3ラウンド15分――互いの気持ちの強さと技術をぶつけ合う激闘。試合後に敗者が勝者を拍手で祝福し、ともに健闘を称え合う清々しい光景が印象的だった。
4月22日に放送されたONE Chanpionship「ONE On TNT III」。リース・マクラーレン(オーストラリア)と若松佑弥の上位ランカー同士の対戦は、若松が3-0判定勝ちで勝利。若松が力を入れてきた寝技の成果を、名グラップラーとの競い合いで証明してみせた。また全力を出し切った両者が互いを称え合う美しいエンディングにファンからも「気持ちのいい試合だった」「友情が生まれる試合」など称賛の声が多数寄せられた。
若松にとってタイトルに向け極めて重要な試合だ。元UFCフライ級の絶対王者・デメトリアス・ジョンソンに挑むも敗戦。遠のいたタイトル挑戦権を一から積み上げて3連勝。試合前から寝技の強化に手応えを感じ、「勝って早くタイトル挑戦へ」と発言するなど、強い気持ちをもって臨んだ一戦と言える。しかし、対戦相手のマクラーレンはコロナ禍の空白期間に得意のグラップリングに加え、ストライカーとしての才能も開花。昨年10月の大会では打撃ベースの攻撃とヒザで相手を沈め驚かせている。
試合開始から強打を振るう若松は相手のタックルにも素早く反応してこれを回避。さらに組合いの離れ際でヒジを落とすなど抜け目がない。組みの攻防でも、足を刈りテイクダウンに成功。下からしつこく絡みつく相手に、パウンドとヒジを叩き込み仕事をさせない。ラウンド最終盤、スウィープから上になったマクラーレンのヒジの連打からバックをとられヒヤリとする場面はあったものの、相手のフィールドで互角に渡り合いラウンドを終える。
2ラウンド、“グラップリングのマクラーレン”の真骨頂。低い片足タックルから素早くバックにまわり、下から三角締めと素早い攻め。ここも若松は冷静に立ち上がり上から強いパウンドを連打。スタンドでは若松が至近距離で離れ際のヒジ、続いてワンツーを当てると効いたマクラーレンは、打ち合いよりもタックルを選択。執拗なバックからの締め、さらに下からのスウィープを仕掛けるが、これにも若松が対処し相手の得意の形を摘んでいく。
最終3ラウンド、開始とともに若松がワンツーを当てマクラーレンがニヤリと笑みを浮かべる場面も。確実にダメージはあるはずだが、低く組んで若松をケージに押し付けていく。この日のABEMAのゲスト解説・岡見勇信も「流れを止めないで、寝技も(スタンドも)どんどん展開を作っていく」と語り、解説の大沢ケンジも「この頑張りを見ると嫌いになれない。本当に凄いしやり切る」とマクラーレンの粘り強い戦いぶりに心を動かされた様子だ。
両者スタミナも重要になる試合終盤で再び打撃戦へ。やや疲れの表情を見せたマクラーレンへ若松が右のカーフキック、ワンツー。さらに左のカーフ、左のストレートとテンポよく当てる。打撃戦を嫌ったマクラーレンが片足タックルを狙うが、ここは鉄槌で回避。ケージに押し込むだけになった相手に、残り1分の攻防で若松が左ハイキック。マクラーレンの低空タックルに対してはヒザの連打で崩してパウンド。最後も左右のパンチを当てここで試合終了となった。
終始激しい攻防を展開し、死闘を戦い抜いた両者。解説陣の「これは友情が生まれますね」の言葉どおり、試合が終わると互いにハグをしながら健闘を称え合いガッチリと握手。そんな両者の戦いにファンからは「気持ちのいい試合」「どちらも良い選手」「若松の最高の試合」といった称賛コメントが。
判定は3-0で若松の完勝となり、敗戦のショックか激闘の疲れか、ガックリ肩を落としマットに座りこむマクラーレンの姿も印象的だったが、勝ち名乗りを前に対戦相手のマクラーレンが若松を指差し、負けを認めたポーズ。さらに小さく拍手をして勝者を祝福。敗れても潔いマクラーレンの振る舞いに「判定前から若松を指さしていたな」「こんなに気持ちいい選手だとは思わなかった」とフェアプレイ精神を称える声が聞かれた。
マクラーレンは試合後、大きく息をつきながら「若松の速さに脱帽した。負けてガッカリしているよ」とうつむきながらコメント。一方、若松は「(コロナ禍の期間も)グラップリングとかレスリングもずっとやっていて、やっと成果を見せる機会になった」と語り「(マクラーレンは)負けられない気持ちの強さが表れていて、3ラウンドはグランドのヒザで落ちかけているのに、それでも動いて立ち上がってきました」と最後まで諦めないマクラーレンの心の強さを称賛した。