「片目失明」、そして当事者たちの生活を支える「義眼」について、あなたはどれほど知っているだろうか。6日の『ABEMA Prime』では当事者たちに話を聞き、社会の理解や制度の課題について考えた。
■形や色、大きさはオーダーメイドで
目の形や色、大きさは人によって様々だ。義眼はそれらに合わせて精巧に作られている。「眼球を摘出されている方は厚みのある義眼、眼球が残っている人の場合は被せるような形の義眼になる。見た目を気にして伏し目がちに生活してきたけれども、これからは顔を上げて生活できるようになったし、気持ちも明るく前向きになれました、というような声を聞くこともあります」。
そう話すのは、義眼や関連製品の製造・販売を行う「カジヤマプロテーゼ」技術部の澁谷洋志さん。同社では付け心地はもちろん、見た目についても一人ひとりの要望に応えながら微調整を繰り返す。
当事者が発育過程にある場合、義眼には顔の左右差が広がらないようにする役割もあるという。「装用することで上まぶたの膨らみが回復し、まばたきができるようになります。まばたきの動きの左右差が少なくなることによって、眼窩周辺の刺激の左右差も少なくすることができます」。
■「“目がおかしくなかったら可愛かったのにね”と言われた」
YouTuberのぴぴるさんは先天的に右目が見えず、生後10カ月から義眼を装着してきた。過去には心無いことを言われたこともある。「男子に“目がおかしい奴なんか好きになるわけないじゃん”とか。女子からも、“目がおかしくなかったら可愛かったのにね”とか。心の傷として残っていますね」。
義眼であることを気づかれないようにしていた時期もあったというが、世の中の風潮を変えたいと、自ら情報発信をするようになった。「人と違うことに過剰に反応したり、少数派の人に対してマウントを取ったりするような風潮に疑問を抱いた。私は当たり前なのに何で隠さないといけないんだろう?って」。
YouTubeチャンネルでは“義眼少女”として、義眼の使い方やメイクを取り上げ、さらには片目が見えないと運転免許は取れないの?といった素朴な疑問にも答えている。
■「義眼によって、人と目を合わせて話すことができるようになった」
モデルやパーカッショニストとして活動する富田安紀子さんは、小学生の頃にぶどう膜炎・白内障との診断を受けた。視力が徐々に低下、黒板の文字を双眼鏡で見ていた時期もあったという。手術を受け、右目は見えるようになったが、左目は回復することなく、26歳で失明した。
「左右で目の色が違う、大きさが違う。あっちを見たいのに、左目が置いてきぼりになる。めちゃくちゃコンプレックスだった。だから左目は前髪で見せないようにしたり」。そんな中で出会ったのが義眼だった。「鏡を見て、自分でも“めっちゃ可愛いやん!こんなに変わるんや!”って。人と目を合わせて話すことができるようになったので、人生が変わりました」。
友人にも恵まれた。「人と見た目が違うこと、どんどん見えなくなっていくという恐怖心から、ネガティブな性格でした。でも、そういうことを忘れるくらい、私と向き合ってくれた友達ができました。ご飯食べに行った時にメニュー表が見えないとわかると読み上げてくれたり。それから、私は瞳孔が癒着しているので、明るいところ、暗いところが見えにくい。そういうところを歩いている時、その友達は何も言わずに手を繋いで一緒に歩いてくれました。信頼関係があるので、私が転ぶと“大丈夫?”と深刻に捉えず、“また転んだね”と言って笑いに変えてくれる。だから私も、目が悪くてもいいんだと考えられるようになりました」。
買い物など、日常生活には様々な苦労もつきまとう。右目の視力低下も進行している。「今のうちに色々な景色を見て、色々な経験をして、後悔なく“見える世界“を終わりたいなと思っています。そうやって“心の目”を育てられれば、怖くないかなと思って」。介護福祉士として働く傍ら、ラジオや講演会などを通じて、当事者としての思いを伝えてきた。この春からは地元・岐阜県を出て上京、芸能活動を通じて、自身の思いを発信していく。
■「普通に生活できるし、いいじゃないか」と言われた
こうした状況をテクノロジーで解決しようという動きや、再生医療の研究への期待もある。富田さんは「できれば右目は失明したくないし、自分の子どもも孫の顔を見たい。私も色々な治療を試してきた。今は免疫抑制治療といって、免疫を抑える注射を自分のお腹に2週間に1回打ち、進行を遅らせている」と話した。
他方、行政による支援は進んでいないようだ。「NPO片目失明者友の会」代表の久山公明さんは左目を失明しているが、右目の矯正視力が0.7以上あるために、障害者として認められていない。
「片目が見えないことによって、遠近感、距離感が全くつかめない。ちょっとした段差とかでも躓いてしまったり、車を運転している時にも、白い線を見ながら真剣に走ったり。そうやって片目を酷使するので、肩こりや偏頭痛もあるし、視力が落ちてきて真っ暗闇の生活になるのではないかと不安だ。ところが障害者認定の申請をしても、片方が0.7以上見えるなら普通に生活できるし、いいじゃないか、0.7以上見えればメガネを装用していない人もいる、といった答えしか返ってこない。障害者として認定してもらえないことで様々な恩恵が受けられず、日常生活に不便を感じている」。
久山さんたちは基準の見直しを求める署名を厚労省に提出、調査・研究も始まっているというが、このままでは状況の改善は難しいのではないかと感じているという。「生活の中で得る情報の80%以上は目からのものだと言われている。それだけ目というのは重要だ。だから“普通に生活できるからいいじゃないか”という単純な考え方で済まさず、もっと真剣に補助をしてあげないといけないんだなと考えてほしい」。
■佐々木俊尚氏「なんとも言えない厄介さ、なかなか伝わらない」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「僕は片耳失調で、右耳が全く聞こえない。ただ、障害や病気があることが恥ずかしいという雰囲気は前よりも無くなってきていて、僕も耳のことをTwitterで話題にすると、“私もです”などのリプライがすぐに寄せられる。目が見えない、耳が聞こえない、あるいは持病があるといったことを公表し、悩みを持つ人同士がSNSで繋がって生きていけば認められるということがようやくわかってきたということだと思う」と話す。
「一方で、片耳失調では障害者認定を取れない。片目失明の方々と同様、一見しただけでは分からないだろうが、右側から喋られると聞こえないとか、居酒屋のような場所では話が聞き取りにくいとか、細かな不便は山ほどある。そういう、なんとも言えない厄介さというのはなかなか伝わらないものだ。働いている人の3分の1がなんかの病気を抱えているという統計もある一方、日本社会は見た目が同じとか、健常者でなければならないといった圧力が強い。だから普通だというフリをして生きなければならない。その点、僕が一緒に仕事をしている製薬会社のヤンセンファーマでは、ワークライフバランスならぬ“ワークシックバランス”、働くことと病気を両立させようというキャンペーンを実施している。
そして技術の進化だ。義眼に限らず、義手や義足なども、あくまでも障害者を補助するためのものであるという前提で作られているのでマーケットが狭く、値段が高い。しかし義足の方が走るのが速くなるといった世界、あるいは義眼を装着することでARのようなものが利用できるといった世界ができてくれば一般の人に普及し、値段も下がってくる。もしかすると、そういう未来も期待できるのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)