Tempalayのコーラス/シンセサイザーとしても活動中のAAAMYYYが、ソロとして2枚目のフルアルバム『Annihilation』(アナイアレイション)をリリースする。前作『BODY』では、“2615年の世界”というSF的なコンセプトを打ち出していたが、今作は彼女自身がコロナ発生以降で感じた想いや、周囲に起こった不幸、そこから考える死生観が現れた、よりパーソナルな作品となっている。
とはいうものの、一聴してダークな印象は受けない。むしろ、先立ってリリースされていたシングル「HOME」「Leeloo」「Utopia」から続く“優しさ” “あたたかさ”に全編包まれている。AAAMYYYという人物を知る上でも重要な作品なる今作が、いかにして完成したのか。制作途中で思い、悩み、そしてそこから出た答えを明かしてもらった。
AAAMYYY(エイミー)プロフィール
シンガーソングライター/トラックメイカー。2017年からソロとしての活動を開始。2018年6月にTempalayに正式加入。それ以外にも、木村カエラ、DAOKO等への楽曲提供、CM歌唱提供、国内外アーティストとのコラボレーションなど、幅広い活動を行う。昨年5月の配信シングル「HOME」、7月に「Leeloo」、9月に「Utopia」を経て、8月18日に2ndフルアルバム『Annihilation』を発売する。
自分の「セラビー」になる曲が集まった
――2019年リリースの『BODY』以来、順調に活動の幅が広がっていく中でのコロナショック。ライブやイベントに対する世間の風当たりの強さもあり、音楽に携わる人にとってはセンシティブにならざるを得ない状況が続きましたね。
AAAMYYY: 一時期はいろいろとショックなことが重なりすぎて、ほんと「無」の状態になってました。考えたら止まらないタイプなので、その間は歌詞のある音楽を聴かず、映画のサントラとかアンビエントとか、心が休まるものしか耳に入れられなかった。そういう意味では、今回のアルバムは自分の“セラピー”になる曲が多いのかなと。
――AAAMYYYさんの楽曲は、インプットしたカルチャーによる影響が大きいと思っていたので、なおさら新鮮さがありました。
AAAMYYY:うん、前作はまさにそうでしたね。Netflixや本などによってモヤッとしていたことが解決されて、そこから私なりに考えたことを落とし込んで……という流れがあったけど、もうそれを取っ払って。いま、言いたいことを曲に投影しなければ、自分が壊れてしまうと思ったんです。
――「Annihilation」という言葉には、「全滅」や「対消滅(粒子と反粒子が衝突し、他の粒子またはエネルギーに変換されるという物理学で用いられる用語)」という意味があります。でも最初アルバムタイトルを聞いたとき、ナタリー・ポートマンが出演していた映画『アナイアレイション -全滅領域-』のほうを思い出したんですが。
AAAMYYY:それも意識はしていましたね。あの話は「シマー」という空間があって、そこに充満しているプリズムが、自分の姿形や自意識をも読み込んで、新たに分身を創造するっていう、すごく好きな作品。私の中にも、この社会に適合するために「こうならないといけない」という自分、「楽しみたい。はしゃぎたい」っていう、子どものような自分、それらがずっとせめぎ合っていて。これまでは前者でいる時間が長くて、適合させていくのも楽しかったんですけど、いまその状態でいるのは精神衛生上良くないし、一度全て消し去ろうという意味で、この言葉を選びました。
唯一「激怒」したフジロックでの出来事
――前作と共通して言えるのは、歌詞に「死生観」が色濃く反映されている点で、やっぱりAAAMYYYさんにとっては大事なテーマなんですね。
AAAMYYY:小さい頃からずっと死を怖いと思っていますし、自分の周りで死を選んでしまう人が多いからというのもあります。よくTempalayのメンバーとは死生観について話していることもあってか、去年近しい友人が亡くなったとき、綾斗(Tempalayのギター、ボーカル)からは真っ先に連絡がきました。「AAAMYYYが一番やばそうだと思ったから」って。
――AAAMYYYさんは「どんな状態で最期を迎えたい」と考えていたりするんですか。
AAAMYYY:「もう何もやり残したことはないな」と、自分が満足した状態だったらですかね。「世間に評価されたい」とか、他者の目線ありきではないです。なので、言いたいことややりたいことは素直に表していく、今後はそういうマインドでいたいなと。
――このインタビューしかり、テレビに出演しているときも、丁寧に言葉を選んで話している印象を受けます。
AAAMYYY:しゃべることが得意ではないので、一回全部聞いて意味を咀嚼してから話すようにはしています。感情表現も激しい方ではないですね。唯一覚えているのが、フジロックでリョートがライブ前日に不注意でギターを弾く指を骨折したときのこと。「いったいこの人は何なんだろう」と、はじめて怒りで体が震えまして。武士の時代に、怒りののちに死ぬ「憤死」っていう言葉があったんですけど、本当それになりそうなぐらい。でもそれって、これから一緒に仕事をしていく大事な人だからっていう、対人愛があるからこそなんですけど。
SNSのリプライで感じた世代間格差
――もともとキャビンアテンダントを目指していたというのは、いろいろなところで語っていましたが、もし音楽に携わってなかったら、感情の処理をどうしていたんだろうって思うんですよね。
AAAMYYY:普通に旅行とかカラオケでストレスを発散していたんじゃないですか。身の丈にあったことをしていたと思います。でも、どんな仕事についても、音楽とは切っても切れないところにはいそう。
――最近、テレビ番組への出演や他アーティストへの楽曲提供も増えてきて、ライブ今後いろいろなことの規模が大きくなっていくことも考えられるんですけど、その時自身をどう変容させていきますか。
AAAMYYY:曲の作り方は変わらないんじゃないですかね。一過性のものとして売れて、それが自己実現になればいいんですけど、私はそうではないですし。黙っていても世界は勝手に変わっていくじゃないですか。
――たしかに、常にアップデートがあるからこそ刺激的なものが生まれてきますし、世代間で価値観に差異が生まれてくるのも、それが理由ですよね。
AAAMYYY:昨年、SNSで政治的な発信をしたとき、「ミュージシャンが政治を語るな」っていう意見があったんですけど、プロフィールを見てみると3~40代の人が圧倒的に多くて。ずっと同じ視点で物事を見ているのかなって。一方で、若い人は「僕はこれまでこういう考えだったけど、こういう意見もあるんですね。参考になりました」っていうリプライがあって、広い目線で考えている感じがして「いいな」って。SIRUPとか荘子it(Dos Monos)も、現状をより良くするためにはどうすればいいか、何が原因なのかはいつも考えていて、私ももっとオープンに考えを発信していきたいなと。それが増えていけば、楽しい社会になっていくと思います。
取材・文:東田俊介
写真:You Ishii