奨学金“300万円”使い込んだ父に「ありがとう」 広告主を取材「もう少しお金の知識や考え方が違っていれば…」
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「お父さん、オレの奨学金を使い込んでくれて、ありがとう。」

 真っ白な紙にシンプルな言葉でつづられた、父への思い。6月20日の父の日に合わせて掲示されたこの広告が、いま話題を集めている。

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「パチンコも競馬もやってないのに、どうやって借金をこしらえたの?」

「給食費が払えなくて中学からバイトしたときは『なんでオレだけ?』と思ったよ」

 岩手県の盛岡駅と二戸(にのへ)駅で今月18日から掲示されているこの広告。父への皮肉と苦々しい思い出がつづられ、思わず足を止めてじっくり読みたくなる内容になっている。

 ニュース番組『ABEMAヒルズ』では、広告の掲示主である足澤憲(たるさわ けん)さんを取材した。

■足澤憲さん「ずっと生活がギリギリ…」 自分の奨学金を使い込んでいた“父親”

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「家がとっても貧乏だったので、普通の家だったら買えるものが買えなかった。本当にずっと生活がギリギリという状態を続けていた。幼少期はそういう記憶しかないですね」(以下、足澤憲さん)

 お金がなく、バイト漬けの日々だった学生時代。そんな足澤さんの人生に良い意味でも悪い意味でも大きな影響を与えたのは、父親だった。

 普段から、衝動買いの癖があり、使いもしないようなパソコンなどを買ってきていた父親。そんなある日、驚きの事実が発覚する。

「奨学金を、実際に返そうとなったときに『なんか返済金額が多いな』と思って。いろいろ聞いていったら、どうやらお父さん使い込んでいた。300万円は使われていたと思う」

 知らぬ間に使い込まれていたおよそ300万円の奨学金。しかし、不思議なことに、父親を咎める雰囲気にはならなかったという。

「『返してよ』と言っても返ってくるものではない。あまり父に『返してよ』と言うことはなかったですね。父自身、すごく自信があるタイプで、父自体がネガティブになることもあまりなかった。いまいち良好な親子関係ではなかったような気がしますが、母もかなりポジティブな人だったので、なんとか“家族”が保たれていたのだと思います」

 父親に奨学金を使い込まれた経験から「どうやったらお金で損をしないのか?」を考えるようになった足澤さん。奨学金も工夫して返済し、6万円近いポイント還元を受けられた。そして、自身の経験を踏まえ、キャッシュレス決済やクレジットカード使用の際のポイント還元率が一目でわかるアプリ『AIクレジット』を開発した。

「もう少しお金の知識や考え方が違っていれば、もしかしたら父が生きている間にゆとりのある生活が送れたのではないかと思った。『AIクレジット』を作った原点としては、お金を考えるきっかけになればいいな思ったのと、もう少しお金に関する知識を日本人がアップデートできたらいいなと思って作り始めました」

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 足澤さんの人生を変えるきっかけにもなった父親の存在。しかし、およそ2年前、父はこの世を去った。

「お金に関する知識をアップデートできるように」

 そんな思いが込められていた広告の最後は、亡き父への言葉で締めくくられている。

『お父さん、この文字は読めてるか? この世に未練のあるあなたなら幽霊になって読んでるよな。お父さん、パソコンを買ってくれてありがとう。お金について考えるチャンスをくれてありがとう。そのうち天国で飲もうな』

■「安易に真似できない広告」素朴な語り口がSNSで反響に

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 足澤さんが出した広告は、SNSを中心に反響が相次ぎ、ユーザーも2万人以上増えたという。このニュースにIT起業家の関口舞氏は「素朴な語り口や足澤さんの人柄の良さが現れている」とした上で「広告戦略としても良い事例だ」と評価する。

「広告枠は買えば買うだけリーチできる人数が多い。今回、足澤さんが広告を出した場所は、新宿駅といったターミナル駅の広告ではなく、岩手県にある2つの駅。たくさんのお金をかけて芸能人を起用しているわけでもなく、素朴な文章が書かれているだけ。SNSで広がって話題になって、ユーザーが増えた。コストパフォーマンスの面でも良い事例だと思う」(以下、関口舞氏)

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 また、関口氏は2万人というユーザー数の増加に「広告の文章を読んで、足澤さんの理念に理解してくれる人だけが、アプリをダウンロードしたのでは」と推測。その上で「安易に他社が真似できるような広告ではない」と指摘する。

「こういった広告は、他の会社が真似してもうまくいかない。人の命、苦労といった内容はセンシティブ。ネットでは、すぐ『嘘なんじゃないの?』と疑ってくる人もいる。表示の仕方は消費者も敏感になっていて、わざとらしい表現では、受け入れてもらえない。今回は足澤さんの素朴な思いや、苦労した経験など全てが合致して、見た人の心をジーンとさせている。安易にやろうと思ってうまくいく広告ではないので、出し方は真摯に考えていく必要がある」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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