前職の情報は転職先への“お土産”? 「かっぱ寿司」社長の競合データ不正取得疑惑に弁護士「予防策が極めて重要」
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 先月28日、警視庁は回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイトの本社を不正競争防止法違反の疑いで家宅捜査した。

【映像】カッパ・クリエイトが発表したコメント文(1分ごろ~)

 渦中にいる田辺公己社長は同業他社の「はま寿司」の元取締役で、去年11月にカッパ・クリエイトの顧問になった後、社長に就任した。田辺社長は、去年11月から12月にかけて元同僚から「はま寿司」の売り上げデータなどを複数回にわたって受け取っていた疑いがある。この事態にカッパ・クリエイトは「捜査に全面的に協力し、その進展を踏まえた上で厳正に対処してまいります」とコメントしている。

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 IPA(情報処理推進機構)が発表した情報管理に関する実態調査を見ると、情報漏洩のルートとして、2016年に最も多かったのが従業員の人為的なミスだった。しかし、2020年には中途退職者による漏洩が急増し、これが最も多いルートになっている。

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 近年増加している退職時のトラブルに、湊総合法律事務所は「退職リスク対策チーム」を立ち上げた。同事務所の太田善大弁護士によると、過去に勤めていた会社の内通者を通じて情報をもらうことは「よくある形態だ」という。

「自分一人でやらず、内通者を通じて情報をもらっている。事実だけいっても計画性があって悪質だ。ただ、不正競争防止法違反で立件するためには、持ち出した情報が『営業秘密』に該当する必要がある。営業秘密と認められる3つの要件の中で、ポイントとなるのが『秘密管理性』だ。きちんと会社の中で秘密情報として管理をしていたかどうか。具体的にはアクセス制限が設定されていたか、ダウンロードやコピーの物理的な禁止の措置がとられていたか。また、従業員にその規則の周知を徹底していたか。持ち出された情報が、会社にとっての“秘密情報”だと、従業員が認識できる程度の対策をとっていたか。こういった要素が秘密管理性を認めるために重要になってくる」(太田善大弁護士・以下同)

 秘密管理性の要件が満たされず、相手に刑事罰を科すことが難しくなってしまう事案も多いという。太田弁護士は「労働市場の流動性に伴って、情報が外に持ち出されるケースは急増している」と明かす。

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「アクセス制限がされていないと、いくらでも情報をとれてしまう状態。なので、かなり安易に『自分が独立した後、何か役に立つかもしれない』と会社の情報を持ち出して流用することが多くある」

 例えば、自分が独立するにあたって、会社の顧客情報を持ち出し、元の会社の顧客を奪ってしまったり、転職先への“手土産”の感覚で会社の情報を持ち出してしまったり、こういった行為は退職トラブルにつながりかねない。また、海外の企業に引き抜かれると同時に、製品の情報などを持ち出して、技術が流出するケースもある。

「(秘密情報を)持ち出された企業側は、できれば刑事事件にしたい。どのような形で持ち出されたのか。その情報がどのような形で利用されているのか。なかなか持ち出された側の会社から調査するには、手段が乏しい。不正競争防止法に基づいて告訴して、それが受け付けられると捜査機関で強制的な捜索差し押さえなどができる。こういった手段で情報がなぜ持ち出されたのか、どのような形で利用されているか、そのあたりが強制的な捜査で明らかになっていく」

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 もし、刑事事件として立件されなかったとしても、企業への損害が認められた場合は、民事上で億単位の賠償責任を負う可能性もある。一方、情報を持ち出された企業にとっては、損害がいくらになるかを証明するために非常に煩雑な作業が必要になる。そのため、退職トラブルが起きないよう、前もってライバル企業への転職を禁じる規則を盛り込むなど、専門家に相談して事前に対策を練る企業もある。

「競業避止義務自体が有効で違反した場合、損害賠償請求していくために『損害がこれだけ発生しました』と会社が証明する必要がある。これもハードルが高いので、先に『違反した場合はいくら払う』と合意書に盛り込んでおくなど、予防策が極めて重要になってくる」

 近年問題になっている転職や独立に伴う秘密情報の持ち出し。職業選択の自由を持つ労働者と、雇い手である企業の立場、両方の権利を守っていくためには、まだまだ模索が必要だ。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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