呼んだ。ゆっこりさんは今でも母親の暴言を覚えている。

『お前のためにこの家を買って、今も月(値段)円もローンを払っている。くだらない大学に入って、さらに親に負担をかけるつもりか』
『お前みたいな美人でもないやつ、普通の職場ではどこも採用してくれないから、勉強するしかないよ』

 そんな言葉を浴びせられ、テストの点が悪いと『お前のテストの点が悪いせいで、具合が悪くなった。癌で死ぬかもしれない』と言い放った。もちろん、母親は癌ではなかったが、ゆっこりさんは「自分が受験に落ちたら『母は死ぬんだ』と本気で思っていました」という。

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「親を含め、親戚には誰も医者はいません。どうしても家を継がなければならないといった事情もありませんでした。母はあまり学歴も高くなかったようなので、親の見栄もあったと思います」

 母親がゆっこりさんを束縛する様子に、同じ屋根の下で暮らす父親は何も意見しなかったのだろうか。

「私が母に怒鳴られているとき、父は決まって何もしませんでした。自分に火の粉がふってくるのも嫌だったのでしょう。仕事にも疲れていたんだと思います。母が父にもひどい言葉や侮辱する言葉を放っている場面も目にしました。普段の父はたくさん遊んでくれましたし、愛情もたくさん注いでくれました。ただ母の言いなりではあったと思います。絶縁のときも、私は父との関係継続を望みましたが、いまだに父から連絡はきていません」

 そんな環境もあり、ゆっこりさんが医師を目指した理由は「親が望むから」だった。しかし、母親のエスカレートする教育に耐えかね「家を出よう」と心に決めた。

「高校生くらいから将来的に親と離れて暮らしたいと考えるようになりました。そのためには経済的自立をしなければならないと気がつき、医学部に入る意味を自ら見い出すことができたと思っています。幸い、勉強さえしていれば、親の機嫌はよかったので、勉強する時間は無限にありました。医学部に合格できたのは、本当にラッキーでした」

 猛勉強の末、大学の医学部に合格し、卒業後は医者になったゆっこりさん。その後、結婚・出産を経験したが、すでに母親とは絶縁状態だという。

 絶縁の決め手は、母親の「あなたにもし女の子が産まれたら“(某有名私立女子中学校の名前)”に絶対入学させたいの」という言葉だった。

「その言葉に激しく戦慄しました。絶縁したのは子供が産まれる前ですが『もう私の人生は自分のものにしたい』と思い、県外への就職とともに、住所を告げず、着信拒否をして、逃げ出しました」

 親には子供が生まれた報告もしておらず、ゆっこりさんは「子供が生まれると親との関係もよくなるとも聞きますが、試したいとも思いません。私の中では完全になかったことにしたい過去なのだと思います」と語る。

「私の受験期には、まだ“教育虐待”という言葉は広く知られておらず、私自身も最近になって自分の経験が教育虐待に当てはまることに気づきました。熱心さのあまり、気づかずに教育虐待となってしまっている親御さんに、親子の関係が破綻する前に気づいてもらいたい」

■ 教育熱心と教育虐待、境目はどこに?「親と子の教育虐待チェックリスト9」


 熱心な教育と、教育虐待の境目はどこにあるのか。明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏は「境目はいくつかある」と話す。

「ひとつは“同一視”で、自分と子供が一心同体だと感じていて、なんとか子供を(親である自分が)思うようにしたい。自分が“なりたい人”になるかのように、自分と子供を同一視することは教育熱心と言えない。あとは子供の“私物化”。子供の成功は自分の手柄だという考えが背景にあるような行為は教育熱心とは違う」(以下、藤井靖氏)

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 教育虐待を防ぐために、親は自分の方針が正しいのか、立ち止まる必要があるが、その線引きは難しい。

「事例から見ると、大きく2つに分けられる。1つ目は親自身が非常に高学歴で社会的地位が高いパターン。自分の過去の経験を元にした価値観で『努力すれば必ず報われる』と思い込んで、『うまくいかないのは努力が足りないから』と、子どもの資質や適性に目が向きにくくなったり、見て見ぬ振りをしてしまう心理がある。2つ目は、親が何らかの事情で自分の夢を果たせなかったり、できなかったことがあって、『子供でリベンジしよう』という発想で、自分自身のコンプレックスやキャリアへの不満足を解消しようとするパターン。心理学では『未完の行為』というが、自分の中に未達成なものがあって、よく言えば『子供に夢を託す』ということ。子供は自分とは違う独立した存在であるにもかかわらず、自分の目標を子供にも設定する状態は、教育熱心と違う」

 例え、自分が親であっても、自分の子供は“他人”である――。「子供に夢を託す」というと、聞こえは良いが、自分の子供が別人格であると認識せず、追い詰めるような振る舞いは、教育虐待になりかねないし、結果として子どもの自己決断の機会や能力がどんどん失われていくだけではなく、精神的自立を阻害していくことにもつながっていく。これでは本来親が願う子どもの成長とは逆方向に進んでしまう。

 藤井氏は「親と子の教育虐待チェックリスト」を提示。「教育虐待かもしれない」と思ったら、下記のリストにどれだけ当てはまるかチェックするといいだろう。

【親と子の教育虐待チェックリスト9】

1:習い事などを一度始めたらやめさせない
2:親の意向に沿わない言動は無視する
3:子どもの友達付き合いを制限する
4:きょうだいや友達と比較する
5:「あと(数字)点とれば満点なのに」と否定から入る
6:「ダメ人間」「バカ」など人格否定の言葉を言う
7:子どもの行動のプロセスは評価しない
8:子育ての金銭的負担が大きいことを突きつける
9:親の気分で判断基準が変わる

 藤井氏によると「すべて、またはほとんど当てはまるようだったら要注意。自分が願う子供の『成長』や『自立』とは何か、一度立ち止まって考えてみてもよいのでは」とした。

「社会的つながりは親も子供も大切。例えば親同士のつながりの中で他の家庭の子育ての話を聞いたり、自分の話を打ち明けたりして、ときどき第3者的な意見を自分の中に入れていくことは教育虐待を予防するためには大事。また子供の側も、時に友達と親の悪口を言ったり、グチや弱音を吐いたりしてガス抜きをすることで、自分を客観的に見ることができたり、精神的なバランスを取ることにつながる」と語った藤井氏。子供の将来を大きく歪めないために、自分が教育虐待をしていないか、または親から類似の行為を受けている子供がいないか、社会も目を向ける必要がありそうだ。

(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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