総合格闘技の老舗である修斗、その歴史を感じさせる対戦だった。5月16日の後楽園ホール大会、そのセミファイナルとして組まれたのは、内藤太尊vs宇野薫のフェザー級マッチ。内藤はroots所属、つまり佐藤ルミナの弟子だ。そして宇野は20代の時に、ルミナと2度対戦している。どちらも宇野が勝利しており、修斗を代表する名勝負、ライバル関係と言っていい。
宇野はルミナに勝って修斗王座を獲得し、防衛戦でも闘った。その後UFC、HERO's、DREAMで活躍し、修斗にカムバック。負けることも多くなったが、あきらめることなく現役を続けている。一昨年11月には、実に3年半ぶりとなる勝利をあげた。スマートな印象がある宇野だがそのキャリアは泥臭く、だからこそ感情移入を誘う。
昨年はグラップリング大会QUINTETで所英男とのベテラン同士のドリームマッチが実現。またDDTの路上プロレスに参戦すると大仁田厚の電流爆破バットを食らっている。UFCも電流爆破も経験する宇野薫ならではの道を進んで、この5月に46歳になった。
ファイトスタイルも泥臭い、粘りのスタイルだ。内藤の打撃を浴びながらも組み付き、テイクダウンしていく。1ラウンドにはバックを奪い、展開を支配した。ジャッジも10-9をつけている。精神的にもしぶとさが要求される“しんどい”闘い方だったはずだが、宇野はそれを丁寧に遂行した。セコンドの青木真也はケージサイドで「完璧だ」と声を上げた。青木もまた修斗でベルトを巻いた選手。宇野とはDREAMで対戦している。そんな2人が今はともに練習し、お互いのセコンドにつく。そこにもまた歴史があった。
2ラウンドになると、徐々に内藤がペースを掴んでいく。タックルを切って打撃。宇野は疲れが見えてきた。それでも粘りに粘り、観客に「まだいける!」、「ここまで頑張れるのか」と思わせて、しかし最後は大の字に倒れた。フィニッシュは内藤の右フック。その前のヒジも強烈だった。
2ラウンド4分59秒、KOで勝った内藤はマイクを握ると「最後に言わせてください、This is SHOOTO!」。師匠・ルミナの決め台詞だ。ここで使わずにいつ使うのかという100点のマイク。それは内藤が、この試合の背景にある歴史をしっかり受け止めていたことを意味する。
「宇野選手とはルミナさん、土屋さん(同門の土屋大喜)が闘って負けている。誰かrootsの人間が勝たなければと。ストーリーのある試合なので負けられないと思っていました」
試合後、内藤はそう語った。宇野のしぶとさ、粘りも充分に感じたそうだ。
「僕もかなり試合をしてきてますけど、異質でしたね。やっぱり凄いなと肌を触れてみて感じました。“宇野薫というジャンル”という感じでした」
宇野薫には宇野薫にしかない強さがあり、それはこの試合でも伝わってきた。しかし格闘技である以上、何にも増して重いのは結果だ。宇野は敗れ、内藤は勝った。内藤は内藤で1月の環太平洋王座戦で敗れており、これが再起戦。これ以上負けられない状況だった。そういう試合で、彼は生き残ったのだ。
妻は妊娠しており病院にいる。予定日は21日というからもうすぐだ。内藤自身も落ち着いていられない時期のはずだが、妻からの「頑張ってきな」という言葉で奮い立ったという。4月から生活拠点を変えたこともあり、これまでのように練習できるかどうかも分からなかった。そういう時に届いたのが宇野戦のオファー。マッチメイクの意図を考えても断るという選択肢はなかった。
「実は子供が双子なんです。宇野選手のお子さんもそうですよね。そういうところにも運命を感じて。バタバタではありましたけど、いい経験ができました」
内藤には内藤のストーリーがあったのだ。勝利を収めると、ルミナにはこう言われた。
「お前の試合はいつも危なっかしいな。ヒヤヒヤするよ。でも勝ってホッとした」
それは師匠譲りだろう。現役時代のルミナも、アグレッシブゆえ隙が生まれやすく、危なっかしくてヒヤヒヤする選手だと言われていたのだ。そのスリリングさが魅力だった。こんなところにも、過去と現在のつながりを感じる。
宇野、内藤、ルミナ、青木。それぞれの歴史と関係性から浮かび上がるドラマがこの試合にはあった。宇野が46歳で闘い続けていることだけをもって讃えるつもりはない。ただ46歳で勝負にこだわり続け、相手に必死に食らいつく姿にはやはり胸を打たれた。その上で、これを“宇野の試合”で終わらせなかった内藤に拍手を送りたい。
文/橋本宗洋