心理学者「正論や理性に訴えるのは限界にきている」 2度目の緊急事態宣言解除で考えるべき“ファンセオリー”とは
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 新型コロナウイルス対策として1都3県に対して2カ月半にわたり出されていた緊急事態宣言が解除された。東京都の3月21日の新規感染者数は256人。東京都の2月、3月の感染者数は、2月21日からの1カ月間でみると横ばいか微増傾向となっている。

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 ANNが週末に行った世論調査によると、1都3県の緊急事態宣言解除について、「支持する」が38%、「支持しない」が49%、政府のコロナ対策については、「評価する」が36%、「評価しない」が47%という結果となった。

 2カ月半ぶりに緊急事態宣言が解除された状況で、国民の心理はどのように変化するのだろうか。明星大学心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖氏に見解を聞いた。

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「緊急事態宣言が発出されるタイミングで、『2度目は効果があるのか』と実効性に疑問符が付く向きもあった。そういうことからすると、解除されたとしても、あまり変わらないのではないか、と見ることもできる。しかし最近『(緊急事態)宣言が解除されたら〇〇に行こうかな』とか『誰々と会おうと思います』などという声もよく聞くようになった。その意味で言えば、全く生活や行動が変わらない人もいれば、一方で解除を基準にして行動範囲を拡大させる人も一定数いると思うので、感染の再拡大を考えないわけにはいかないと思う」

 先週から今週にかけては各学校も終業式を迎え、休みに入ると、これまでよりも行動が活発になることが懸念される。

「コロナ禍が長期間に渡っていることからくる慣れや疲れ、また感染者数が数千人というレベルではなくなっていることによる、根拠のない相対的な安心感、さらには学校の春休み、花見、年度末・年度始めの行事の存在と、心理的には感染拡大予防に対する意識が低くなる条件が揃っているという点は、心配な点だと思う」

 では、今後どのように対策していけばよいのか。

「一つ言えるのは、例えば感染再拡大の可能性を示したり、変異株の危険性を喚起するような、いわゆる正論とか理性に働きかけるような啓発は限界にきている部分があると思う。この段階から、人の行動を制御していくためには、意識の高低に関わらず意図通りになるような、“行動デザイン”の考え方や仕組みが必要では」

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 藤井氏は、一案として「ファン・セオリー」を提案する。

「ファンというのは『楽しい』の意味だが、人がやりたくなるような、感情に働きかける仕組み作りのこと。具体的には、各所に設置されているアルコール消毒液や検温をきちんとやると、その日の占いの結果が表示されたり、“大吉です”などとおみくじ風の音声が出る、あるいは何人かに1人に賞品が当たるなど、心理的報酬が伴うような仕組み作りをすることを考えてみてはどうか」

「あるいは電車や飲食店などで、意図せず他の人の近くに座ってしまって、ソーシャルディスタンスが保たれないこともある。その場合は座った瞬間、不正解のブザー音が鳴る。他には、エレベータ内の足型も慣れると日常の景色になってしまうが、正しく足を置けた場合は“’パチパチパチ”と拍手の音声が聞こえるなど、そういう仕組み作りは、人の行動を生起・維持させていくことを考えると、意外と安く済んで効果が高い、つまりコスパのいいものになるのではないか」

 手洗い、消毒、ソーシャルディスタンス……基本的で重要なことであっても、日々の生活の中でおざなりになってしまう懸念もある中、『小さな楽しみ』というご褒美を組み合わせる意義はありそうだ。

「日本はポイント大国。大きな金額ではなくても心理的報酬として機能すると思うし、スマホアプリと連動させて自動で貯まる仕組みもありえる。あるいは『1年間基本の予防行動をした人の中で1名に1億円が当たる』ことにする、など。いろんなアイデアや工夫があっていい」

 藤井氏によると、スウェーデンの公園に過去に設置された、“ファン・セオリー”を応用したゴミ箱(ゴミを投げ入れるとゴミがあたかも谷底に落ちていくかのような音が流れる)は、大量のゴミを集め、ポイ捨てを予防する効果があったという。

 最後に藤井氏は「この方法のメリットは、繰り返しできること。啓発や意識向上策に比べて、飽きや慣れが起こりにくいというのは、持続可能性が高く効果的な方法といえる。“楽しさ”が人々の行動のモチベーションを上げ、維持する。新型コロナウイルス感染拡大予防にこの考え方を応用できる可能性があるのでは」と訴えた。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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