「報道や周囲の人は正しい知識を、当事者はとにかく相談を」適応障害から回復した漫画家、そして精神科医の訴え
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 「昨年春ごろから体調を崩しがちとなり、今月に入り医師より『適応障害』と診断されました。これにより当面の間治療を優先し、お仕事をお休みさせていただきます」。所属事務所が発表した、深田恭子さんの活動休止。出演が決まっていた連続ドラマも降板、治療に専念するという。

・【映像】深田恭子さん休養...適応障害ってどんな病気?当事者に聞きながら正しく知る

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 「適応障害」について、厚労省は「ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れる」と説明しており、欧州の有病率は人口の1%にのぼるほど身近な病気だ。

 ところが報道を見てみると、深田さんのイベントに登場した際に“声のかすれ”があったことや試食品を落としたことなどが合わせて報じられるなど、病気と行動を過度に紐づけてはいないか、との指摘もある。

■「周囲の鼓舞がプレッシャーに」

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 漫画『なんで私が適応障害!?』で、自身の経験も踏まえて情報を発信している漫画家の乃樹愛さんの場合、企業に入社する前と後の“ギャップ”によって、心にダメージを負ってしまったことが原因だったという。

 「4月に入社する前は“同期は仲間だ”とか“人財だから”ということで、何度も懇親会をして仲を深め合っていた。でも入社した後は毎日受けるテストの成績が良い人は研修会場で前の席、そうでない人は後ろの席に座るというシステムだった。同期がライバルになって悪口を言い合うようになったし、私も最下位になって恥をかきたくない、他の人よりも上に行きたいという気持ちから、自分を追い詰めてしまった」。

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 異変に気付いたのは、そんな研修が始まってひと月ほどが経った頃のこと。「眠れなくなり、休みの日でも心が休まらない。吐き気や冷や汗、涙が止まらなくなる、電車の中で泣いてしまう、さらには身体を起こすのもやっと、ということもあった。そうすると、自分には価値がないんだな、死にたいなと思えてきて、どんどん症状が重くなっていった。次の言葉が出てきづらくなって、会話がしづらかった。人の目が見られなくなって、下を向いて歩いていた。

 でも降格になったり、クビになったりするのではないかと思って会社には相談しづらかった。周りからは“みんなはできているのに”“甘えているだけ”という反応もあったし、もともと私が外向的な性格で、野球チームに入っていたり生徒会長をしていたりしたこともあり、“らしくない”よと鼓舞してくれる人もいた。でも、それがかえってプレッシャーになってしまったこともあった」。

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 しかし電車内で過呼吸になり、乗客に背中をさすってもらう経験をしたことから受診。6月に入ると休職、そして8月には退職。ただ、会社が原因だと主張することはできず、あくまで退職理由は“自己都合”とした。その後はアルバイトをしながら漫画を描く生活を送り、今は普通の生活が送れるようになった。

 「メンタルクリニックを探して、仕事終わりにかかった。怖いから行けないという人もいるが、私の場合は熱が出たから内科に行くというような気持ちで、比較的早期にかかることができた。そして“日記がてらに”と思って描き始めた漫画が多くの方に共感をいただいたし、今はこうして皆さんとお話しができている。コロナ禍もあり、なかなか相談もしづらいとは思うが、友達や恋人、SNSでもいいので、自分の気持ちを誰かに伝えるということを徹底し、助けを求めてほしい。また、情報の発信元についても見極めて欲しい」と訴えた。

■「原因が解消されない限りは良くならない」

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 早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介医師は「患者さんとしては物を落としただけで“病気のせいではないか”などと言われるのは嫌だと思うし、責められている感じもしてしまうので不快だ」と指摘、次のように説明する。

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 「例えば出勤途中で涙が出るとか、電車の中で過呼吸になる、あるいは周りの人に“行け”と言われた場合は絶対に行ったほうがいい。やはり自覚症状がある場合もあるが、思考ができなくなっているために症状に気付けていない場合もあるので、“ちょっと変かな”と感じた時にはだいぶひどくなっていることもある。精神の病気には、そういう二重性、矛盾性がつきまとう。

 また、どうしても病院にかかるハードルが高いので、ボロボロの状態で来るということもある。それでも家に帰った時の方が症状が重かったりするので、診察室の中では逆に元気に見えてしまうこともある。だからなるべく症状の重い姿を想像しながら、しっかり話を聞くようにしている。

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 “うつ病との違いは何か”とよく聞かれるが、簡単に言うとうつ病は原因不明の脳の病気だが、適応障害の場合はストレス、精神の疲労など、明確な落ち込みの原因があり、その結果として引き起こされた病気ということになる。定義の違いなので、両方なることもあれば、適応障害からうつ病に発展していくこともある。症状にも差はあるし、長引く場合はうつ病や気分変調症という診断に変わると思う。

 中には気付かずに治ってしまう人もいるが、きちんと休んで治療をしないと良くならない人の方が多く、半分くらいの方が3カ月~半年くらい休職するのが現状だ。あまり言っていいのかわからないが、労災保険の申請は結構難しい。ただ、病気休暇になれば健康保険から傷病手当金として給与の3分の2が1年半ほど支給されるので、それを使いながら休むという感じだ。

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 基本的には投薬は必要ないが、寝られない場合やパニック発作のような合併症を起こす場合は薬を使うこともある。やはり原因が解消されない限りは良くならないので、会社に復帰するのであれば職場の環境調整もしっかりするというのが大事だ。ただ、周囲の人や家族の中には、病気になったことを“受け入れたくない”“傷付いている姿を見ないようにしたい”という気持ちの人も出てくると思う。また、ネットで弱音を吐くと、中には意地悪なことを言ってくるアカウントもある。そういうものだ、ということも知っておいた上で、気軽に助けを求めたり、精神科を受診してもらったりして、話し合いながら休むタイミングなどを決めていくのがいい。ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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