今、“JETBOOK作戦”と銘打った寄付を募るクラウドファンディングが話題を集めている。このプロジェクトは、全国の児童養護施設で暮らす子どもたちに1万冊の本を贈るというもの。発起人は2歳から今年3月の高校卒業まで16年間、児童養護施設で過ごした大学1年生・山内ゆなさんだ。企画のきっかけは、山内さんが児童養護施設の子供に言われた“ある言葉”だった。
【映像】「聞いてごめんね」ドラマの影響も…友達の言葉に息苦しさ
「児童養護施設にいる小学校5年生の女の子から『本を読みたいから教科書を貸してほしい』と言われた。それをSNSで『(施設に)本が増えたらいいよね』といった投稿をした際、『本ならあげるよ』と言ってくださった方がたくさんいた。そこで『自分でも本を集めることができるんじゃないか』と思い、このプロジェクトを始めました」(以下、山内ゆなさん)
インターネット環境もなく、本がたくさんあるわけでもない。山内さんが児童養護施設で過ごした16年間で痛感したのは「情報を得る機会」の少なさだった。だからこそ、クラウドファンディングページのタイトルに掲載された言葉には特別な意味が込められている。
「児童養護施設の子どもたちにあなたの最高の1冊を」
クラウドファンディングには25日現在、およそ4000人が参加し、目標3000万円に対して、すでに2000万円を突破している。山内さんは「ただ本を贈ってくださいと言っているわけではない」と話す。
「このクラウドファンディングでは、あえて『人生で出会った“最高の一冊”を贈ってください』と言っています。誰かの人生を変えた一冊を読むことによって、その誰かの人生を変えるほどの情報や、誰かを動かせるような力を持っている本がたくさん届くといいなと思ったんです。それを読むことによって、児童養護施設で暮らす子どもたちの知識や情報量が増えて、やりたいことや好きなこと、自分の将来を見つけるきっかけになったらうれしい」
また、山内さんは児童養護施設の子どもたちに本を贈る以外にも「もう一つ大きな目的がある」という。
「高校生になって、友達に自分が『施設に住んでいる』と言ったとき、友達から『聞いてごめんね。大変だろうけど、頑張ってね』と言われた。ドラマやニュースなどの影響で、施設に悪いイメージがあったり、悲しいイメージを持っていたり、そういう人ってすごいたくさんいる。外から見る印象のせいで、自分が施設に住んでいることに抵抗を持ったり、施設に住んでいることを言えなかったり、生きづらさを感じる子どもたちがたくさんいる。施設の子どもたちがもっと生きやすいような世の中になるためには、もっとたくさんの人に児童養護施設について、正しい理解をもってもらう必要があると思った」
もっと児童養護施設について知ってほしい――。施設の実情が知られていない現実に、声を上げた山内さん。若者の文化に詳しいSHIBUYA109 lab. 所長の長田麻衣氏は「こういう取り組みで初めて児童養護施設の実態を知る人も多い」と話す。
「この数年でクラウドファンディングの活用がかなり広がっている。自分が共感した人を『サポートしたい』と思うような、そういった価値観を持っている若者が多い。それが、実際に消費につながることもある」(以下、長田麻衣氏)
中には、アイドルやミュージシャンなど、ネット上でコンテンツを公開している人に向けて小額の支援が行える“投げ銭サービス”もあり、デジタル社会の中で注目を集めている“応援消費”。長田氏も「SNSの大きな力を感じる」という。
「『プロジェクトが大きくなっていく過程を応援したい』といった思いが、消費に向かっている。この『JETBOOK作戦』が、あえてお金ではなく自分の“最高の一冊”の本を贈るという内容だからこそ、施設で暮らす子どもと本を贈る側、両方のストーリーが生まれる仕組みになっている。素敵なプロジェクトだと思う」
最後に、自身の“最高の一冊”として、モデルでタレントのkemioさんが著者の『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(角川文庫)を挙げた長田氏。SNSやクラウドファンディングなどの発信によって“応援消費”が進むことで、世の中の仕組みや考え方が変わるきっかけになるかもしれない。
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