13日、来日中の国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長と面会した。安全な大会開催への意欲を示したところで「最も大事なのはチャイニーズピープル…」と日本人を中国人と言い間違えたバッハ氏。すぐに「ジャパニーズピープル」と言い直したが、ネットでは「もう心は来年の北京五輪か」といった批判の声が寄せられていた。
【映像】7月には大きなギャップが…「五輪のイメージ」に関する意識調査
翌14日には、東京都が確認した新型コロナウイルスの新規感染者は1149人にのぼった。1000人を超えたのは5月13日(1010人)以来で、20代や30代といった若者の新規感染者が目立っている。
コロナ禍で開催される五輪について、ニュース番組『ABEMAヒルズ』出演した明星大学心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖氏は「月を追うごとに、東京五輪がどんどん悪いイメージになっている」と話す。
藤井氏は、今年5月から7月にかけて日本の東京五輪に対するイメージ調査を実施(回答数2527人)。「顕在的認知」「潜在的認知」の両方から、イメージの継時的変化を調べたという。
まず藤井氏は「顕在的認知」と「潜在的認知」の違いについて、前者は「論理や冷静さを働かせて答える表向きの考え(建前)」で、後者は「感情にも関連した無意識的で率直な態度で、本心(本音)に迫る指標」と説明。
「一般的に世論調査等で使われるアンケート調査では、回答が「はい」「いいえ」といった選択肢で答える形式だが、意識的にコントロールできるため、本音が反映されていない場合がある。一方でパソコンの心理検査プログラムを使って調べる潜在的認知は、人が意識して結果を操作することができないため、より正確な心理を把握できる場合がある」とした。
その上で「5月は、顕在的と潜在的の結果にそれほど差がなかった。しかし、6月、7月になるとかなり変わってきていて、建前と本音に大きなギャップが見えてくるようになった」と述べる。
「一定程度年齢を重ねていれば、過去に開催されたオリンピックの感動的な場面をテレビなどで見た記憶や、金メダルを取った自国選手のよい印象がある。それらは、顕在的な認知に現れやすい。つまり、本来的には良いイメージを持っているはずなのに、東京オリンピック開催に至る経緯の中での、国民には理解し難い政府の方針や、バッハ会長の“チャイニーズピープル”発言のような批判につながる関係者の発言などもあいまって、心の中で月を追うごとに悪いイメージになっている可能性がある。全体的にオリンピックのイメージが、本音の部分で低下している」(藤井靖氏・以下同)
今回の調査結果について、藤井氏自身も「こんなにギャップがある結果になると思っていなかった」という。
「同じ手法で人種問題を調べると、顕在的には『差別はだめ』とほぼ100%の人がアンケートで否定するが、潜在的には差別感情を持っている人もいる。そのような感情は、何かきっっかけがあると意図せず噴出してしまうことがある。例えば黒人の人が罪を犯すと、白人の人が苦言を呈したりといった、何らかのネガティブな言動につながったりする。潜在的な認知は、率直な反応であり、理性や論理でコントロールできない」
「そのため、今後、例えば仮に選手村でクラスターが発生したり、予期しない問題が発生した際、日本においては暴動や過激な抗議活動には至らないとしても、低下した五輪のイメージが、人々のネガティブな言動や働きかけにつながってしまうことが懸念される」
「これらは東京五輪に出場する選手のイメージにも当然関わってくる。選手たちは、結果を出そうと長年努力して頑張っていて、そこにネガティブなイメージがついてしまってバッシングすることになってしまうとしたら、それは本当によくないし、残念なこと」
では、イメージを回復する方法はあるのだろうか。
藤井氏は「なかなか難しい。潜在的な部分が変わってしまうと、これを回復するにはそれなりに長い時間と、ポジティブな経験による上書きが必要」と説明。
最後に、五輪開催の是非についての調査結果にも言及し「開催に賛成か,反対かという質問でも、顕在的な反応としては他の世論調査とほぼ同様の結果が出たことに対して、潜在的には反対の割合がより高かった。これは、ある種の諦めや無力感、あるいは既成事実化した開催に対する『はいはい、やるんでしょ』という賛成がアンケート調査なんかでは出やすいことが影響している。表面的な反応だけを鵜呑みにしてしまうと、それは本質とはいえない」とした。
東京五輪の開幕まであと約一週間を切っている。低下したイメージをどれだけ回復できるか、今後の動きに注目が集まっている。
(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
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