「世界ダウン症デー」の3月21日、朝日新聞に掲載された大きな広告が話題になっている。実は、この広告は作家・エッセイストの岸田奈美さん個人によって出されたもの。
『人生は、少しずつ、少しずつ、大丈夫になってゆく。』
【映像】ダウン症の弟へ 朝日新聞に掲載された「世界ダウン症デー」の広告
岸田さんは、心臓病の後遺症で車いす生活になった母、高齢の祖母、そしてダウン症の弟・良太さんとの日々をnoteにつづってきた。
「1つ目はダウン症の弟のために。2つ目はダウン症の人たちとか家族にも喜んでもらえたら。3つ目は私のところに集まったノートのサポートのお金を使って、何かをしたいなと思ったから」
中学2年生のときに父を亡くした岸田さん。傍からみればとても複雑な家族構成だが、ユーモアあふれる軽妙な文章が注目を集め、岸田さんのnoteは多くの読者から支持されている。そんな家族に関する記事でサポートを受けて得たお金の使い道として考えたのが、新聞広告だった。
今回の広告について、弟・良太君はどのように思っているのだろうか。
「現物は今日郵送で届くのでまだ見ていないのですが、スマホで見ながら『これ俺やん』とか『うれしい』とか言っていました」（以下、岸田奈美さん）
岸田さんによると、今回の広告は良太さんや同じような境遇にある家族への思いが込められているという。
「少しずつ少しずつ大丈夫になっていくことが、本人にとっての当たり前になっていく。私たちにとっても当たり前（になっていく）。うまくしゃべれないとか、みんなと同じようにできないという弟が特別じゃない。私たちにとってはもうそれが当たり前。慣れちゃう」
「弟が『スイミングスクールに通いたい』と思って申し込んでも『ダウン症の方はコミュニケーションが難しいので無理です』と断られることがある。たまに『あ、私たち以外にとってはそうだよな。弟ってどれくらいコミュニケーションがとれるかわからないよな』と気づく。私たちはそばにいるから当たり前になっていくけれど、他の人にとっては特別なことが多い。落ち込みもするし、ちゃんと話してわかってもらわなきゃいけないと思う」
他の人より遅くても、少しずつできることが増えていく。それが弟・良太さんの当たり前だ。しかし、大変なことは「めちゃくちゃある」と話す。
「失敗もすごく多いし、泣いて怒っていても、それが何かわからない。でもずっと怒っているから、それを聞くのに丸1日2日かけたこともあった。『大変やな』とか『しんどいな』と思うこともあった。昔は障害のない兄弟がいる子と、比べたこともあった。でもそれがあるからこそ、うまくできたことはうれしいし、楽しい時間を共有できたら楽しい。そこを知ってほしくて、noteに楽しいことをいっぱい書いている。みんな、ダウン症の人と暮らす家族はわかってもらえないつらさと、自分だけがわかっているうれしさを一緒に抱えていると思う。私にとって弟とは、新しい視点をくれて、人生を豊かにしてくれる人です」
明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏は、実際に障害者の心理支援を行う中で「見聞きした情報と体験が違った」と明かす。
「私が本格的にダウン症の人と向き合ったのは大学生の頃。もちろんそれまで知識は学んでいたが、実際に長い時間触れ合うことはなかった。グループホームやご家庭の中で触れ合ってみて『これまでのイメージと全然違う』と思った。例えば、コミュニケーションが取れなかったり、なかなか言葉が出なかったりするのかなと思っていたが、個人差はあれどすごくユーモアがあったり、表情が豊かだった。もちろん、障害ならではの配慮が必要な場面もあるが、時間をともにすればするほど、どんな方なのかが分かって接し方が見えてくるという意味では、障害がない人と変わらないんだな、と思った」（以下、藤井靖氏）
その上で藤井氏は「ダウン症の人との情緒的交流は十分可能だ」と話す。
「何よりも交流する中で、ダウン症があるみなさんがすごく楽しそうで幸せそうにされている。授業で見聞きしたことと違う部分もあったし、体験して初めて知ったこともたくさんあった。そういう意味でも、タブー視せずに目を向けて欲しいし、もっとダウン症のことを知って、先入観からくるネガティブイメージが無くなっていってほしい」
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