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 俳優・斎藤 工が演じるとき、意識していることがある。「台本に書いてある役割以上のものを提供したい」。彼の演じる人間はどの人間も独特な個性を放っているが、それは彼が挑戦し続ける俳優だからなのであろう。

 8月20日(金)より公開される映画『孤狼の血 LEVEL2』でももちろんそうだ。斎藤が演じるのは尾谷組の若頭・橘雄馬。前作『孤狼の血』(2018)で服役することとなった一之瀬守孝(江口洋介)に代わって組長代行の天木と共に尾谷組を引き継ぎ、組を嵌めたマル暴刑事・日岡秀一(松坂桃李)に怒りを持ち続けているという人物だ。ハードボイルドさが前面に出てきそうな役柄でありながら、そこにはなぜかクスッとさせられてしまうユニークさもある。斎藤工が生み出すキャラクターの面白みとは。彼の芝居観、そして『孤狼の血』シリーズ、日本のエンタメ界に対する熱い想いを語ってもらった。

「白石監督の映画は過去の邦画の大事なものを引き継いでいる」斎藤 工が『孤狼の血』出演を熱望した理由

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 前作を観て出演を熱望したという斎藤。白石和彌監督とは『麻雀放浪記2020』でもタッグを組んでいたが、そのときに想いを伝えていたのか。そう尋ねると、斎藤は「監督に直接というよりは…実際何年もこの世界にいると、どうやって映画が作られるかは分かっているつもりなので、東映の偉い人に伝えました(笑)。それが監督には間接的に伝わったようです」とニヤリ。自身も映画監督としても活動する斎藤には、“クリエイター”としての白石監督を尊重したいという考えがあったようで「ちょっと近すぎるというのもあって(白石監督に)直接というわけにはいかない。(俳優に)思いはあっても、決めるのは監督。関係値だけで作品に出してもらうというのは、どこか後ろめたさがあります。選択肢の中の1つとして頭の中に入れていただけたら…という思いでした」と語った。

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 しかし、『孤狼の血』シリーズに対する想いは強い。「僕もかつての東映の任侠ものに憧れた1人」と語る斎藤は『仁義なき戦い』シリーズが巻き起こした熱波に『孤狼の血』シリーズを重ねていた。

「『仁義なき戦い』の一作目を、北大路欣也さんがロケ先の沖縄の映画館で観たときにあまりに衝撃を受けて、そのまま劇場の電話から深作(欣二)監督に電話したという話があります。それが北大路さんだけでなく日本中の役者に起こっていた。作品から電撃みたいなものを受けて役者が集まっていくというのは、自然なことだと思うんです。また開催される“お祭り”なのであれば俳優は何がなんでも参加したい!そういう役者たちの想い、青い炎のようなものが『仁義なき戦い』のフィルムに焼き付いている。

そういった邦画は近年生まれにくくなっています。そんな中、『孤狼の血』はそこから逸している。白石監督の映画は、過去の邦画の大事なものを引き継いでいるというイメージがあります。それが僕が参加したかった理由です」

「松坂さんが何かを引き継いでいくドキュメンタリーのような部分も見えた」間近で感じた松坂桃李の覚悟と気迫

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 人気作品の2作目。それに対して斎藤自身がプレッシャーを感じることはなかったそうだが、主演・松坂桃李の覚悟と気迫は伝わってきたという。斎藤は映画『パディントン2』(2018)で松坂と共演。そのアフレコに参加した際に、松坂が作中で大上(役所広司)から日岡が受け継いだ狼柄のジッポーライターを持っているのを目撃していた。

「次回作に向かって、大上さんが日岡に渡したバトンを、松坂さんはそのように受け継いでるんだなというのを横目で見て、松坂さんが背負ってるものを感じました。

気楽に参加したわけではありませんが、僕自身が背負うというプレッシャーは感じなかった。ただ、松坂さんが何かを引き継いでいくドキュメンタリーのような部分も見えて、そこに参加できる喜びを感じました」

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 斎藤は撮影が始まって実際に対峙した“日岡”についても「間近で見た松坂さんの気迫は、足し算というか引き算の域にいっていました。削ぎ落とされて、圧倒的だった」と語り、松坂の完成度を絶賛。

 スクリーンを通して観た上林(鈴木亮平)にも衝撃を受けたそうで「鈴木亮平さんのスケール感は衝撃的でした。トム・ハーディーが『ブロンソン』を演じてるときのような、海外の俳優さんを観ている感じがしました。世代も近いので、二人(松坂と鈴木)には刺激を受けました。これは日本を代表する二人の化学反応が作品にこめれられているなと思いました」と語った。

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「いいか悪いか世間の目も厳しくなりフェアな時代になっている」斎藤 工が芝居で提案し続ける理由

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 日岡によって上林組にスパイとして送り込まれるチンタ役の村上虹郎は、役者たちが演技を仕掛け合う『孤狼の血』の現場を「圧倒的カオス」「殴り合いに戦地に行っているような感じ」と表現。それを裏付けるかのようにチンタの姉でスナックのママ・真緒役の西野七瀬も、衝撃を受けた共演者の演技について「スナックのシーンで斎藤さんがアドリブで氷を急に食べ始めて驚いた」とインタビューで答えている。

 そのことについて斎藤について尋ねると、彼の役者としての信条を教えてくれた。

「台本を読んだときに、僕の今回の橘の役柄ってただ素直にいただいたセリフを元に演じただけでは、参加賞ももらえないとわかっていました。編集に対する素材がたくさんあればあるだけ、作品を作る上で選択肢があると思うので、自分のキャラクターを展開していってもいいのかなと思いました。普段からカットがかからない限り台本に書いてある役割以上のものを提供したいと思って演じています」

 『孤狼の血』では、自分だけでなく、共演する若い役者たちからも同じ想いを感じたという。

「生の人間を撮っているので、“生の何か”が生まれたときって映画の中で魔法が生まれる瞬間だと自分が撮影するときにも思っています。今回の現場もそういったものが宿るまで待つ雰囲気があったので、いろいろやってみました」

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 そうして生まれたのが橘のコミカルさだ。斎藤自身も想定外の部分もあったようで「僕も映像で見て『なんか頼りないやつだな』って思いました(笑)」と笑みをこぼす。

 斎藤が、このように芝居に取り組むのは「本番だけどオーディション」という意識を持ち続けているからだ。

「先輩方を見ていても思うんですけど、(俳優は)“自分という存在”が認知されている前提の芝居か、死ぬまで研究している人の芝居かに二分されると思うんです。僕が目指しているのは後者です。歳を重ねると、この世界では大まかに肯定されていく甘えがある。でも、最近はサブスク前提になって、いいか悪いか世間の目も厳しくなりフェアな時代になっている。狭いコミュニティでの甘えが排除されていっている。役者を長くやらせていただいていますが、一回ゼロに戻すというか、オーディションに落ちまくっていたあの頃の自分に戻さないと、未来はないと思っています。それが自分が提案し続けている理由です」

 これまでの出演作、そして現在主演を務めているドラマ「漂着者」(テレビ朝日系)を観ても、斎藤が“新たな芝居”に枯渇し、挑戦し続けていることは視聴者にも伝わってくる。

「皆さん、今観たい作品でスケジュールが埋まっていると思うんです。Clubhouseがいっとき流行ったときも『もう耳しか空いてない』と言われていて、それもリアルなだと感じました。そんな中、今生み出されるものって、民放ドラマでも邦画でも内容を吟味すべきだと思います。これまでは、なんとなく生まれてきた作品があったと思いますが、ものが生まれる体制が厳しくなってきている。今はサブスクやYouTubeも含めてクオリティが上がってきているので、スポンサー至上主義でこの俳優を使ってこのテイストでってなんとなく作るというのが合わなくなってきている。もちろんその中で素晴らしい作品もあると思いますが、自分が関わる作品はそうはありたくない」

 斎藤は、今後の作品に求められているのは本作にも込められている“本質的な感情”だと断言。「そういう意味では、この時代にこの映画が生まれたことは、今だけでなく未来から振り返ったときにとても大事な出来事になっていると思う。そんな作品に参加できたことをとてもありがたく思っています」と『孤狼の血』シリーズに対する熱い想いを語ってくれた。

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ヘアメイク:くどうあき

スタイリスト:yoppy(juice)

取材・文:堤茜子

写真:You Ishii

(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

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