音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か
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 音楽教室における「録音物の再生」「先生の演奏」、そして「生徒による演奏」は、「公衆に聴かせるための演奏」にあたるのかー。

 著作権料の徴収をめぐり、ヤマハなど250の音楽教室事業者などがつくる「音楽教育を守る会」がJASRACを相手取った裁判。昨年2月の1審で東京地裁は「契約すれば誰でもレッスンを受講することができ、生徒は不特定で多数の者にあたる」などと指摘して原告の訴えを退けていたが、二審の知財高裁は18日、「本質はあくまで指導を受けることにあり公衆に聞かせることが目的だとはいえない」などとして一審判決を一部覆し、「生徒の演奏」については「著作権料は請求できない」と判示した。

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■著作権問題に詳しい記者「市民感覚に非常に近い判断」

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 著作権問題の取材を続けてきた朝日新聞社会部記者の赤田康和氏は「JASRACの“完全敗訴”はないと見て、その原稿は用意せずにいたが、“一部敗訴”、つまり生徒の演奏だけは著作権が及ばないという判断はあり得ると見ていたので、その原稿は用意していた。だから想定の範囲内ではあったが、やはり正直なところ、驚いた。ただ、著作権法22条の“公衆”というのは、要するにコンサートなどのお客さんがたくさんいる状態のイメージ。だからせいぜい10人足らずが教室にいるような場合はちょっと違うのではないかという市民感覚に非常に近い判断をしたと思う」と話す。

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 「他方、JASRACとしては演奏権という権利がある以上、それを主張し、行使しなければ仕事をしていないことになってしまう。楽譜の場合は印刷物として残るので複製権料が取りやすく、音楽教室からも徴収をしている。ところが演奏は消えてしまうもの。発表会やコンサートはプログラムなども作られるが、教室の中での演奏は把握が難しい。

 そこでJASRACではスナックなどを一生懸命に訪問し、“契約してください”と頭を下げてやってきた。あるいは職員が“主婦”と称してヤマハの教室に2年間通い、どのくらい楽曲が使われているか“潜入調査”した。やはり人気の楽曲を演奏したいからとやって来る生徒も多いわけで、ベートーヴェンなど、著作権が切れた古い楽曲しか演奏しない音楽教室に生徒が来るのだろうか。結論としては、我々が管理する楽曲で商売をしているではないか、どうして著作権料を支払わないのか、という理屈だ」。

■JASRAC正会員の作曲家「みなさんの間に誤解もある」

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 作曲家でJASRAC正会員の和田薫氏は「例えばコンサートを開催した場合、著作権料を支払うのはバイオリニストや指揮者、ボーカルやドラムといった出演者ではなく、あくまでも事業者が利益の中から支払っている。今回の問題も、いわゆる音楽事業者に対して“僕らが作った楽曲を使用する場合は、その対価として使用料を払って下さい”と言っているのであって、生徒さんたちから直接いただくというものではない。結果的には生徒さんたちから集めたレッスン料から支払われる形にはなるのでなかなか理解されにくいところだが、この前提の部分に大きな誤解があると思う」とした上で、次のように訴える。

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 「ここ10年、20年で、フィットネスクラブなど様々なところから使用料を徴収する流れになっているが、背景には1996年にWTOから注意を受けたということがある。日本では様々な場面で音楽が無料で使われていたが、それは世界から見て特殊だった。ビートルズやクイーンの音楽を使ったら、ちゃんとアメリカやイギリスの著作権者に支払わなれなければならないということだ。そこでJASRACが文化庁と相談し、対象を広げていこうということになっていった。

 もちろん、生徒の演奏も教育の一環であるということは確かだ。しかし、例えば30分のレッスンのうち先生が何分演奏し、生徒さんは何分演奏するのか、やはりそこは表裏一体だし、どのようにして線引きをするのか、という疑問が残る。私はJASRACの回し者ではなく、あくまでも作曲家としての立場で話しているが、徴収された使用料は手数料を引いて、ほぼ100%作家へ還元されているし、そこには細かなルールもある。ヒット曲のある人とそうじゃない人もいるので、たくさんもらっている人もいれば、少ない人もいるのも現実だ」

■EXIT兼近「今は無料のコンテンツが多すぎるし、小さい時から無料で触れすぎている」

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「もちろん著作権を守ること、使用によって上がった利益が著作権者に配分されることは当然だ。ただし厳密に徴収されるようになったり、そのためのコストがかかるとなると、大手の教室は“お金をかけてでもオリジナルの楽曲を作ろう”という流れになる可能性もある。流行っている曲を弾けない。それは練習には使えないよ、と言われてしまう社会はちょっとどうなのかなと思う」とコメント。

 EXITの兼近大樹は「この世界に入ってきて思ったのは、作り手の評価がすごく低いんだな、ということ。昔は僕も立ち読みをメッチャしていた。だけどこの世界に入ってからは、“無料で見るというのは実はムチャクチャなことで、ほとんど万引と同じだ”と思うようになり、絶対に買うようにしている。音楽も同じだ。今は無料のコンテンツが多すぎるし、小さい時から無料で触れすぎていると、こういう問題が起きた時に“何で払わないといけないんだよ”と言う人たちが出てくる。それでは作り手が頑張って作ったものも広まっていかない」と話した。

音楽教室vsJASRACの訴訟から考える…「生徒による演奏」は教育か、それとも商売か

 知財高裁の判決を受け、音楽教室側は「真に音楽文化の発展を考えるのであれば、民間の音楽教室における音楽教育の重要性について十分な配慮がなされなければならない」とコメント。JASRACは「承服することができないため、判決文を精査したうえで、上告を含めしかるべき対応を検討する」としている。

 今後について赤田氏は「文化庁にJASRACが提出している使用料率は2.5%。JASRAC側は上告すると思うが、仮に生徒の演奏には著作権が及ばないという今回の判決が確定すれば、音楽教室側は授業料を下げざるを得なくなると思う」、和田氏は「作家がリスペクトされる、対価を払ってもらえるというのは我々にとってありがたいことだし、生きていく糧だ。なんとか歩み寄るような形にできないかなと思う。2.5%という使用料率についても、まずヤマハさんやカワイさんとの交渉のテーブルに立てていない。まずはどうすればお子さんに対しても企業に対しても、我々作家に対しても落とし所がつくれるのか、という話し合いをして欲しい」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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