「なんで被害者ばっかりこんな思いしなあかんのかなと」「涙ながらに訴えたこと、またイチからなん?」度重なる不可解な検察の対応に苦しむ性暴力被害者
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 ※本記事では、性暴力の実態を伝えるため、被害について具体的な証言が出てきます。フラッシュバック等の症状がある方はご注意ください。

 検察が一度不起訴にしたあるわいせつ事件について、異例の再捜査が進められている。2018年1月17日の夜、マンションの一室で営まれていたアロママッサージ店でのことだった。

 「手がだんだん紙のブラジャーの中に入ってきてるなって。これは何なんやろって思って…」。整体師は逮捕されたものの、検察が下したのは“不起訴”の判断。「苦痛ですよね。なんで被害者ばっかりこんな思いしなあかんのかなと」。

 検察の判断のよりどころになった“ある考え方”、そして被害者の女性が直面することとなる性犯罪捜査の現実。性暴力をめぐる、あまりに不可解な検察の対応…。加害者の起訴を求め立ち上がった女性の闘いを追った。(朝日放送テレビ制作 テレメンタリー裁かれなかった性犯罪』より)

■「ひたすら無言でした。その無言が逆に怖くて」

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 京都市に住む、当時30代の女性。ネットで予約し初めて訪れたアロママッサージ店。男性一人が応対し、ほかのスタッフの姿がないことに違和感を覚えた。「住宅って聞いていたので、奥さんとか子どもさんとか、ファミリーで住まれてるのかなって思ってました」。

 6畳ほどの「施術室」に通されて着替えると、入ってきたのはその男性だった。そしてマッサージが中盤にさしかかったときのこと。「仰向けになってくださいって言われて…。手がだんだん紙のブラジャーの中に入ってきてるなって。え、これは何なんやろって思ったけど、ちょっとやめてくださいって言うのも、密室で、他に誰もいないし、抵抗した方が、何されるかわからへんかなって。だんだんエスカレートして胸を舐めてきたりもしましたし、紙パンツ脱がされて…。相手はずっと無言でした。ひたすら無言でした。その無言が逆に怖くて」。

 何事もなかったかのように支払いを求めて来た男性に対し、女性は支払いを拒否、「こんなんいつもやってはるんですか」と問い詰めた。「いつもっていうわけじゃないですけど、じゃあ、今日はもうお代はいいです、みたいな感じで言われて。この人、何回もやってはるんやって」。

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 翌日、女性は友人に付き添われて警察に被害届を提出した。「この警察署だけでも5回以上は来てますね。マネキンを使って、どういう風な体勢で、どういう感じでされたとか。あまり話したくない内容とかも多かったですね」。

 事件からおよそ1年半後、警察は男性を準強制わいせつ容疑で逮捕した。部屋の家宅捜索では、わいせつ行為を受ける女性を含む複数の女性の盗撮映像も見つかった。「1年半かかって、やっと逮捕されたかと思いました。よかったって。これで終わりって思いました」。

■大勢の検事が作業をする部屋の一角で、性被害の話を…

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 しかし事態は思わぬ方向へ進んだ。京都地検の担当検事の対応に、女性は愕然とする。大勢の検事が作業をする部屋の一角で、性被害の詳細を話させられたのだ。「個室でもなく、衝立が横にある感じで、その向こうでは誰かが電話とったり、会話してたり、その声が聞こえてくるもんで。こちらの会話もあちらに聞こえてるんやろうなと。内容が内容だけに、配慮がないなと」。

 検事は女性に盗撮画像を見せ、確認を進めていった。この時点で、男性にかけられていた容疑は「準強制わいせつ」と、逮捕後に判明した軽犯罪法違反(住居での盗撮行為)にあたる「盗撮行為」の二つ。しかし検事は盗撮事件の手続きは進める一方、男性の逮捕容疑になった準強制わいせつ事件については、曖昧な態度を示した。

 当時の様子を録音した音声には、こんなやり取りも残っている。

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 検事:もともとはマッサージ店のわいせつ行為について捜査してると思うんです。反応していて気持ちよくなって、この行為を受け入れてくれてるんじゃないかなあって…。

 女性:でも音声が入ってるんですよね。音声の中で例えば、私が誘惑したり、触られるときにもっとしてとかいう言葉が入ってます?

 検事:それはなかったんですけれども…。

 「密室でほかに誰もいない。抵抗した方がなにされるかわからへん。最初リビングに通されたとき、キッチンとかも丸見えで、ナイフとか包丁とかもあるのが分かっていたので。何かそういう素振りをした方がいいのかと」と話す女性に、検察は言い放つ。

 検事:正直、裁判所がどういった判断をするかと考えたときに、無罪だと。

 女性:じゃあ痴漢もそうなんですか?痴漢も黙ってたら同意したってことになるんですか?

 検事:なり得る可能性もあります。そうやって罪に問われなかった事例も…。

■検事が持ち出した「同意の誤信」…男性は処分保留で釈放

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 そして検事が持ち出したのが、ある考え方だ。

 検事:同意を誤信している、って言うんですけれども、そういった場合には犯罪の認識がなかったということで無罪になるケースが多いんですね。“この人は満足してくれている”“自分の行為を受け入れている”って向こう(男性)が考えてしまうのを裁判所が排斥しきれない。おそらく無罪を出す可能性が高い。

 “同意の誤信”とは、実際には被害者の同意がなくても、客観的に見て加害者が同意の存在を誤って信じ込んでいたとみなされた場合、「罪を犯す意志がない行為」とされ、犯罪そのものが成立しなくなるという考え方だ。

 近年、これを理由に性犯罪が無罪になるケースが各地で起きている。2019年3月には福岡地裁久留米支部が酒に酔って抵抗できない女性に性的暴行を加えたとして起訴された男性に対し「女性が拒否できない状態にあったことは認められるが、女性が性交することを許容していると被告が誤信してしまう状況になった」と無罪を言い渡した(控訴審で逆転有罪判決)。

 また、同じ月には静岡地裁浜松支部も、コンビニ店舗の裏で女性に性的暴行を加えたとされた男性に対し「女性の抵抗を困難にさせたと自覚できず、承諾があると考えた可能性がある」という理由で無罪判決を言い渡している。

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 女性は検察に「私は1%でも可能性があったら裁判してほしいです。これが犯罪じゃなかったら何なんですかって。今まで1年半警察署に何回も行って恥ずかしい話もしてマネキンを使ってそんなことまでして。全く納得できません」と話していたが、このケースも「同意誤信」にあたると判断したのだ。

 「もう絶望的でした。結局私が悪かったんかっていうふうな考え方になりました」。その後、京都地検は男性を処分保留で釈放する。

■準強制わいせつ不起訴、盗撮も時効が成立と伝えられる

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 さらに2カ月後のこと。検事からの電話で、「準強制わいせつ」は「同意の誤信」を理由に不起訴、残る盗撮についても捜査に入った時点で時効が成立してしまっていたと伝えられた。

 検事:もしもし、(検事)です。たぶん事務官から伝えられたと思うんですけれども、前回のマッサージ店でのわいせつ行為については不起訴処分となってしまいました。で、盗撮の関係なんですけれども、時効が1年ということで、平成31年1月に時効が完成しているというのが明らかになってしまったので、そこの点についても裁判にかけることができなくなってしまいました。申し訳ございません。

 女性:私、次の日に被害届出してんのに、時効とかになるんですか?」

 検事:そうですね…。犯罪が完遂した、終わったときから、となってしまうので…。

 女性:え?それで強制わいせつの不起訴の理由は何なんですか?

 検事:不起訴の理由としては、ちょっと何て言いますか…合意はない…もちろん合意はされてないんですけども、相手方がそれを誤信してしまうんじゃないか…。

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 多くの性暴力被害者を支援してきた弁護士の伊藤和子さんは「なんで検察官がここまで言い切れるのかって非常に疑問を持ちましたね」と驚きを隠さない。

 「被害者の方がおっしゃっる通り、マッサージに来る段階で性行為をされるということを予想して、承諾する人なんていないわけですよ。同意があったという風に思うこと自体が非常識なことなわけなんですね。逮捕された被疑者が合意していると誤信しましたという風に弁解をした場合は100%不起訴にするという基準があるのだとすれば、それは大きな問題だと思います」。

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 女性は「性被害をなかったことにはできない」として、去年5月、検察審査会に不服の申し立てを行った。折しも母親を亡くし、一人暮らしを始めたばかり。母親にはどんなことも打ち明けてきたというが、性被害を受けたことは最期まで話せなかったという。「もうお母さんに言っても、心配かけるだけのことになってしまうから」。

■検察審査会が“不起訴不当”の判断、再び盗撮動画を見ての聴取

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 それは突然の連絡だった。検察審査会が、結論を出したのだ。検察審査会の書面には「本件不起訴処分は不当である。被疑者はわいせつな行為を行った後、『拒絶されなかったから続けた』旨供述しているが、わいせつな行為の実行に着手した時点では『同意がない』ことは明白である」と記されていた。検察の不起訴処分を厳しく非難する内容だった。

 さらに議決書は「性犯罪被害者保護の観点から」として「なぜ検察官が事件を安易に不起訴にできたのか市民感覚としては理解できない。これ以上泣き寝入りをする被害者を増やすべきではなく、もっと被害者に寄り添った再捜査をすべきである」と指摘していた。

 女性は「最初に不起訴ってなったときは、本当にもうこれ以上何ももう自分にはできないんやっていう絶望感でいっぱいでしたけど、もう1回、チャンスを与えられたかなって思うのと、すごい救われた気がする」。

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 去年12月24日に再聴取が始まった。5時間近くの聴取を終え戻ってきた女性は「結局、調書をイチから取り直し。調書自体11ページ。こんな時間かかるとは思わなかった」。聴取の中では、再び盗撮動画を見ることになった。

 「もう一部始終でしたね。“この場面は、まだ胸を触られているとは思ってない時ですか”とか、結構細かく。気持ち悪いですよね。やっぱり相手の顔も映ってますから。私の全裸も映ってました。苦痛ですよね。なんで被害者ばっかりこんな思いしないとあかんのかなと、すごい思いますよね」。

■不起訴となった男性「いまは答えたくない」

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 大阪府内で営業しているとする「アロマセラピー」店のサイトが見つかった。連絡先の電話番号は、問題となった店と同じだった。取材に向かうと、現れたのは、京都で店を営んでいた男性だった。

 「盗撮やわいせつ行為の容疑がかかっていたわけですが、そうした事実はありますか」と尋ねると、「いや、それは今は答えたくないですけれど」。「したか、してないか答えたくない?」との問いには「はい」。さらに今もアロママッサージをしているかどうかについては「いやしてないです」、「まさか今も盗撮しているとかは…?」と重ねて問うと、「だからこっちきてから一回も(施術)してないって言ってるじゃないですか」と語気を強めた。

 伊藤弁護士は「こういうのって、被害者一人の問題じゃないんですよね。こういうことしても許されますよというようなメッセージを検察庁が送ってしまっているわけですよ。勇気を出して被害を告発した被害者の方を泣き寝入りさせるだけじゃなくて、そのメッセージを通じて第2、第3の被害者を生み出してしまっている。司法が日本全体の性行為の同意に関する感覚よりも遅れをとっている。猛省すべきだなと思います」と憤る。

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 再聴取から3カ月、季節は春になった。聴取の後、検事からの連絡はなかったが、事務官からはこの日、電話が入ると伝えられていた。「多分、どっちかの結果が出るんじゃないかなと思ってますけど。私的には100%最初から起訴だろうと思ってるので…」。着信メロディが鳴った。通話後、「ありえない~」と苦笑する女性。

 「挨拶ですね。担当が変わるので、と。で、後任の新しい方はまだ決まってないと。新しい方が決まったらまた連絡が来ると。起訴か不起訴かどっちなんやろうっていう思いしかないのに、異動の挨拶はないですよね。私が涙ながらに訴えたこと、またイチからなん?って」。

■「真摯に受け止め、所要の捜査を行い、適切に対処したい」

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4月26日、3人目の検事による聴取が行われることになった。「何か聞かれても答える内容は同じですよね」と女性。番組の取材に対して京都地検は「検察審査会の議決については真摯に受け止め、所要の捜査を行い、適切に対処したい」と回答している。(朝日放送テレビ制作 テレメンタリー『裁かれなかった性犯罪』より)

裁かれなかった性犯罪
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#闇バイト~「捨て駒」にされた若者たち~
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