アメリカでは、アジア系の住民を狙った憎悪犯罪(=ヘイトクライム)が今年に入って急増している。その背景には何があるのか、ANNニューヨーク支局の猪ノ口克司朗記者が解説する。
ニューヨークのタイムズスクエア近くで2日夜、台湾系の女性がハンマーで殴られ、額を7針縫うけがをした。女性はヘイトクライムを警戒し、友人に駅まで見送ってもらっていたところだった。被害に遭った女性は台湾に戻ることを決めたという。
猪ノ口記者は「最近の多くの事件に共通しているのは、人目につかない裏通りのような場所に連れ込まれて被害に遭うのではなくて、人通りの多い場所、ましてや公衆の面前でも事件が多発しているということ。(台湾系の)この女性もヘイトクライムを警戒して友人と2人で歩いていたのに襲われた。容疑者の黒人の女はハンマーを持っていて計画的だとみられているし、映像を見ても執拗に襲っていることから、警戒しても防ぎようのない状況になってきている」と話す。
アジア系へのヘイトクライム事件で、ニューヨークで逮捕された容疑者は黒人が11人、ヒスパニック系が7人、白人が2人。黒人の割合が多いが、猪ノ口記者は黒人が受けてきた差別の根深さをあげる。
「“Black Lives Matter”のデモを何度も取材してきたが、黒人が受けてきた差別は非常に根深い。私がニューヨークで生活している中では、アジア系に対してフレンドリーで、多様性を大事にしている黒人の方は非常に多い。実際にアジア系住民の抗議集会には黒人の参加者もいて、黒人の命を守るだけでなくどんな差別も撤廃すべきだと訴えている人もいる。ヘイトクライムが多発しているのはニューヨークやカリフォルニア州といった大都市圏で、人口が多く、新型コロナウイルスの被害を大きく受けた街でもある。特に貧困層はサービス業に従事している方が多いので、現場に出なければならず感染リスクが高い。さらに、経済的なダメージも受けている。コロナで格差が広がって、苦しい生活状況に追い込まれた黒人の貧困層も多い中で、やり場のない怒りを犯罪に向けた一部の容疑者がいるのでは。ニューヨークではホームレスが増えているが、生活に困窮しているような黒人の母数が多いだけに、容疑者の数も結果的に多くなっていると感じる」
そうした中、猪ノ口記者自身も生活面はかなり気をつけているという。「私自身被害に遭ったことはないが、いつどこで襲われるかわからないという恐怖心を持って外出している。最近はワクチン接種も進んで街が明るくなり、外出しやすくなってきている一方で、ヘイトクライムへの危機感は拭えない。地下鉄に乗る時は夜の時間帯は避けているし、ホームから線路に突き落とされるような事件も起きているので、壁を背にして立つようにしている」と明かした。