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 誰もが認める実力派だ。映画『騙し絵の牙』(3月26日全国公開)では主演の大泉洋をはじめ、國村隼、木村佳乃、リリー・フランキーら曲者たちを相手に対等に渡り合っている。進学か就職か、真剣に考えるほど女優として芽が出なかった10代の頃とは比べ物にならないくらい作品に恵まれ、途切れがない。人気実力派という肩書きが与えられた今、売れなかった当時に抱いていた不安や焦りは霧散したに違いない。だが松岡茉優はその肩書きを打ち消すかのように「毎日、いや毎秒、今だって焦っています」と胸の内を明かす。その「焦り」こそ、現在の活躍を支える大きな核でもあるようだ。

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 『騙し絵の牙』で松岡が演じるのは、伝統ある文芸雑誌から左遷された新人編集者の恵。その挫折をバネに、敏腕編集長・速水(大泉)とカルチャー誌「トリニティ」作りに奮闘する。松岡にも忘れることのできない挫折があるようだ。10代の頃にオーディションで掴み損ねたキャラクターたちへの未練は拭い去ることができないという。

「悔しいことやり直したいことは沢山ありますが、その中でも一番悔しかったのは、やりたかった役がオーディションで得られなかったことです。もちろん製作の皆さんが思う役柄像と合わなければ演じる意味はないと思うし、オーディションで落選するたびにそう自分に言い聞かせて納得はしているつもりです。それでも心残りな役が3役あって。今リメイクされたとしても年齢的に演じることはできない役ではありますが、いまだにその役を自分が生きてみたかったという気持ちがあります」。

 不可能であることがより後悔を大きくしているが、その後悔が転じて演技への渇望に繋がる。

「作品作りには多くの時間がかかります。そこには一生のご縁があったり、大きな想いが残ったりする。でも数としてはどうしても一個。私自身役と真剣に向き合いたいタイプなのでインターバルは必要だし、体は一つしかないので同時に何作も掛け持ちをすると一つ一つのパフォーマンスが落ちるのでよくないとは思います。そう思ってはいるけれど、もっとたくさんの作品、沢山の役に出会いたいという気持ちは強いですし、そのすべてに応えたいとも思う」。

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 誰もが認める実力派は、生き急いでいるように見える。「毎日、いや毎秒、今だって焦っています」と松岡自身も認めるところだが、それは独りよがりな気持ちから生まれたものではなく、切磋琢磨する友人たちに刺激を受けて生じた気持ちでもあるようだ。「なぜ焦るのか?それは近くにいる友人たちのお仕事への姿勢が素晴らしいからです。例えば学生時代から仲のいい百田夏菜子朝日奈央。二人とたまに会って話したりすると、昔から何も変わっていないし、一つ一つの仕事を超大事にしているのがわかる。その姿はカッコいいし、分野は違えども私もそんな二人に置いていかれないよう、もっとガムシャラに頑張らなきゃと思うんです」。芸能界というサバイバルを生き抜く同志の姿が眩しい。

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 才能との再会もモチベーションを高める需要なガソリンだ。再共演となる主演の大泉に松岡は「たとえ現場の空気がピリッとしても、常にフラットに存在してくれる方。いつも優しく朗らか。皆さんがテレビを通して見ている大泉洋さんそのものです。またテレビ番組などで映画の宣伝活動をする中で、大泉さんが築き上げられてきた『水曜どうでしょう』の偉大さも感じました。お笑い芸人の皆さんがその話を聞きたがるので、バラエティが主戦場の方々からも大泉さんは眩しい存在なんだと実感しました」と再リスペクト。

 そして監督の吉田大八とは、松岡の出世作の一つ『桐島、部活やめるってよ』(2012)以来約8年ぶりの再タッグだ。「最後にお会いしたのは10代の最後くらい。吉田さんが携わった作品を観に行った帰りに偶然お会いして、ハンバーガーをごちそうになりました」と笑いつつ「それから一度もお会いできず、私がどんな人間になっているのかわからない中で今回のオファーをくださったわけですから、その理由を吉田監督に尋ねました。すると『これまでの作品を観ていればわかるよ』と…。私なりに1本1本誠心誠意頑張っていたのがちゃんと届いていたのかと思うと感慨深いです」としみじみ。

 与えられた仕事に対してガムシャラだった16歳当時。それから重ねたのは時間だけではなかった。「日々の芝居をこなすことに必死だったあのときとは違い、今回は作品全体のことも含めて吉田監督とお話することができました」と成長を自覚し「約8年を経て私も女優としてやっと地に足が着いたのかな?と感じることができました」と少しは自分のことを認める余裕も出てきた。誰もが認める実力派は、演じることに誰よりも真摯であろうとしている。

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テキスト:石井隼人

写真:You Ishii

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