いまだ感染の収束が見えない新型コロナウイルス。そんな中、感染防止対策への理解を深めてもらうために力を借りたものの一つが、日本が世界に誇る漫画だ。厚生労働省は『はたらく細胞』とコラボ、ウイルスの特徴や3密回避などの情報を発信している。
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そんなコロナ禍による巣ごもり需要、ささには『鬼滅の刃』効果もあり、昨年の漫画の売上は25年ぶりに過去最高を更新。しかし漫画ソムリエの兎来栄寿(とらいえいす)氏は、好況を後押しする要素は他にもあったと話す。
それが無料で読むことのできるWEB漫画、さらにウェブや漫画アプリ市場の盛り上がりだ。「僕が見ているアプリだけでも100個近くある」。こうした環境の変化は、読者だけでなく、漫画家にとっても新たなチャンスを生み出している。
■ウェブや漫画アプリ時代のメリット・デメリットとは?
『左ききのエレン』の作者、かっぴーさんは、会社員時代にTwitterやnoteに趣味で投稿していたWEB漫画作品がデビューのきっかけ。「ファン的な人が出てきたり、広告を描いてくれないかという依頼が企業から来るようになり、漫画家になった」。
自身の経験をベースに描いた『左ききのエレン』は共感を呼び、大手出版社でリメイク版の連載、さらにはドラマ化もされた。作品を何度も出版社に持ち込み、やっとの思いでデビューに漕ぎ着けた漫画家もいた時代から考えれば、非常に大きな変化だろう。
実写映画化もされた『映像研には手を出すな!』の作者、大童澄瞳さんも「『鬼滅の刃』のインパクトは大きかった。ただ、コロナ禍もあって、大規模なパーティーなどがしばらく開催されていないので、個人的には“沸き加減”みたいなものは分からないし、売れている人は売れていて、売れていない人にはあまり関係ないのかなと思ってしまうところもある(笑)」と話す。
その上で、ウェブや漫画アプリの影響については「やっぱりその存在はでかい。最近の読者の傾向として、内容がわからないと購入する気が起きないということがあるので、少し読んでみて、どういう作品なのかが把握できてから買うことができる。
そして、販売経路が多様化することで、新しい読者が開拓されている。“漫画読み”と呼ばれるような、自分の目で作品を積極的に開拓していく人たちがいる一方、“流行りの漫画なら読んでみるけどね”という受動的なたちに伝わりやすくなったと思う。
ただ、“鮮度主義”とでも言えばいいのか、瞬間、あるいは数年くらいで終わってしまうような流行を追いかけて作られる作品が増えてきている気もする。もしかすると、その点は誰かにとってはデメリットになってしまうのかもしれない」と指摘した。
講談社の編集者時代には『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などのヒット作を世に送り出した株式会社コルク代表の佐渡島庸平さんは「ウェブや漫画アプリの存在はもちろん、SNS、そして1日1話無料などの仕組みによって、漫画を読むことが生活習慣に入ってきた人も増えたと思う。
文字、特に小説は1冊読もうとすると10時間とかかかってしまうが、漫画の1話分というのはすごく良いし、1話ごと、1巻ごとで課金できるということも含めて、うまく回り出していると思う。この追い風によって、漫画家というプレーヤーも増えているし、昔の漫画雑誌だったら載らなかったような面白い人たちも出てきている。インスタで人気で、広告の漫画だけで年収がかなりあるという漫画家さんもいる。デメリットは一切感じない」と話す。
「ただ、変化の流れかなとも思うが、確かに大童さんが指摘したことは起きている。出版社が作ってきたような、読み応えのある漫画が減っているし、そういうのが当たる感じがしないというのは寂しい。でも、YouTubeが出てきた後でNetflixが出てきて、地味なドキュメンタリーなども製作費をかけて作れられるようになっている。
音楽でも、CDでは絶対売れなかったような凝ったヒーリングミュージックや環境音がSpotifyでは配信されている。今後サブスクが出てくると、寝る前だけに読みたい、すごくリラックスするための漫画など、色々なものが作られる可能性はある」
■韓国の勢いに対し、日本ができることとは?
そしてもう一つの要素が、“韓国漫画(ウェブトゥーン)”だ。実は漫画アプリでトップを走る「ピッコマ」を運営しているのは韓国企業。加えて、ランキング上位には韓国の作品がずらり。
日本の漫画の多くは紙媒体で読むことを想定しているため、ウェブやアプリで見る場合もスクロールはページをめくるように横方向だ。一方、韓国の漫画は最初からウェブやアプリで読まれることを前提にしているため、スクロール方向は縦、しかもフルカラーであることも多いのだ。
佐渡島さんは「縦スク・オールカラーは、圧倒的にスマホで読みやすい。モノクロのものをカラーにしようとすると時間がかかるが、初めからカラーを作ってしまえば速い。また、韓国の漫画を読んでいると、同じ作家が2、3作品同時に連載をしていることがあるが、これはチームでやっているから。
日本は漫画家と、絵の作業を手伝うアシスタントがいるくらいだが、韓国や中国もそうだが、5~10人単位のチーム制の仕組みができ上がってきていて、企画が立てられてから作品として世に出るまでのリードタイムが短くなっている。スタジオのように制作の知見も溜まっていくので、後から入ってきたひとのレベルアップも速い」。
そうしたことを踏まえ、日本の漫画の将来について佐渡島氏は「日本の漫画は国内では大きくなっていっているし、利益も出ている。ただ、世界ということで言うと“ほぼ勝負が決まったのではないか”というくらい、韓国・中国が圧倒的だ」と指摘する。
「集英社の海外向け漫画配信サービス『MANGA Plus』も、良い状態だし、さらに成長していくとは思うが、成功しているアプリとしてはほぼ唯一だ。ビジネスモデルの部分で成功できるものがこの先現れるかどうかだ。やはり日本の見開き漫画やモノクロ・横スクロールは、日本とその文化に馴染んでいる6000~7000万人くらいのマーケットなので、これから伸びても1兆円規模で止まるだろうと予想している。その点、韓国のカラー・縦スクロールの読み方がわからない人はいないので、無料で配信され翻訳も付いていけば、70億人全員がマーケットになる可能性がある。
だからこそこれからの10年で10兆円くらいまで伸びるという予想もあり、世界の投資家からの資金も集まってきていて、ピッコマをやっているがカカオエンターテインメントがニューヨーク株式市場で上場すれば、2兆円の時価総額がつくだろうと言われているので、映画・ドラマにおけるNetflixと日本のテレビ局のように、投資の面でも追いつかなくなってきている。日本の出版社は、ほとんどが非上場のオーナー企業だし、上場しているKADOKAWAの10%近い株も韓国のカカオエンターテインメントが持っている状態だ」。
一方、大童さんは「僕の作品もそうだが、海外と戦っているわけではないから、という気持ちがある。もちろん海外にも面白い漫画があるけれど、日本がアメリカのカルチャーみたいな雰囲気の作品を作ると、海外のファンからは“日本っぽいものが見たいのに”という意見を言われることもある。日本の漫画はガラパゴス化しているが、そもそも日本の漫画も、輸入されてきたもの、あるいは鳥獣戯画などと地続きのものなどが組み合わさってできたコンテンツだ。だから日本は日本らしくやっていればいいのではないかなという気持ちもある」と話す。
「また、僕はアニメーションをテーマにした漫画を描いているが、アニメーションと漫画の一番の違いは、受動的か能動的かということ。アニメーションはテレビやパソコン、スマホの前にただ座っていればいいが、漫画はページをめくっていかなければならない。でも、実はその垣根もデジタルになってくると変わってくる。“モーションコミック”といって、動き、音も付いた漫画も可能になってくる。そういう時に、どんな表現が好まれていくのか。これからさらに変わってくると思っている。
新しい表現手法が出てくれば、それに応じてスタイルは変えていくものだと思っているし、縦スクロールも、好きならやればいいのではないかな、という感覚だ。僕も見ていると、すごく面白いと感じる表現もあるし、自分だったらこんな感じで描くけどな、と感じることもあるので、いずれは乗り込んで行き、面白いことにチャレンジしたい気持ちがある」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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