カトウさん(40、仮名・関西在住)には、お腹の子どもを亡くした経験がある。出産予定日の2週間前、原因不明の心停止だった。「本当に突然崖から突き落とされたような気持ちになった」。
・【映像】死産を経験した母親が抱える苦悩と孤独 病院に置けない死産・流産の支援情報
12週以上育った子どもが亡くなった場合、出産をしなければならない。「生まれてきても亡くなっているんだって思うと、逆に出てこないで欲しい、お腹の中にずっといて欲しいって。抱っこしても動かない。声かけても反応が全くない。(お腹の中で)安静に過ごせなかったからじゃないかって。無事に出産ができたら、みんなからすごく祝福されたり、色々とケアもしていただけるが、死産となると、病院の方もどうしたらいいのだろうという空気があって、何もなかったみたいな感じ」。
自責の念に駆られたカトウさんは、自殺未遂をしてしまう。産科医の薦めで精神科医にかかったものの、期待したような対応はしてもらえなかった。「悲しい気持ちとかを吐き出したかったが、誰も話を聞いてくれず、朝昼晩と安定剤みたいなの渡されて、時間が経つのを待ってるだけやんかっていう。産科の先生にそこへ行けばよくなるって言われたのに、裏切られた気持ちにもなった。大きな病院だったので、なかなか先生にお会いすることができず、看護師さんに“なんで話を聞いてくれないんだ”と泣き喚いた事もあった。そうすると、“また暴れているわ”という感じで薬が増えたりして。もう言っても無駄なんだと感じた」。
さらに精神科医からは、心無い言葉もかけられたという。「“子どもが死んだくらいで”ってボロッと言った。こんなに辛い、悲しい経験してるのに、そんな言葉で片づけられるんやと思って」。
1週間後に退院の日を迎えたが、「本当に体も心もボロボロ」だった。「病院を出れば、何事もなかった、子どももいなかった生活に戻らなければいけない。。無事に生まれた場合と死産した場合とで、雲泥の差があると思った」。
死産から3年。悲しい気持ちは今も全く変わらないと話すカトウさん。それでも「見て見ぬ振りをされるほど、他人事なのかなと傷つくし、腫れ物に触るような扱いは一番悲しい。それなら一言“頑張ったね”と言ってくれたほうが、私は救われる」。
訪問看護師で2度の流産を経験した内藤有香子さんは「ご家族と最初に関わる重要な存在だと思うので、医療者はきちんと向き合って寄り添わなくちゃいけないなと思うが、大変な場面だからこそ、どう関わっていいかわからなくて、避けてしまうような医療者もいると思う。そういう中で発信できずに孤立してしまっている方もきっとたくさんいるんじゃないかなって思う」と話す。
■死産なのに母子保健関連の連絡が…手薄な行政のケア
前出のカトウさんが退院後に行き着いたのが自助グループ「ポコズママの会関西」だった。メールでカトウさんとやりとりをした大竹麻美代表は「当事者たちの話を聞いていると、厳しい状況だと日々感じている。こういう自助会に参加するにもハードルが高く、ホームページの訪問件数は多いものの、実際には1割ほどしか相談に来られていないのではないかと思うくらいだ。やっと来られても、声も出せずに泣いているのが普通だ」と明かす。
「一方で、研修などで医療者の方々とお話しする機会があるが、臨床が忙しいということと、昔から日本は感情をあまり入れてはいけない的な教育をされているということもある。助産師さんたちも、ハッピーなお産だけをイメージして職業に就く人も多いと思うので、死に向き合うというのはしんどい部分があると思う。そこは教育とか組織の問題にもなってくると思う。ただ、正しい情報提示は求めたい。赤ちゃんを亡くされたお母さんは頭が真っ白で、我が子を抱いてもいいのかどうかももわからない状況だ。医療処置も含めて、丁寧な説明が欲しいと思う」(大竹さん)
また、行政のケアも手薄だ。死産届を出したにも関わらず自治体から母子保健関連の連絡が来る一方、産後ケアはされない、また窓口職員に心無い対応をされるなどの課題も残る。
「社会で生きていかなければいけないので、自助会だけではなく、医療の面と行政の面でのケアが必要だ。そこで私たちは『はちどりプロジェクト』という団体を立ち上げ、当事者と医療者が対等に組んで社会啓発していこうと思って始めた。厚労省にも母子保険の方で国にグリーフケアが抜け落ちていることを確認してもらい、5月に各自治体に対し、流産や死産を経験した女性等への心理社会的支援を整備するようにとの通知が発出された」(大竹さん)。
孤独に苦しむ流産・死産当事者。周囲の人の理解や支援、さらに医療、行政のケアの充実が求められる。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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