ベラルーシ選手がポーランドへ亡命 ロシアの目を気にしつつ…「ちゃんと亡命できる体制を作ってあげたということは合格点」
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 コーチを批判したことで帰国を命じられ、それを拒否していたベラルーシのオリンピック女子陸上、クリスチナ・チマノウスカヤ選手が4日、亡命先となるポーランドに向かうため成田空港から出国した。

【映像】ベラルーシ代表が“亡命希望” 日本の対応は十分か

 2日に明らかになった、チマノウスカヤ選手と代表コーチらのやり取りを録音した音声では、コーチから「『(指示に従えば)生きられたのに愚かだった』と国民は言うよ」といった脅迫めいた言葉も。チマノウスカヤ選手は、このまま帰国することに生命の危険を感じるとして、羽田空港で帰国を拒否。ヨーロッパ諸国への亡命を希望し、IOC・国際オリンピック委員会に問題への介入を求めていた。

 東京オリンピックの最中に起きた亡命問題。日本はどう対処すればいいのかを考える。

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 ベラルーシは、1991年のソ連崩壊後に独立した国のひとつ。1994年以降、ルカシェンコ大統領が就任。欧米諸国からは「ヨーロッパ最後の独裁者」とも呼ばれ、国内ではたびたび退要求のデモも起きている。

 チマノウスカヤ選手が帰国に命の危険を感じている背景について、東京大学先端科学技術研究センター特任助教の小泉悠氏は「2020年8月にベラルーシで大統領選があって、ルカシェンコさんが6回目の任期をいよいよ始めるということで、さすがに国民が怒った。大規模なデモがあり、結果的にルカシェンコさんは追い詰められたが、ギリギリ踏みとどまった。その後、徹底的に反体制派を捕まえて投獄したり、反体制運動の指導者たちを軒並み国外追放というふうに、非常に激しい弾圧をやった。去年くらいからベラルーシ人の中でも、政権に今逆らうと本当に身が危ないのではないかという危機感が強まっていたと思う」と説明。

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 チマノウスカヤさんが批判したのは政権などではなく、予定にない種目に出場させようとしたコーチだが、「割と小さな、非政治的なことをSNSに書いたら、それがコーチの怒りを買った上に、ベラルーシのネットでも『裏切り者だ』みたいに叩かれた。特に去年の反体制運動以降、明確に反ルカシェンコとか政権転覆を言わなくても、何となくあやしいというだけでも捕まったりとか、全然関係ない犬の散歩をしているだけの人を機動隊が捕まえてバスに押し込めてしまうということが起こっている。そういう雰囲気の社会で、国家に楯突いてオリンピックから連れ戻されて来たという人がどうなるかといったら、このままでは帰れないとなるのはおかしくないと思う」との見方を示す。

 今回のケースでは、チマノウスカヤ選手はヨーロッパ諸国への亡命を希望しているが、日本ではどのように対応することになっているのか。弁護士で全国難民弁護団連絡会議世話人の児玉晃一氏は、「ちゃんとした対応も(できていない)。今回はいい方向にいったが、前回のウガンダの時、僕は警察署まで行って面会を求めたりしていたが、それも取り次いでもらえなかった。こういう事態を想定したマニュアルなどはされていないのだろうと思う」と指摘した。

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 ベラルーシをめぐる情勢について、ジャーナリストの堀潤氏は「ベラルーシの皆さんとロシアの皆さんは緊密な関係だから、『ルカシェンコは嫌だけれど、ロシアが嫌なわけではない』と。日本側としてもロシアという国を刺激するようなことはしたくないのかなとかいろいろ穿った見方もしてしまうが、ロシアとベラルーシの関係は近いものがあるのか」と投げかける。

 小泉氏は「ベラルーシの反体制運動も『反ロシアではない』ということはすごく強調する。『これは反ロシアの運動なんだ』『ロシアとロシアの仲間のルカシェンコ』というくくりにした途端に、ロシア軍が介入してくるのは目に見えていて、ベラルーシの民主派としてもそれは言えない。ただ、ベラルーシのことを考える上でロシアとの関係は出てこざるを得ない。チマノウスカヤさんの亡命という問題、本来はチームの中の割と小さな話だったが、明らかにもう政治的に大きな意義を持ってきてしまっている。日本政府としても、これは“対ロシア”という思考は必ず働くんだろうと思う一方で、今日本は“(自由で)開かれたインド太平洋”政策として、民主的な価値観を持つ国々と努力を結集してやっていこうというのを安全保障の一個の柱にしているわけだ。その時に、政治的に民主的な体制がなく、国民が迫害されているという状態の1人の人を保護できないのであれば、日本の安全保障政策の信憑性というのもだいぶ損なわれると思う。その意味では、少なくても邪魔はしなかった、ちゃんと亡命できる体制を作ってあげたということは、100点満点ではないかもしれないけれど、ある程度の合格点ではあったんじゃないかと思う」との見方を示した。

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 今回のような第三国への亡命希望に対し、日本は以前からも対応を行っていたのか。児玉氏は「自国で受け入れなくて済むのであれば協力してくれる、というか邪魔をしない。かつて僕の依頼者でも、日本では難民認定されなかったが、国連が難民認定をする制度が昔あった。それで認定された人がノルウェーに出国する時には、何の問題もなくスッと出ていかれたりした。こういう言い方はあれかもしれないが、自分のところの負担にならないのであれば、ご自由にどうぞというスタンスなのではないか」とした。

 今回の問題は、ある意味でベラルーシの情勢を身近に感じるきっかけになったとも言えそうだ。小泉氏は「今回はオリンピックに出てくるアスリートだということで注目を集めてもらえたが、注目されないまま流されてしまっている人たちはずっと多いだろう。これを一過性に終わらせないで、日本として政策にまで持っていくといういい機会にできればいいんじゃないか」、児玉氏は「非常に注目されたことで、危険があるということをわかっていただけたんじゃないか。特にウガンダの選手を僕は追いかけているが、本国に戻って5泊6日警察に入れられて、また8月4日に再収監されるんじゃないかという報道が出ている。いろいろな容疑を当局はくっつけたりしているが、まさにこういうことが起きてはいけないので、迫害の恐怖に十分理由がある人は保護しないといけない。条約の精神をもっと徹底しなくちゃいけないと思う」と訴えた。

(『ABEMA Prime』より)

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