「初心者大歓迎」「報酬は1人100万円」「人生逆転」。SNSにはびこる、そんな言葉や高額報酬に目が眩んだ若者たちが手を染め、逮捕されるケースが後を絶たない。いわゆる“闇バイト”だ。
明るく優しかったはずの友人が一転、どん底へ。中には自殺した若者も。一方、彼らを騙し、脅し、利用してきた元指示役の男は「月収1000万円超えてたんちゃうかな。ストックは常にいるんで」と、悪びれた様子も見せない。
利用する者とされる者の証言から、現代社会の“闇”を紐解いた。
■「行き着く先は逮捕のみ!絶対にやめておけ!」大阪府警がリプライ
「ガスの点検です」って言われたんで、ガス会社かと思ってドアを開けたら、そのまま押し倒されてガムテープ。手はグルグル巻き、足も巻かれて。殺されるかと思いましたよ」。去年9月、東京都足立区の一人暮らしの男性(当時72)宅に2人組が押し入り、現金およそ30万円とキャッシュカードを奪った強盗事件。同じ月、宮城県柴田町で男性(当時74)が突然家に入って来た見知らぬ男に刃物で刺され死亡した事件。
無関係に見える二つの事件には共通点があった。実行犯として逮捕された男たちが、調べに対し「SNSで“闇バイト”に応募した」「金に困ってやった」「被害者とは面識がない」と話したというのだ。
実際、SNSを検索してみると「単価500万~1500万、案件多数です」「コロナで収入不足の方、初心者大歓迎」「現ナマ100万以上はカタいです」など、目を疑うような報酬を提示した投稿が数多く見つかった。強盗を意味する“叩き”、オレオレ詐欺などの特殊詐欺の実行犯を指す“UD”などの隠語も飛び交っていた。
ここ数年で急増する同種の求人に対し、大阪府警では「行き着く先は逮捕のみ!絶対にやめておけ!」などの警告文をリプライしている。その数、月130件にも及ぶというが、警告文が届いた投稿はそのほとんどが削除されている。 「“受け出し”とか、用語を探してやっています。そして引き留めるためには、これくらいの強い文言で警告する必要があると思います。世の中が便利になるにつれ、こういった犯罪も増えてくると思いますので、知恵をしぼって対策していきます」(府民安全対策課の保田茂光・課長補佐)。
このような闇バイトは、関わってしまった若者たちの身を危険に曝すこともある。
■「どうして止めることができなかったのか…」自ら命を絶った若者
去年9月に大阪府で発生した強盗事件。
実行犯が次々と逮捕される中、金の回収と送金役をしていた、関東在住の男子大学生男性Aの存在が浮上した。去年夏ごろから特殊詐欺の受け子など、多くの「闇バイト」に手を出していたため、全国の警察が逮捕を狙っていたというA。ところが別事件の参考人として警視庁で調べを受けた翌日、ホテルで自ら首を吊り、命を絶ってしまう。
「高校2年からは部長もやっていて、明るくて活発でした。モテましたね。ずっと彼女いました」。そう語るのは、Aと同じ高校・大学に通う“親友”だったという女性。「よく渋谷に来て遊んでいました。映画観たり、洋服を買ったり。このカフェには、飲み終わりとかに“酔いを醒まそう”ってよく来てましたね。彼は下戸なので、無理して飲んで。そしてここでコーラを飲んでました(笑)」。
亡くなるわずか1週間前には、女性ら友人と3人で静岡県の川へ遊びに行っていた。「全くと言っていいほど予兆はなくて。いつも通りで、ずっと楽しそうでした。私も、こんなんできる友達いないな、この瞬間が、今までで一番楽しいかもって」。
一方、同居していた家族も、Aの異変には気づけなかったという。「あまりにも突然のことで。何が起きているのか、息子の口から聞く間もなく逝ってしまいました。将来やりたいことも決まり始めていたのに、本当に何故、どうしてこんなことになってしまったのか、どうして止めることができなかったのかと、後悔してもしきれない毎日です」(Aの母親)。
Aは自殺後、強盗などの容疑で書類送検された。「彼女とご家族に向けて、書き殴りの遺書が残っていたって聞きました。ご両親も“正規ルート”で幸せな家庭。彼女もいい大学に行って、就職もしていて。でも自分は生きてはいけるけど、幸せの“正規のルート”じゃない。迷惑をかけるくらいなら…と。あんなに明るかったけど、本当は辛かったのかもしれないとか、彼が抱えていた“何か”を考えると、ただただ悲しかったです」。
一方、女性は「(親からは)留学費用も出せるけど、自立のために自分で出してほしいって言われていたみたいです。お小遣いをもらっているということも聞いたことない」とも明かした。「楽ちんに稼ぐのは好きなイメージがありました。パチンコも好きでしたし」。
■「悪いこともしてたんですけど、結構優しいところもあるなと思ってました」
「“殺すぞー!”縛れー!”って言うから、ブルブル震えましたよ」。この関西在住の女性も、過去に強盗の被害に遭った一人だ。後に実行犯として20代の男2人が逮捕されたが、いずれもSNSで“闇バイト”に応募、互いに初対面だったという。若い方の男Bについて被害者の女性は”犯罪には慣れていない雰囲気で、無邪気な少年っぽささえあった”と振り返る。
「“おばちゃん、料理上手そうやな、オムレツ作ってくれへんか”って言うたんです。そして“息子いくつや?”って聞くから、“50くらいやわ”って教えたら、“ほんなら僕、孫やわ”って。あんまり怖くないな、きつい感じはないな、と思いましたね」。
「えーっ?と思って。なんでそんなことしたのかなって…。性格は明るかったですかね。僕の田舎に一緒に行った時、母親がこけないよう、寄り添って、手を差しのべる感じで歩いている姿を見たことがあって。悪いこともしてたんですけど、結構優しいところもあるな、と僕は思ってました」。
過去には少年院に2度入るも、家族に支えられながら、更生の道を歩んでいた中での事件。「面接に行く」といって家を出たきり、戻ってくることはなかった。「お金持たすと帰ってこず、ろくなことがなかったので、仕事せえ、仕事せえ、という感じで言っていたんですけど…。“仕事見つかった”と言って出て行ったもんやから、仕事するもんやと思って」。
実刑判決を受け、今は刑務所にいるB。そして受け取った報酬は、当初提示された額を大きく下回るものだったという。
■「“やらないです”と言ったんですけど、“逃げられると思うなよ”と言われて…」
「僕は“アルバイト”とか、“高収入”で検索しました」。不動産会社でサラリーマンをしていた男性(26)は、手取りの給料が13万円ほどのところ出費が重なったため、去年2月、SNSで見つけた“闇バイト”に軽い気持ちで手を染めた。「友人の結婚式など、いろいろ出費があって。副業したら年末調整でバレるかもって」。応募の際、“指示役”の男が説明していた仕事内容は「簡単な荷物の受け取り」。しかし実際は身分を偽って高齢者を騙しキャッシュカードなどを盗む「詐欺」だった。
“本当の仕事内容”を知ったのは、前日の夜だったという。「(送られてきた)シナリオの中に、XX警察署のXXですと…。これは警察官を装ってキャッシュカードを盗むんだっていうことは、そこで知りました。話が違いますよね」。男性が騙されたことに気付くと、指示役の態度が豹変、事前に“本人確認”のために送っていた身分証をネット上に晒すなどと脅された。「“やらないです”と言ったんですけど、“お前の素性、全部わかっているんだからな、逃げられると思うなよ”って言われました」。
指示役は、犯行の間もイヤホンで男性に指示を与え続けた。
「まず、インターホンを鳴らして、“警視庁のXXと申します。XX刑事の件でお伺いしました”と。そして玄関前で、“XX刑事から説明があったものをちょっと取ってきて下さい”。おばあさんがキャッシュカードを持って戻ってくると、“では手続きに入らせていただきます”といって封筒を2枚出し、“カードを入れてください”と言います。本人にやってもらうことで信頼させるためです。次に“封をして割り印をするので、銀行印を持ってきて下さい”と言って、おばあさんが目を離した隙に逆にする感じですね。被害者が“なんで私がこんな被害に”と言うと、“大丈夫ですよ、安心してください、これから手続きに入りますから”と、飛んでくる指示をそのまま言う感じです」。
あらかじめポイントカードを入れて厚みを持たせた封筒と、キャッシュカードを入れてもらった封筒をすりかえる、まるで手品だ。男性はカード4枚を盗み、そのまま立ち去ったが、女性の金を引き出さすことなく、踏みとどまった。それでも事件から1カ月後、詐欺などの疑いで逮捕され、執行猶予4年つきの有罪判決を受けた。
そして、事件から1年以上が経った今も指示役の素性についてはわからないままだ。「日本にいるのかいないのかも分からない」。
■「履歴がなければ警察は立証できないわけでしょ?」
取材班は、こうした“指示役”を担ってきた男にSNSで接触。会う約束を取り付けることに成功した。
東京・新宿区の待ち合わせ場所に現れたのは、佐藤(仮名、取材当時26)と名乗る細身の若い男。佐藤は特殊詐欺などの犯罪行為を100人以上の若者らに仕向けてきたが、去年7月、金を持ち逃げした「受け子」を捕まえるため、その友人を恐喝したとして逮捕、起訴された。
「(犯罪計画の)話は何個もあるから。どの現場が一番その子に、合ってるかで仕事を入れる感じ。ある程度の畏怖感は与える必要があるかな。色々脅し文句を使ったりしますね。“飛んだらこうなるよ”、と。身分証の写真も送らせるし、自宅の番号も全部聞くんで。“金貸してたけど飛ばれたんやけど”とか親に連絡入れたら、“マジで来た”って怖がって連絡してくる子が大半ですね」。
佐藤の話を元にした“闇バイト”の仕組みはこうだ。特殊詐欺などを行う複数の犯罪グループから実行役を手配するよう依頼が入るとSNSで募り、集まった若者たちに手口を教える。そうして手に入れた金は、実行役たちや依頼主と分け合う。依頼主には詐欺を専門にしているグループだけではなく、暴力団や半グレも含まれているという。
佐藤らが犯行に用いていたのが、LINEなどに比べて秘匿性が高いとされる無料メッセージアプリ「Telegram(テレグラム)」。一般的なアプリの場合、メッセージが送信される際には運営会社のサーバーに記録が残されるため、捜査機関が開示請求をすれば、やりとりの情報を得ることもできる。一方、テレグラムの場合、サーバーが固定されておらず、端末に残った記録も自動で消去されるため、やりとりが闇へと葬られやすいのだ。
「都合がいいですよね、何するにしても。(実行役が逮捕されても)不安にはならないですね。だって、僕が関与したという証拠ないじゃないですか。テレグラムでやり取りしたと言っても、履歴がなければ警察は立証できないわけでしょ?」。
■「将棋で言うたら、“歩”と一緒ですよね」「“助けて”って言ってほしかったです」
一回の仕事でもらった最高額は700万円に上ると話す佐藤。
「おばあちゃんで一番すごかったのは、20何億持った人がいて、4億ぐらい騙し取られてるんちゃうかな?それでも娘、息子にバレるのが嫌やからって、被害届け出してないんで。それで経済まわってるわけやし、騙されるあんたらが悪いって感じなんで。(末端の若者ばかりが逮捕されることへの罪悪感は)全くないです。その子らも、お金がほしくてやってるわけやし。だって成功したら、こっちが神様なわけじゃないですか、“ありがとうございます”“こんなにもお金稼げてよかったです”って。将棋で言うたら、“歩”と一緒ですよね。役もちじゃないから、現場に突っ込む以外、能力ないじゃないですか」。
取材に応じたのは、足を洗うことを決意したからだという。「時計も持ってるし、ネックレスも持ってるし。買いたいもん、ないんで。トラックでたこ焼き屋でもやろうかなと、気楽に。月に100万稼げたらいいかな。いけるでしょ?100万くらい。わからんけど(笑)」。
「社会人2~3年目に彼女と結婚して、子どもができて、きれいなお家に住んで。思い描いた通りの未来があったと思います。…“助けて”って言ってほしかったです」と涙ながらに語る前出の男性Aの友人。
Bの父親も、「一番なんでもできる時期やのに、アホなことしたなって。“捨て駒扱い”されているという言葉を聞いたら…平気でそんなこと思ってるんだったら、殺してやりたいくらいの気持ちはありますよね」と憤った。(朝日放送テレビ制作 テレメンタリー『#闇バイト~「捨て駒」にされた若者たち~』より)