「誰といるときとはこうとか、みんなでいるときはこうとか。それぞれに対する反応は違う」1つの役を通して、人には様々な表情があると改めて感じさせてくれる俳優がいる。成田凌の生み出すキャラクターはリアリティの塊だ。
映画『くれなずめ』が4月29日(木・祝)より公開される。メガホンをとったのは、ドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズや映画『アズミ・ハルコは行方不明』 『アイスと雨音』など手掛けた松居大悟監督。同作は松居監督の実体験をモチーフに書かれた舞台劇を映画化したもので、友人の結婚式で余興を披露するために久々に集まった高校時代の旧友たちの、結婚式の“披露宴から二次会までの狭間”を描く。成田は同作で、友人グループの中で存在感は薄いが、いるとホッとする、愛されキャラの主人公・吉尾を演じている。
念願だった松居組への参加
「単純に面白かった」という脚本は、男同士の友情を描きつつも内輪ネタになってないのがいいと成田は言う。
「お話をいただいて脚本を読んだときはこれは最高だなと思いました。それで舞台を見に行かせていただいて、その帰りに松居さんに初めて会って返事をさせていただきました。男同士がワーワーやっていると、どうしても内輪っぽくなっちゃって寒くなってしまうこともあると思うんですけど、それは松居さんの力でちゃんと誰が見ても面白くなっている。最初から最後まで緊張感がありながらも、すごくはしゃぐシーンがあって、はしゃげばはしゃぐほど後々響いてくる作品だと思います」
実は、かねてより松居監督の作品に興味があったという成田。過去には、クリープハイプのボーカル・尾崎世界観を通してラブコールを送り断られた経験があった。
「クリープハイプの尾崎世界観さんと飲んでいるときに、『MV最高ですね』って話をしていて、それを撮っていたのが松居さんだったので『監督の作品に出たいんです』って話をしたら伝えてくれたんですけど、松居さんから返信が来て『(成田のことを)知らない』だったんですよ。だからもっと有名になって知ってもらいたい、いつか出たいと思っていました。この話を松居さんにしたら笑ってました(笑)」
現場での松居監督には全幅の信頼。「この作品はずっと6人がメインの話ですけど、松居さんは7人目という感じでずっと一緒にいてくれました。俳優部に近い目線でいてくれたので、全キャストが松居さんのことを信頼していたと思います。結婚式の余興で赤フン(赤いふんどし)で踊るシーンは、監督まで赤フンで見守ってくれました」と振り返った。
高良健吾、若葉竜也…同世代の実力派俳優たちとの共演に「最高だー!」
同作には、成田のほかにも日本映画界を引っ張っていくであろう実力派若手俳優が数多く出演。高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、前田敦子といった個性的な顔ぶれが揃った。事前に松居監督からキャスティングの話を聞いていたという成田は「最高だー!と思いました。キャスティングでこの映画全てが決まるとは過言ではないと思っていたので、すごく嬉しかった」とそのときの喜びを語る。
その中でも中心に立つ主演として意識したことについて尋ねると「大人のレーダーを働かせました。メリハリは大切にしていました。」と、男6人で和気藹々とした現場の中でも締めるとこは締めたと説明。「一緒にいる時間を作ることを意識していたので、リハーサル終わりでご飯に誘ったりもしました」と、リアルな友達同士の空気を作ったといい、そうして出来上がった作品には「男あるあるが詰まっていて、気付いたら口角が上がっていました。ニヤニヤ。みんな楽しそうだなって(観ました)」と満足げだ。
「きっと本人役の方が難しい」
様々な役を演じてきた成田だが、彼の演技は常に「自分の周りにもこんな人いた気がする」と思わせてくれる。およそ1時間半の物語の中でも、「友達グループの中でも、誰といるときとはこうとか、みんなでいるときはこうとか。それぞれに対する反応も違う」と変化をつけており、それが吉尾という人間のリアルさを生んでいる。しかし、これは意識的にしたわけではなく、素直に脚本を消化したのみ。「役作りは何も意識しないです。脚本に書いてあるので。逆に自分を持っていくことができない」と成田は語る。
「きっと本人・成田凌役の方が難しいと思います。どういう風にしていいかわからない。自分は素だけど、セリフがあるというのが難しいです。頭の中で、どういう気持ちでこのセリフがあるんだろうって疑問が増えてしまうと思います」
カットがかかると完全に“素の成田凌”に。NHK連続テレビ小説「おちょやん」で成田演じる一平が父・天海天海(あまみ てんかい)の名を襲名。その襲名披露の場で観客に感謝を述べ、亡き父の法要でのエピソードを披露、さらに結婚報告をするというシーンがある。かなりの長台詞だが、そのシーンについても「直前まで共演者さんと話していました」とのこと。芝居が終わると仕事のことは何も考えないようにしてるといい、「本当、何者でもなくなるんです(笑)」と苦笑まじりに教えてくれた。
取材・文:堤茜子
写真:You Ishii