“LGBT法案”への「差別禁止」明示めぐり議論、与野党議員に聞く 「『差別は許されない』という言葉だけでは救済されない」当事者の現状
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 超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」。2015年の設立以降、「LGBT」の人々が生活の中で抱える課題について議論してきた。

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 その議論がいま、大詰めを迎えている。自民党はLGBTへの理解を促進するため、学校などでの知識普及や相談体制などの整備を目指す法案の提出を検討。一方で、立憲民主党は差別解消を掲げ、行政機関や事業者が差別的扱いをすることを禁止するなどとした法案をすでに提出している。

 自民党は野党側に譲歩し、差別禁止の規定を盛り込まないものの、法律の目的に「差別は許されないものであるとの認識の下」との文言を加えた修正案を示した。しかし野党側は、LGBTを理由に「何人も差別してはならない」と差別禁止を明確に盛り込んだ修正案を示したため溝は埋まらず、協議はまとまらなかった。

 協議は14日にも再度行われる予定だが、与野党協議を担当する自民党・稲田朋美議員と立憲民主党・西村智奈美議員双方に現在の考えを聞いた。

 野党側が目指すポイントについて、西村議員は次のように話す。

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 「現に学校で性的指向や性自認に関するいじめ、あるいは就職雇用の面での様々な差別、そして病院などで同性のパートナーが病の床にあるにも関わらず、ドクターから病状の話が聞けないといった様々な問題が発生している。現に起きているそういった問題を解決するために、私たちはこの再修正案というところで、ひとつには差別解消のための具体的な措置を取ることができるようにということで、『差別をしない』ということを明確にうたいたいと思っている」

 また、現在各自治体で進んでいるパートナーシップ制度の導入など、地方公共団体の施策を妨げないことを明示する修正も求めている野党側。しかし、「法案の修正は非常に厳しい。ギリギリの線を出している」と主張するのが自民党の稲田議員だ。

 「(『差別の禁止』の文言は)こちらから出している修正案の中にも、差別が許されないものであるという認識の下に理解増進を進めていくというところで、しっかりその前提ということは書き込んでいる。(『努力義務にとどまっている理由』は)この法律案を作る過程において議論をして、努力義務を課すというところをしっかりと書いたということ。この法律にいろいろなご意見はある。ただ、新たな分野における理解増進法ということで、どこまで法律に書き込むか議論してここまできた。現時点において、自民党としてはここまでが本当に党としてまとめることができるところだということでご理解をいただきたい」

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 また野党が求める、地方公共団体の施策を妨げないことを明示する修正については次のような見方を示した。

 「こちらから出している法律の要綱、法律案についても、自治体のいろいろな取り組みを妨げないのは当然のこと。そういうこと自体、法律の中に書くというのはいかがなものかなと思う。というのは、自治体の活動、地方自治の中で、しっかり憲法・法律のもとで活動するものだからだ」

 お互い、性的少数者への理解を増進し、差別をなくしていきたいとしている点では一致。14日の協議までに与野党間での調整を進めていくということだ。

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 「自民党案の方も、修正案の中で『差別』という言葉は入れることにしてくれて、差別があってはならないという認識があるということは明らかにしてくれた。これは前進だと思っている。しかし、その認識の下で、現に起きているいじめや差別などをどう解消するかという具体的な策が実は全く含まれていない。一番身近な生活のところ、自治体での取り組みが非常に重要で、そこの取り組みをもっと進めていく、そのための条文が残念ながら修正の中でも足りてないというふうに私はみている」(西村議員)

 「まずこの法律は国民の皆さまの理解を増進する。当事者の皆さんを理解するというだけじゃなくて、この問題の持つ意味、重要性、現にある偏見や差別というもの。また、どこまでが差別になるのか、内容がどうなのか、国際社会における取り組みなど、いろいろなことをしっかりと検証していかなければいけない課題。その意味でも政府の中に機関ができて、当事者の皆さんの意見を聞く場、要望していただける場所があって、政府が調査をして計画も立てるということで非常に画期的な法案だと思っている」(稲田議員)

■「『差別は許されない』という言葉だけでは実際の被害から救済されない」

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 LGBT法案に対して当事者が求めることについて、自身がゲイであることを公表して活動する一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは「『差別は許されない』という言葉だけでは実際の被害から救済されない」とした上で次のように話す。

 「LGBT理解増進法案では寛容な社会をうたっているが、可哀想な人を理解してあげようではなくて、LGBTQもそうでない人も平等に扱ってほしいということを求めている。稲田議員は地方の施策を妨げないのは当然と言っているが、法律は明記しない限り守られることはない。実際にパートナーシップ制度は30ほどの自治体に広がっていて、差別禁止が条例で取り組まれているにも関わらず、自民党は同性婚に対して反対の立場だったり、パートナーシップ制度に反対しているところも地方ではある。結局、法律を元に地方自治体は様々な施策を進めていくので、法律に書いていないために『理解ぐらいでいいでしょう』と阻害要因になる可能性がある。その懸念を払拭する意味でも『差別禁止』と明記することが必要だと思っている」

 こうした法案が「同性婚」の容認につながるとの議論もある。

 「差別禁止を入れたくないという理由のひとつに、差別的取扱いには同性婚ができないことも入るからではないかという声が聞こえる。ただ、差別禁止が法律に盛り込まれたとしても、同性婚を認めるためには民法の改正などが必要になり、直接的につながるというわけではない。少なくとも、婚姻や医療、教育、就労など様々な現場で差別的取扱いが起きているので、当事者をしっかり守る、被害が起きたら救済される、差別が何かをきちんと示すことが最低限重要だと思っている。80以上の国で性的マイノリティーに関する差別禁止が法律で整備されている中、日本が今法律を作るという時に『理解の増進』ではなく『差別禁止』を明記してほしい」

 一方、東京工業大学准教授の西田亮介氏は「世の中の規範を変えていくこと」で法案の着地点も変わってくるだろうとの見方を示した。

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 「(与野党)どちらの案も現状から少し前に進めていこうという法律ではある。違いは1歩進めるのか3歩進めるのかと例えることもできそうだ。パートナーシップ制度といった条例の制定は各自治体に委ねられ、全国への普及にはかなり時間がかかる。立法をすれば、全国で一気に進めることができる。具体化すると、直感的には、自民党案は理解増進のための普及啓発を中心とした施策になり、野党案はより強く差別解消の施策の実施を求めていくものに繋がりそうだ。後者の場合、各自治体や行政からより具体的な形で差別禁止の施策が出てくるのではないか。

 実際に起きている差別を、立法を通じて全国でどのように解消していくのかといった時に、やや自民党案は弱い。ただ、自民党が保守政党で、LGBTQ問題に及び腰であることを鑑みると、5年かけてこの内容でならなんとかまとめられたともいえそうだ。世の中の雰囲気や認識、機運、規範が変わっていけば当然、法の解釈も変化するし、立法事実も変化する。男女共同参画や夫婦別姓を見てもそれらが変われば、自民党内での受け止め方も変化する。今回の法案の行方も含め、LGBT差別を巡る世の中の規範を変えることが重要だ」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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