世界最大にて最古のDJバトル、DMCの2012年度世界チャンプのDJ IZOHと韻踏合組合「一網打尽」のようなヒット曲を筆頭にメジャー/インディー問わず数多くの楽曲制作したNAOtheLAIZAがタッグを結成。この二人と言えば巷で話題となったAWAのCM「ANARCHY & DJ IZOH 篇」の制作をはじめ、数々の共作を手がけているが自身らの名義としては初のリリースとなる。
「CLASICK」は、ラップや歌が載っていないヒップホップ作品という意味でも、現在の国産ヒップホップ・シーンにとっては異質に感じる作品かもしれないし、90年代のインストゥルメンタル・ヒップホップに影響を受けたサウンド・アプローチも2021年においてはあまり聴かれないアプローチだ。
また、そういった音楽性にターンテーブリズムの要素も付加されている。ざっとここで挙げただけでも、「CLASICK」がどれだけユニークな立ち位置の作品なのか、分かって頂けるだろう。だが、本作に込められているオマージュやサンプリング、そして既存の曲/素材を再解釈して再構築するというアプローチは、ヒップホップにおいては普遍的な価値観でもある。
「CLASICK」を通して、ヒップホップが元来持つクリエイティヴィティや他ジャンル/過去の音楽へのリスペクトや愛といった、現在では見過ごされがちな部分にスポットが当たることを願いたい。
DJ IZOH & NAOtheLAIZA 「CLASICK」
□収録曲
M1. Circle
M2. Lights
M3. A Suspiccion
M4. So What
M5. I
M6. Cross
M7. Karma
2021 年 5 月 28 日 発売
オフィシャル・ライナーノーツ Text by Yusuke “11zero” Ito
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2000 年代前半から、バトル DJ として国内外の DJ バトルに出場し、2012 年には世界最古にして最大規模の
DJ 大会:DMC の世界大会で優勝を果たした DJ IZOH。世界大会を制した後は DJ バトル界からは引退し、ラッ
パーの TARO SOUL との SUPER SONICS での活動や RAMPAGE(LDH 所属)のツアーDJ、ABEMA のレギ
ュラー番組『AbemaMix』での DJ プレイなど、多方面で長年培ってきた DJ スキルを活かした活動を展開してい
る。
そして、DJ として 1990 年代後半から活動を開始し、近年はプロデューサー/エンジニアとして韻踏合組合“一
網打尽”のようなヒット曲を筆頭に、メジャー/インディー問わず数多くの楽曲制作に関与してきた
NAOtheLAIZA。これまでも交流があり、実際にストリーミング・サービス:AWA の CM 楽曲を共作したこともある
両者。この度リリースされる「CLASICK」は、二人にとって初の共作名義でのプロジェクトとなる。
「最初は、IZOH のソロ曲を作ろうとしてたんですよ。そのマニピュレーションや制作周りをオファーされたんです
けど、なかなかパッとしたアイディアが出なかったんですよね。いろんなアプローチが出来ちゃう一方、いろんなモノ
が埋もれてしまいがちな時代でもあるから、方向性に関してまとまった案が出なかった」と、制作に入る前の悩みに
ついて語る NAOtheLAIZA。そこで飛び出したのが、自身が過去に制作した音源を DJ IZOH と共に再構築すると
いうアイディアだった。
「この『CLASICK』の原型は、実は 11 年前からあるんですよ。11 年前に俺が出そうしてて未発表なままだったイ
ンストゥルメンタル・アルバムがあって、ずっと出したいと思ってたんで、そのアルバムを IZOH と再構築せえへ
ん?っていうアイディアが出て来たんです。分かる人には分かると思うんですけど、だから今っぽいサウンドじゃな
いんです。質感も今っぽくないし。その理由は、11 年前に出来た音だから。で、その音に IZOH が入ることによっ
てめっちゃオモロくなるんちゃう?って思って彼に送ったら、『良いじゃん!』ってなって」(NAOtheLAIZA)
今でこそ、日本語ラップやメジャー・フィールドで活躍する邦楽アーティストの楽曲を手掛けるプロデューサーとい
うイメージが強い NAOtheLAIZA だが、DJ 活動を始めた 90 年代後半の時期に彼がハマっていたのは、彼も敬愛
する日本のレジェンド:DJ KRUSH らが確立させ、90 年代中盤にクラブ・ミュージック界でブームを巻き起こしたイ
ンストゥルメンタル・ヒップホップ(アブストラクト・ヒップホップやトリップ・ホップなどと呼ばれることも多い)だ。ラップ
が載らず、あくまでインストゥルメンタル音源のみで世界観を作り、構成していくヒップホップのサブジャンルだが、
その楽曲構成に DJ IZOH のターンテーブリストとしての音楽性をフュージョンさせることを思いついたということ
だ。
「アブストラクト/インストゥルメンタル・ヒップホップって自分にとっても懐かしい音楽だったし、2000 年代初頭の
DJ バトルとかでもよく使われてたジャンルなんですよね。その当時も、聴いててめっちゃカッコ良いと思ってたし、
そういうジャンルのレコードを使ったルーティンを作ったりもしてたんで、『イケるっしょ』と思いました」(DJ IZOH)
実際に本作「CLASICK」を聴き通すと、インストゥルメンタル・ヒップホップを通過したことがあるリスナーにとって
はピンと来る要素に満ちた作品な筈だ。90 年代初頭~中盤の、ブームバップと呼ばれるヒップホップで使われた
ような太くて温かみのあるドラムや、ジャズ/クラシックなどから引用された、一般的なラップ・トラックよりも情緒的
な上ネタ/ループが多用されていて、ラップ/歌が載っていなくても成立できる構成/展開で組み立てられてい
る。だが、そもそもが原型の時点で成立するという前提で作られた楽曲たちだったわけで、「既にここまで完成され
ている音源にどう手を加えて更に良くするか?という点では結構悩みましたね」と DJ IZOH は振り返る。
「なので、また作り直したんですけど、使っている音やグルーヴは当時の音から新しいものに差し替えたくなかった
んですよ。今聴いたら音楽的に間違っている部分もあったりするんですけど、逆に今だったらその音は出せないん
です。だから、当時作った音をパート毎に分けたモノを IZOH に送ったんです。そこから編曲していってタイトル通
り“クラシック”のように聴かせたかった」(NAOtheLAIZA)
アルバム・タイトルとして名付けられた「CLASICK」という言葉は、“CLASSIC”という単語と、ヒップホップでは「ヤ
バい」などの意味で使われることもある“SICK”という言葉を組み合わせた造語だ。実際、本作を聴くと、要所にクラ
シカルな要素をヒップホップ的解釈で構築した楽曲が揃っている。ここで言う“クラシカル”とは、言葉通りのクラシッ
ク音楽/スタンダード的な音楽の聴感のことでもあるし、ヒップホップにおける古典的=クラシカルな要素のことも指
しているだろう。ストリングスや管楽器といったクラシック音楽で使われる楽器が多く使われているし、随所でヒップ
ホップ・クラシックからの引用と思われるスクラッチ・フレーズやループ素材なども飛び出す。
「全編、サンプリングやオマージュを意識して作った作品なんですが、だからこそ今じゃなかったら出せなかったの
かもしれないです。最初の音源を作った 11 年前にに出していたら、単純なオマージュに聞こえる部分も、月日が
経ってここまで自分もキャリアを積んできたからこそ、自分が影響を受けたモノを素直に出し切れるのかな、って」
(NAOtheLAIZA)
そして、そういったクラシカルな要素で構成された楽曲を、更に複雑且つ興味深い構成とさせているのが、DJ
IZOH が各所で注入したターンテーブリスト的エッセンスだ。
ターンテーブリストとは、「ターンテーブルを楽器のように操る DJ」のことを指し、一般的に DJ として認知されて
いるクラブ DJ のようにダンス・フロアの客に踊れる楽曲を提供するのとは違い、ターンテーブルを用いたテクニッ
クを使って音楽的にレコードなどの音源を操る、よりミュージシャン的な性格の強い DJ のことだ。レコードを擦る
“スクラッチ”や、ターンテーブルを 2 台使って同じレコードを巧みに切り替えることでまったく別のビート・パターンを
作り出すビート・ジャグリングなどが、ターンテーブリズムにおける代表的なテクニックだ。
DJ IZOH は、NAOtheLAIZA から渡された音源素材をターンテーブル上でマニピュレートすることで、
「CLASICK」の音源に新たなレイヤーと発想を加えている。とは言え、技術を多用しすぎず、リスニング用途を想定
したテクニックの落とし込み方を IZOH は意識していたようだ。
「あからさまに、原曲をぶち壊すようなビート・ジャグリングのような再構築は、いち部分に留めようとはしてました
ね。ターンテーブリズムをガチで全て作品に落とし込むことはしたくなかった。あくまでリスナーが聴いてる時に良く
聴こえるように」(DJ IZOH)
「IZOH が作った展開は、自分にはない発想なんですよ。だから、こういった部分は全任せで、気持ち良く聴こえる
かどうか、というバランスを取る作業は俺がしましたね」(NAOtheLAIZA)
「CLASICK」は、ラップや歌が載っていないヒップホップ作品という意味でも、現在の国産ヒップホップ・シーンにと
っては異質に感じる作品かもしれないし、90 年代のインストゥルメンタル・ヒップホップに影響を受けたサウンド・ア
プローチも 2021 年においてはあまり聴かれないアプローチだ。また、そういった音楽性にターンテーブリズムの要
素も付加されている。ざっとここで挙げただけでも、「CLASICK」がどれだけユニークな立ち位置の作品なのか、分
かって頂けるだろう。だが、本作に込められているオマージュやサンプリング、そして既存の曲/素材を再解釈し
て再構築するというアプローチは、ヒップホップにおいては普遍的な価値観でもある。
「CLASICK」を通して、ヒップホップが元来持つクリエイティヴィティや他ジャンル/過去の音楽へのリスペクトや
愛といった、現在では見過ごされがちな部分にスポットが当たることを願いたい。
Yusuke “11zero” Ito