数学・物理・生物オリンピックで高校生15人がメダル獲得も、日本の教育では才能は伸ばせない? メダリストたちに聞く
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 連日の熱戦が伝えられた東京オリンピックの裏で開催されていた、世界の若い頭脳が集う「第62回国際数学オリンピック」「第51回国際物理オリンピック」、そして「第21回国際生物学オリンピック」。

・【映像】メダリストに聞く“超難問”の解説

 今年はコロナ禍のためオンラインで開催され、100以上の国と地域から予選を勝ち抜いた900人を超える中高生が参加。日本代表団は15人の高校生がメダルを獲得する結果となった。

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 一方、数学オリンピック財団の淺井康明氏は、「国別の順位では、例年よりかなり下がった」と指摘する。実はメダル獲得の条件は全参加者の成績の上位およそ8%が金、17%が銀、25%が銅と、複数人が同じ色のメダルを獲得できる仕組みになっている。

 そのため国別成績では全員が金メダリストで1位の中国、3位の韓国に対し、日本は25位。淺井氏は「韓国の場合、日本でいえば東大みたいなところに選手が集まって数学オリンピックの訓練をしている。日本はそういう特別な訓練をしていないし、社会を引っ張っていくような人材の育成がちょっと足りないと思う」と話す。

 卓越した才能を持つ個を見出し、伸ばしていくためにはどうすればいいのか。メダルを獲得した高校生たちに話を聞いた。

■「席を自由に動いて良い授業」「先輩に刺激を受けて勉強するようになった」

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 「もちろん金が欲しかったので悔しくはあるし、時間があればもうちょっと行けたとも思うが、それも実力だ。でも銀メダルを取れたのはすごく嬉しい」と振り返るのは、数学オリンピックで銀メダルを獲得した床呂光太さん(筑波大附属駒場高3年)だ。

 制限時間が4時間半だったという問題群について「その場でどれだけ知識や経験を活かして解法のプロセスを導き出せるかという発想力などが問われていると思う。このような問題に具体的にどんな意味があるかと言われても分からないが、考える、何か自分で新しいものを作り出す力というのは、きっとどこかで役に立つと思う」。

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 「様々なパズルや詰将棋が好きだ。複雑な論理を解きほぐしていくのがすごく面白い。将来の夢はまだ決まっていない。ただ、数学を使って何か社会に貢献できたらなとは思っている」という床呂さん。普段の学習について尋ねると、「席を自由に動いて良かったりするので、数学についてよく喋る友達の所に行って問題をさらに掘り下げてみることもある。特に数学の先生がそういう感じだ」と明かす。

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 一方、物理で金メダルを獲得した楠元康生さん(久留米大学附設高3年)の場合、中学校までは公立校で学び(カンニング竹山の後輩に当たるという)、物理についても自主的に勉強することは無かったという。

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 「物理オリンピックに参加している先輩からから刺激を受けて、自主的に勉強するようになった。過去問にすごく良い問題が集まっているので、それを解いているだけでもだいぶ力が付くし、物理の面白さもわかってくる。今は手を動かして計算したり、何かを解き明かしたりするのが楽しいからやっていて、あまり将来まで考えたところは視野に入っていない」。

■日本人女性初の金メダリスト「“正しく早く”から、“探求が楽しい”という教育に」

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 1996年に日本人女性で初めて数学オリンピックで金メダルを獲得した数学研究者の中島さち子さんは、これまでの問題について「速く正確に解くというよりも、新しく、マニュアルがないような問いだ。でもシンプルなので、実は知識がなくても取り組める。アイデアベースで想像力を問うみたいな問題なので楽しいし、生きることにもつながるのではないかと思っている」と話す。

 「オリンピックに関しては、日本はあまり順位を気にしていないところもあるし、楽しくやっているのでそれはそれでいいのではないかと思っている。ただ、国によっては本当にたくさんの人が参加してくるので、日本も手前のところでもう少し開かれた方がいいかなといいと思っている。

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 その意味では、日本の公教育はすごいと思うし、いいところもたくさんあるが、今までは正解があって、正しく速くという教育が多かった印象がある。私はピアノの演奏もするが、大人になれば研究や芸術、あるいはビジネスでも、答えがない、一生終わらないみたいな探究になる。それが楽しいというふうに教育が変わってくると、日本でも隠れた才能が出てくる気がする。

 そして、学校に行きたくなかったらこういう選択肢もあるよとか、こんな場所でやってもいいよ、時間割とかももうちょっと自由でいいんじゃない?といったことも試されつつあるので、そこを楽しみにしている。その点、床呂くんとか楠元くんはもう自由にやっていると思うが、私の場合も、学校だけだと鬱屈していたかもしれないところ、数学オリンピックがあったことで仲間に出会えたし、好きなものにガーっとのめり込むことができて救われた。それこそ女性ももっと増えたらいいなと思っている」。

■「学校のカリキュラムに柔軟性を」「年齢を超えたコミュニティに入れるようにすべき」

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 「実に面白い。超マイナーだが、“コロラドスプリングス数学オリンピック”で2位だったことがある」と話すのは、アメリカ出身のパックン(ハーバード大卒)だ。

 「皆さんにわかっていただきたいのは、“楽しい”ということだ。独創性が引き出され、“みんなが見落としていたところに気付いた”と喜んだり、“俺は新世界を見つけた”とコロンブスみたいな気持ちになれたりする瞬間がある。それは普段の受験勉強とはちょっと質が違うものだし、そうやって教室のみんなが楽しくなれれば、日本の数学レベルも上がると思う。

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アメリカと日本の教育の違いだが、僕の場合、学校に数学オリンピックに挑戦するチームがあって、授業中は別の部屋で好きなだけ研究していてよかった。まあほとんど漫画とかを読んで過ごしていたけど(笑)。でも、それぐらいの柔軟性があった。僕の子どもの場合、英語はネイティブレベルなのに日本の小学校に通い出すと、みんなと一緒に“A、B、C…”から学ばなきゃいけない。その間は別のことに挑戦したり、遅れている分野の予習・復習・補習に充てられたりすればいいのに」。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏(東大卒)は「僕は小さい頃、地元では1番で、このまま日本一になるのかと思ったこともあった。でも四谷大塚に入ったら、学年は1個下なのに、僕の学年の試験を受けて、ずっと1番を取っている長尾健太郎という男がいた。彼は日本でも最も優れた数学者になれる才能を持っていると言われていたが、不幸にして31歳で亡くなってしまった。その後、日本の数学界で“長尾賞”という名前が残るぐらいの、ものすごい天才だった」と振り返る。

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 「彼は毎日が楽しそうだったし、1学年上の試験を受けていることに対して誰も不満を言わなかった。そして長尾君は勉強だけでなく囲碁でもトップクラスの実力だったし、ジャグリングのサークルを作って独自の遊びを考えたりしていた。ぜひ皆さんにも知ってほしいと思う。そして、こういう人たちには同じ学年で学ぶだけでなく、飛び級的なことを認めてあげて、年齢を超えた面白い人たちのコミュニティに入れ入れと、僕たちの側が促してあげられる社会にすることが必要だと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

メダリストに聞く“超難問”の解説
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