ゴリラに学ぶ“自粛がつらい理由” 霊長類研究者・山極寿一京大前総長が提言するコロナ禍の過ごし方「スマホを捨てればいい」
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 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が各地で続く中、巣ごもり生活を余儀なくされ、コロナ禍以前の“当たり前”が当たり前にできない状況が続いている。

【映像】人間の“幸福”ってなんだ? 京都大学前総長・霊長類研究者の見解は

 長引くコロナ禍の今、SNS上では漠然とした不安やストレスを抱え、息苦しさを感じている人の声が相次いで寄せられている。自粛できない人がいれば、非難され、怒りの矛先を向けられる。

 そうした人間の思考の背景には何があるのだろうか。そして、私たちは今をどのように過ごすべきなのだろうか。ニュース番組「ABEMAヒルズ」キャスターのテレビ朝日田中萌アナウンサーが、霊長類研究者で“ゴリラ研究”における権威でもある京都大学前総長(現・総合地球環境学研究所 所長)の山極寿一さんを取材した。

田中萌アナ(以下、田中):個人的な話ですが、私、けっこう一人の時間が好きで、他人といるよりは一人が大好きという人間で……。でも、新型コロナの自粛が1年以上続くと『たまに友達と集まって飲みたいな、騒ぎたいな』という気持ちが出てきました。それは人間の本能的な部分なのでしょうか?

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山極寿一さん(以下、山極):本能的な部分だね。この1年半、みんなが家で“巣ごもり”をしていて、すごくイライラしている。けれど、私が長年研究しているゴリラは人間よりもまとまった家族暮らしをしていているのに、ほとんどイライラしていない。それはなぜか。ゴリラは家族単位で毎日動いているんですよ。遊動生活をしている。毎日移動しながら食べ物を探して、ベッドを作って寝ているわけ。

人間は家を持っていて(コロナ禍で)『外を出歩くな』と言われる。ロックダウンが一番いい例だけど、家に閉じこもっている。一人だったら自分でいろいろ時間をコントロールできるかもしれないけど、夫婦や子供、老人など、生理や体力の違う人と一緒にいると、同調が難しい。

一人でいて『誰かに会いたいな』と思うのは、自分の動きを自分だけで調整するのではなく、人の動きにある程度合わせて刺激を受けたいから。そういうことが日々できないと、人間は新しくなった気がしない。堂々巡りをしているような気になってしまう。『昨日も私は同じことしていたな』『私全然進歩ないな』と思ってしまう。


 無意識のうちに我々人間が欲している他人からの刺激。山極さんによると、その刺激が得られる人間にとっての「最大の幸福」が今、制限されている状態だという。

山極:我々は毎日“言葉”を使ってコミュニケーションをとっているが、“言葉”は、人類が手にした道具としては新しいものだ。だからそんなにうまく使えない。むしろ、食事を間において喧嘩をしないで一緒に時間を過ごすことが、信頼を作る上で大切だ。どの文化でも食物を『分配をする』『一緒に食べる(共食する)』が当たり前になっている。これは人間の特異性で、人間だけができたことだ。共食によって、人と人との間に信頼が生まれ、人間はいろいろな社会を作れるようになった。

田中:コロナ禍で、人との接触を減らしたり、食事を集まって食べるのはやめようといったり、これは人間にとって苦しいことですか?

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山極:大変まずいことだと思う。人間の社会は三つの自由によって作られている。『動く自由』『集まる自由』そして『対話する自由』なんだよね。 仲間と会うことは、対話を通じてさまざまな知識や出来事を自分の中に取り入れられる。あるいは、仲間の表情や交流によって、自分を“新しいもの”にできる。それがすごく重要だ。

 山極さんの研究によると、サルは食べ物が争いのもとになるため、食事は離れてとり、ゴリラやチンパンジーといった類人猿になると、仲間の手助けがなければ生きられないことを理解し、食べ物を分け与える行動がまれに見受けられるという。人間は、食べ物をコミュニケーションの道具にして同じ空間を共有する“団らん”という集まりを作り出した。食を共にする「共食」が信頼感を生み、複雑な人間社会の形成に大きく関わってきたと山極さんは分析している。

田中:インターネットなどの技術で解消することはできないのでしょうか。

山極:本当は、対話はこうやって、映像(※取材はリモートにて実施)で顔と言葉を通じ合わせるだけではなく、同じ場所に一緒にいることが重要だ。同じ空間、時間を分かち合っている感覚が大切。我々は言葉でコミュニケーションをしているように見えて、(対面によって)さまざまな刺激を受けている。相手だけではなく、その周りのいろいろな刺激を、相手と自分の間で共有している。

田中:たしかに、こうやってお顔は見えますが、空気感まではオンラインだとわかりにくいですね。

山極:(例えば)私が今アフリカのジャングルにいるとして、同じ場所にいれば、全然違った感覚が、そちら(田中アナ)にも芽生える。あらためて考えてみると、今我々が禁止されている飲み会や複数人での食事、スポーツ観戦、芸術鑑賞など、これらはすべて人間関係を改善するものだ。『複数の人間で社会を作っている』という幸福感を醸成する大きな装置だ。それに気付かなければいけない。

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田中:今、多くの人がスマートフォンを持っていて、SNSでつながれる時代ですが、そこに限界を感じている面もあると?

山極:うん。スマートフォンやインターネットで得られる情報は、“知識”だ。でも、人間は知識だけで生きているわけではない。“知恵”で生きている。

自転車に乗るという行為も、いったん乗れてしまえば無意識のうちにペダルを漕げる。簡単に見えるけど、あれをひとつひとつの動作に分解して、組み合わせて……とやっていたら、とても自転車には乗れない。そういうものだ。自転車に乗ることは、知識ではなく知恵。あるいは体の感覚、経験だ。

田中:コロナ禍で我々はどのように過ごしていけばいいのでしょうか。

山極:スマホを捨てることだね(笑)。捨てられないと思うけど。言葉と一緒で、これだけ便利な道具はないんだから。

ゴリラ、チンパンジーというのは、人間に一番近い類人猿だけど、熱帯雨林から一歩も出ていない。人間は700万年前に熱帯雨林を出てから、新しいことに常に直面してきた。これまでとは違ったやり方で乗り越える必要があるが、きっと人間はコロナも乗り越える。新しいことを考えなくちゃいけない。

ABEMA『ABEMAヒルズ』より)

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