子どもの婚約が破談、進学や就職に支障も…“連帯責任”の日本社会に苦しむ犯罪加害者家族と支援者たち
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 「聞いたとき、まさに“全てがガラガラと音を立てて崩れて落ちていく”という表現が当てはまるような衝撃でした。最初は冤罪だとか、何かとばっちりを受けたんだとか、何かの間違いではないかという思いでした」。

・【映像】犯罪加害者家族の苦悩 “制裁と孤独” 支援の在り方は

​​​​​​​ シンリさん(仮名、40代)は、現職の警察官だった夫が性犯罪で逮捕された経験を持っている。かつては自身も警察官だった経験から、「逮捕を知らせる刑事課長からの電話を受けた時、実名報道をされるかどうかが心配だったので、確認しました」。

 「予想通り、“する”との回答だったので、大変なことになったと感じました。両親、そして夫の両親に報告し、“私のせいで息子さんを犯罪者にしてしまった”というような“お詫び”の言葉を添えた記憶があります。それから子どもたちを集め“お父さんが逮捕されてしまった”という話をし、“これから色々なことがあると思うけど、あなたたちは何も悪くないから、もし何か言われたらママに言いなさい”というようなことを伝えたと思います。そして夫が逮捕・勾留されている警察署に出向き、刑事課長に“妻として監督不行届だった故にこういったことを起こしてしまった”とお詫びを申し上げました」。

■「子どもたちは学校でからかわれ、自分のブログには誹謗中傷も」

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 実名が報じられることによって、近隣住民の間でもすぐに噂になってしまうだろうと予想していたシンリさん。その前に自ら子どもたちに伝えることを決断したが、やはり学校でからかわれるなどの被害に遭ってしまったという。

 仕事の集客のために実名で更新していたブログには誹謗中傷も寄せられた。「“犯人の奥さんはこの人です”みたいな感じでブログのリンクを貼られ、“奥さんが年上だったから不満だったのかな”など、性生活のことについてネタのように書かれることもありました。もう、商売どころじゃなくなりました」。

 さらに所属していたコミュニティの仲間からも、「シンリさんも同罪」「夫が罪を犯したら土下座するのが当たり前」といった心無い言葉、さらには自身に関わらないよう指示が回ることさえあったという。

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 それでも「現職の警察官であれば実名で報道されるものだという認識があったので、止むを得ないと思っていましたし、加害者家族としては責任の一端があると感じていたので、“声を上げる”という考えも浮かびませんでした。精神的な孤独や苦労、不安でいっぱいでしたが、気持ちを聞いてくれる人もいません。生きていく自信もありませんでしたが、子どもたちを育てていくのは私しかいないという思いだけで走り続けてきたような感覚があります」。

 その後、夫の再犯をきっかけに離婚したシンリさん。「唯一、心に染みたのが、“あなたは悪くない”という救いの言葉でした。今も渦中で苦しんでらっしゃる方もいると思いますが、人生を諦めず、必ず道は開けるという希望を持って頑張っていただきたいなというふうに思っている」と絞り出した。

■「弟のことを知っている以上、やっぱり見捨てることはできない」

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 ようこさん(仮名・大学生)は、高校生だった弟が女性用トイレで盗撮を行った疑いで逮捕された。

 「普段帰ってくる時間になっても帰って来ないので、家族で話をしていたら、実は逮捕されていました。まさか、あんな優しい弟が、と驚きました。性犯罪者というのは理解し得ない“異物”みたいなイメージがあったので。なかなか受け入れられませんでしたが、幼い頃から一緒にいた私も性格形成に少なからず関わっていると考えると、“犯罪者を作り出してしまったのか”なという責任も感じました」。

 葛藤を抱える娘を見かねた母親からは「“そんなに辛い思いをするくらいなら、弟と縁を切って自由に生きてもいいんだよ”と言われました。だけど、心優しい弟のことを知っている以上、やっぱり見捨てることはできないし、どっちかが死ぬまで支え合っていきたいと…。ただ、これから実名報道をされるかもしれない。そうなったら、私たちの苗字はすごく珍しいので、わかってしまうと思います。就職とか結婚とか、どうなるのかと不安があります」。

■「婚約が破談になったり、進学や就職を諦めるといった深刻なケースもある」

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 このような悩みを抱える加害者家族たちの支援を行っているのが、NPO法人「ワールド・オープンハート」理事長の阿部恭子さんだ。大学院で被害者家族の研究をしている過程で、加害者家族たちが制度の網からこぼれ落ちていると知ったという。

 「日本に比べて犯罪者が多い欧米では、まず加害者本人への支援が普及していいて、そこに家族もカバーする仕組みが含まれていたりする。やはり出所後に家族を支える制度がないと家族が壊れ、罪を犯した人が社会復帰する土壌がなくなってしまう。そこで受刑者が多い国では、長期の受刑生活を送った元受刑者と家族の断絶を防ぐためのサポートも非常に盛んだ」。

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 阿部さんが海外の事例を参考に支援活動を始めたところ、全国から問い合わせの電話が殺到。今も年間300件ほどの相談を受けている。ただ、阿部さんたちのような加害者家族支援を行う団体は未だ日本に3つしかないというのが現実だ。

 「やはり実名報道をされてしまった場合、生活が一変して家族は外出をするのも困難になってしまう。統計では自殺を考える人が多いという結果が出ているが、やはり私たちのところにも“家族が逮捕されました。死にたい”“世間に顔向けできない”と訴える方が非常に多い。また、お子さんの場合、婚約が破談になったり、進学や就職を諦めるといった深刻なケースもある。それでも“自分も加害者だ”“自分のせいでこういうことになった”“止められなかった”と思い込み、“どんなに追い込まれても助けを求めてはいけないんじゃないか”と考えているケースが非常に多い。また、どこに相談したらいいかも分からず、一人で抱え込んでしまっている方も多い」。

■「批判に対しては、本人と加害者とは別人格だと申し上げるようにしている」

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 米コロラド州出身のパックンは「アメリカでは前科のある方が身内にいる割合が45%、黒人になると60%を超えている。だからこそ加害者本人と加害者家族とを切り離して考えるメンタリティがあるし、自助グループやカウンセリングなどのサポートも発達している。周囲が加害者家族を見る目も日本とは違うのはそのためだ。一方で、被害者や、その家族のことも常に念頭に入れておかないと、議論のバランスが悪くなる。特に日本には連帯責任、集団主義が深く根付いていると思うし、“加害者をかばうのか”と言われることもあるのではないか」と阿部さんに尋ねた。

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 阿部さんは「テキサス州で開催された加害者家族の集いに参加した時に感じたのは、ご両親が“僕の子どもは死刑囚で、今刑務所にいる”というようなカミングアウトをすることに躊躇がないということだった。また、海外では加害者家族がマスコミのインタビューに顔出しで出てくる。もちろん“育て方が悪かったのではないか”といった批判をされることはあるだろうが、やはり家族が重罪を犯したということを公表しても社会的な地位を奪われるということがないからこそ、加害者家族の存在が可視化されているのだと思う。

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 実際、この活動を10年以上にわたって続けてきて感じていることは、加害者家族の支援はハードルが高いということ。公的な支援がないということはもちろん、“加害者家族をかばうのか”“被害者こそ支援すべきではないのか”という批判も受ける。支援にあたっては、まずそこを覚悟しなくてはならない。そういう時、私は本人と加害者とは別人格だと申し上げることにしている。欧米に比べて犯罪者自体が少ない日本では、加害者家族の問題そのものに関心がある方が少ない。そこをきちんと伝え、社会で問題を共有するということ重要だと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

犯罪加害者家族の苦悩 “制裁と孤独” 支援の在り方は
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