孤高の漫画家・大橋裕之による初期短編集を、山田孝之・齊藤工・竹中直人の3監督による座組で実写映画化した『ゾッキ』。愛知県蒲郡市で行われたその撮影の様子と、新型コロナウイルスという災禍が映画界に与えた波紋を捉えたメイキングドキュメンタリー『裏ゾッキ』が抜群に面白い。映画撮影誘致に盛り上がる町の人々の悲喜こもごもと、映画撮影のシビアな現実。そして襲い掛かるハプニングの数々。エンターテインメントは不要不急なのか?そんな議論が巻き起こった今だからこそ観ておきたい、モノ作りの神髄と心を映し出した力作だ。ABEMA TIMESでは、『ゾッキ』プロデューサー&監督の山田孝之と『裏ゾッキ』監督の篠原利恵に独占インタビュー。製作にまつわる裏の裏まで聞いてみた。

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 『ゾッキ』という“寄せ集め”を意味するタイトルに反して、石坂浩二、吉岡里帆松田龍平安藤政信松井玲奈、國村隼、ピエール瀧、倖田來未竹原ピストルら豪華面々が嬉々として出演。Charaが息子HIMIと初コラボした主題曲『私を離さないで』も話題だ。都内ミニシアターを中心に実施中の『ゾッキ』『裏ゾッキ』交互上映も連続満席を記録するなど、時間をかけながらジワジワと“寄せ集め”の輪は広がっている。

 『ゾッキ』は全国規模のシネコンで今年4月初頭に大々的に封切られたわけだが、山田は「ミニシアターで『ゾッキ』『裏ゾッキ』を交互上映として広げていく現在のスタイルは理想的展開」とここからが勝負と力を込める。交互上映では撮影の舞台裏を捉えた『裏ゾッキ』がセットになることで、『ゾッキ』をより深く楽しむことができる相乗効果もある。なによりこのメイキングドキュメンタリーで興味深いのは、撮影時の過酷な瞬間や市民からのクレームなどのアクシデントをNGなしでありのままに映像に乗せている点だ。

 それにはカメラを回した篠原監督当人も「奇跡」と目を丸くする。「ドキュメンタリストとして、目の前でハプニングが起きたとしたら撮影をするのは当たり前のことです。それに対して誰も『撮るな、カットしろ』と言わない凄さが奇跡。知り合いのプロデューサーも『もし私が製作側の人間だったらカットしてほしいところばかり。普通ではありえない』と驚いていました」と打ち明ける。

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 それこそ綺麗な部分だけを“寄せ集め”て、映画作りのポジティブさだけを喧伝することもできたはずだ。しかし山田は「それは絶対にさせない」と断言し「今は様々な地方自治体が映画撮影を誘致していますが、最初こそ『芸能人が来たぞ~!』となるけれど、いざ映画撮影の大変さや現実を知って『二度と来ないで!』と拒絶されてしまうケースも少なくありません。『ゾッキ』を製作したand picturesは地方創生を軸に地域と一体になって映画を作ろうとしているので、映画作りのいい面と厄介な面をしっかりと見せる必要があると思いました」と狙いを明かす。

 映画撮影のバックアップを買って出た蒲郡市民が、窮地を乗り越えることで撮影チームとの結束を固くする姿も感動的。そのハイライトは、ピエール瀧の俳優復帰の瞬間だろう。撮影を前にしてピエール瀧の出演情報がマスコミに漏れたことで、その姿を激写しようと報道がロケ地に押し掛けてくる懸念も生まれた。

 山田としてはピエール瀧の俳優力を高く評価しており、事件とは関係なく映画の企画当初から起用を決めていた。だが山田は監督だけではなく、プロデューサーも兼任している。監督としては作品のために起用したい。しかしプロデューサーとしては撮影を円滑に進めねばならない。葛藤はなかったのか?

 「どんな人だって罪を犯したら罰を受けて社会復帰する。罪を犯したら償うのが当たり前です。しかしそれを経てもなお許さないということが、僕には出来ない」と胸の内を語り「瀧さんは俳優としていいお芝居をするから、沢山仕事があったわけです。もしかしたらこの先テレビの仕事は来ないかもしれない。けれども映画はお客さんが自分で選んでお金を払って観に来る媒体。キャストを変えようとは思いませんでした」と即決でのGOサインだった。

 本隊とは別にカメラを回していた篠原監督はどう見ていたのか。「ピエールさんの出演が記事になったとき、蒲郡の方々も『ヤバいのでは?』となっていたし、押しかけてくるかもしれないマスコミへの恐怖心もあったようです。それに対して山田監督は町の方々と直接コミュニケーションをとり、不安を取り除いていった。警備員を自ら9人も雇ったりして、その姿勢に町の人たちも腕まくりの一致団結。ネズミ一匹入れるものか!との気合が満ちていました」と協力住民たちの奮闘を懐かしむ。

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 『ゾッキ』の劇場公開は、まさにコロナ禍真っただ中。愛知県蒲郡市での盛大な上映イベントは日を改めることになった。しかしピンチの中にこそ光明はあったりする。事実『裏ゾッキ』はギリギリまで撮影を行い、コロナ禍という予想外の事象に翻弄される地域とエンターテインメント業界の“今”を切実かつリアルに閉じ込めることができ、一本のドキュメンタリー映画としての独立した価値を獲得している。しかも3度目の緊急事態宣言発出のために、蒲郡市ではまだ『裏ゾッキ』のお披露目のめどすら立っていないという。完結せず、To be continuedなのだ。ということは…!?

 「まだけじめがつけられていない!」と篠原監督が継続を期待すると、山田監督は「まずは『ゾッキ』を成功させる。そうすれば『続ゾッキ』の製作ができる。次にやるならば愛知県全土での撮影を希望します。所変われば品代わるで、豊橋や岡崎、豊田、常滑に行ったらどうなるだろうか?と。そうなると『続裏ゾッキ』だって撮れるでしょう」と続編製作に前向きな姿勢を見せる。

 加えて山田は『裏ゾッキ』公開後に人気YouTuberのはじめしゃちょーとコラボし、感染対策のための間引き席や空席を広告枠として販売する試みを実行。困窮するミニシアター界を救うための策や、新たなアイデアが生まれる波及効果を期待している。「次に考えたいのは、映画公開後の宣伝のその先です。今回の経験をさらにアップデートさせて、次の『続ゾッキ』に反映させていければ」と新たな試みに意欲的。“寄せ集め”という烏合の衆が映画界の、ひいてはエンターテインメント界の常識を変える。コロナによって各界の地殻変動が起きつつある今の時代に、ありえない話ではなさそうだ。

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取材・文:石井隼人

写真:You Ishii

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