昭和30年ごろから日本で家庭向けに普及した8mmフィルムカメラ。今、この8mmフィルムカメラに関連したあるウェブサイトが話題になっている。
ウェブサイト『世田谷クロニクル』。このサイトでは、8mmフィルムカメラで撮影された東京都内などの映像全84本をデータ化し、インターネット上で公開。動画を観た人からは「引き込まれて気持ちが和む」「時折り胸が熱くなる」「誰かも知らない、その時代に生きてもないのに、懐かしさを感じずにはいられない」といった声が上がっている。
このプロジェクトは「公益財団法人せたがや文化財団 生活工房」と大阪を拠点に活動する「NPO法人 記録と表現とメディアのための組織」が2015年に立ち上げ、約3年かけて地域の人々などから映像を収集。2019年からウェブサイトでの公開をスタートさせた。集められた映像は、提供者の自宅に眠っていたものからフリーマーケットで購入されたものなど、さまざまである。
昭和30年ごろの8mmフィルムカメラは、まだまだ高価で、誰もがいつでもどこでも気軽に撮影ができなかったもの。レンズの向こう側にあったのは、戦後、目まぐるしい発展をとげつつあった高度経済成長期を生きた人々の“何気ない日常”だった。
プロジェクトの立ち上げに携わった生活工房の佐藤史治さんは「身近な暮らしを地域資料として残しかった」と話す。また、集めた映像の試写会を行ったとき、思わぬ化学反応が起きたという。
「8mmフィルムを提供してくれる方々にとって、映像はホームムービーなんですよね。自分の家族以外が見ても『面白くない』『たいしたことないよ』とか言うんですけど、『あそこは経堂の駅だ』とか、『靴磨きの人がいる』とかそういう話がすごく出てきて、映像をきっかけに豊かな場が作られるということがありまして『自分のフィルムにこういう価値があったんだ』とお気づきになった人もいました」
当時の時代を知る人、そして生まれてすらいなかった人、さまざまな背景を持つ人が見ることによって生まれる映像の“新たな価値”。佐藤さんはこの価値にこそ、大きな意義があるという。
「ある人にとっては懐かしい。知らない若い世代の人だと全然気付かないというか、全然分からない差異とか、それに別の人が指摘して気づくみたいな。すごい面白い時間でした」
佐藤さんは、一つ一つの映像に込められた提供者の“声”にも注目してほしいと話す。
「ウェブサイトの中にキャプションがあるんですが、これは提供者の方と一緒に映像を見たときに出てきた言葉をもとに作られています。映像をぼんやり見るだけではわからないことが、提供者の言葉が添えられることで、立体的に浮かび上がってきます。ぜひそういう面でも見ていただきたいなと思います。おじいちゃんやおばあちゃんと一緒にフィルムを見ていただくと、新しい気付きや昔の話なども一緒に聞けると思います。世代が異なる間でコミュニケーションをとれるようになるといいなと考えています」
最後に視聴者に向けて「向ヶ丘遊園の映像の中に、ステージで外国の方がひもを持ってプラプラ何かしているんですけど、それが何なのか分からなくて。昔一緒に見た方が『何とかっていうタレントなんじゃないか』とおっしゃっていたんですが……。これが誰なのか、分かる方がいらっしゃれば情報提供をいただけるとうれしいです」と呼びかけた佐藤さん。






