UFCで前人未到の11回連続防衛、「歴代パウンド・フォー・パウンド最強」を誇ったデメトリアス・ジョンソンがキャリア初のKO負けを喫し、ファンの間に衝撃が走った。プロ格闘家として13年11カ月、5094日、一度も倒されなかった男をノックアウトしたのは、UFCにはない“グラウンドでのヒザ攻撃”だった。
4月8日にシンガポールで開催されたONE Championship「ONE ON TNT I」。ONEフライ級王者のアドリアーノ・モラエス(ブラジル)に挑んだ元UFCフライ級王者・デメトリアス・ジョンソン(アメリカ)が、2ラウンド、モラエスの右アッパーとグラウンドのヒザ攻撃で衝撃の初KO負けを喫した。まさかの結末に「事件が起きました!」と実況が絶叫すると、一時ネットも騒然となった。
2019年にジェへ・ユスターキーとのダイレクトリマッチを制して3度目の王者になったモラエスは、この試合がじつ2年2カ月ぶりの試合。決戦の地、シンガポールへの入国が遅れるなど不安要素を抱えての防衛戦となった。一方、UFCから移籍して2年、フライ級トーナメントでは若松佑弥や和田竜光といった2人の日本人ファイターを下し、決勝ではダニー・キンガドを攻略してきたジョンソンにとっては待望のタイトル挑戦だ。
第1ラウンド、距離を探りながら速い攻撃で相手の出方をうかがうジョンソンに対して、モラエスは下がりながら足を使って冷静に対処。グラップラーとして実績の高いモラエスが蹴りをキャッチすると、引き込んで足関節へ…と思いきや、アキレス腱をおとりにテイクダウンを奪う技ありの攻防。モラエスがジョンソンを完全にコントロールしてラウンドを終える。ABEMAでゲスト解説を務め、ジョンソンとの対戦経験がある和田竜光は「(DJは)トップを取られても立たれたりシーンを早めに作るのが得意ですが、(モラエスは)トップに居続けたのでコントロール力が凄い」とモラエスを絶賛した。
2ラウンド、寝技の攻防で自信を深めたモラエスは打撃でも積極性を見せる。足を使いながら長い距離からのカーフキック、ジョンソンの速い打撃にも徐々に対応し、下がりながら攻撃をかわしていく。この状況に同じく解説を務めた青木真也は「ONEのケージは広いのでこうなると捕まらない」とコメント。ケージを広く使うモラエスのジョンソンに的を絞らせない作戦を指摘すると、直後にその“DJ攻略法”が功を奏することに。
下がるモラエスにしびれを切らしたジョンソンが間を詰めたところにカウンターぎみのヒザ。さらにモラエスがカウンターの右アッパーを入れると、ジョンソンが後ろに倒れ込む。すぐさま上を取ったモラエスが、グラウンドからヒザを打ち込むとジョンソンの頭が大きく揺れ、鈍い音と共にパウンドの連打が打ち込まれると、レフェリーが割って入り試合をストップした。
ジョンソンのキャリア初となるKO負けを目の当たりしたことで放送席も騒然。実況の西達彦アナウンサーは「DJがまさかの敗北! アッパーからONE独自のグラウンドのヒザ、そして最後はパウンドアウト。事件が起きました!」と絶叫。視聴者も「マジかよ…」「時代が変わった」と絶句する声が続く。なかには「ATT恐るべし…」とモラエス陣営の緻密な戦略を称賛する声も上がった。
モラエスはアメリカン・トップチーム(ATT)に所属している。年末に堀口恭司が朝倉海を、ダスティン・ポイエーがコナー・マクレガーをカーフキックで攻略した際もATTの優れた戦術が勝因に挙げられたが、ジョンソンを倒したことでATTのチーム戦術にさらに注目が集まりそうだ。
衝撃のKO敗けを喫したジョンソンは、試合後に「長く格闘技をやっていれば、いつかこういう日が必ず来るのはわかっていたことだよ。また戻ってくるよ、これもまたゲームのひとつだろ? やられた試合をまた見直すよ」などと話し、再起を誓っていた。