藤井聡太王位(棋聖、18)と豊島将之竜王(叡王、31)。将棋界をリードする2人が大熱戦を演じたのは7月13、14日のお~いお茶杯王位戦七番勝負の第2局だ。序盤・中盤・終盤とリードを奪った豊島竜王に対し、藤井王位は僅差で追走し続け、最終盤で逆転勝利。シリーズ成績は1勝1敗のタイに戻った。この対局の前までに、藤井王位は豊島竜王に1勝7敗と大きく負け越しており“天敵”とも言われていた。第2局の勝利で2勝7敗になったが、勝率8割を楽に超える棋士がここまで負け越すことに多くのファンが首をひねり続けてきた。この疑問に森内俊之九段(50)が語ったのは「タイトル戦で1回勝ったりすると違ってくる」というものだった。
森内九段は十八世名人の有資格者。羽生善治九段(50)と同学年で、名人戦だけでなく数々のタイトル戦でも活躍し、強豪が揃った「羽生世代」の一人だ。長年のライバルでもある2人の対戦は、過去に138局あり羽生九段の78勝、森内九段の60勝。多くの名局もこの中から生まれてきた。
実力が拮抗するもの同士でも、きれいに勝ったり負けたり、というわけにならないところがおもしろい。一方が5連勝したと思えば、次はもう一方が6連勝。そんなことも珍しくない。対羽生戦について聞かれると「最初全然勝てなかったですけど、いい時期もあった。リズムとか個人個人の最盛期の時期とかもあったりする。結構同じ相手でも勝つ時期もあれば、負ける時期もある」と自身の経験を語った。
では藤井王位と豊島竜王はどうか。第2局が行われている最中に森内九段は、豊島竜王の研究の成果だと指摘した。「豊島さんの研究がすごく行き届いている気がする。精度も高いですし、藤井対策としても、かなり厳しいところを突かれている気がする。豊島さんがそれだけ準備をしてくるなら、同じだけやってないとなかなか踏み込んでいくのが大変。自分が深く調べてないところを当てられてしまうと、(藤井王位は)ちょっと苦労しているのでは感じています」。第2局こそ終盤で逆転されたものの、2局とも序盤・中盤とペースを握ったのは豊島竜王。明らかに藤井王位が苦しむ時間が長かった。この対局まで、長時間対局では全て豊島竜王が勝利していたが、それも深い研究による作戦勝ち、そのリードを守る組み立て、そして勝ち切る終盤力が合致してのものだったのだろう。
これを聞く限り、次が第3局となる王位戦七番勝負、さらには叡王戦五番勝負と続く直接対決では、藤井王位の苦戦が予想されるが、ここで森内九段の発した言葉が重い。「大きな舞台で負かされ続けていると気分的には嫌だなという時はあります。タイトル戦で1回勝ったりすると違ってくる」。今までの敗戦のイメージを払拭するのに、効果絶大なのが大舞台での1勝。紙一重の勝負であるほど、わずかなきっかけでその後の結果が大きく変わることもよくある。
王位戦七番勝負第3局は21、22日。さらに中2日で叡王戦五番勝負第1局は25日。この2局で藤井王位が豊島竜王を押しまくるような展開が生まれたとしたら、それは間違いなく逆転で勝ち取ったこの1勝の効果だ。
(ABEMA/将棋チャンネルより)