将棋のお~いお茶杯王位戦七番勝負の第4局が8月18、19日に行われ、藤井聡太王位(棋聖、19)が豊島将之竜王(叡王、31)に140手で勝利した。この一局は、居飛車の戦型の一つ「相掛かり」で始まったが、序盤から角交換が入った後に、棋士からも「あまり見ない」という声が出る進行となった。ところが、これに対して「実はやろうと思っていたんです」という棋士もいた。タイトルホルダー同士による大事な一局で出された研究手でさえ、現在の将棋界では複数の棋士が既に研究テーマとしている「情報時代」に入っている。
この珍しい進行について「やろうと思っていた」と語ったのは、関西のイケメン棋士として知られる都成竜馬七段(31)。居飛車、振り飛車どちらも指しこなすオールラウンダーで、通算勝率でも6割台半ばをキープする実力者だ。「結構マニアックな研究のつもりだったんですけど。ちょっと珍しい指し方なので」。本人としては、その指し方を研究している人など、それほどいないだろうと思っていたところ、豊島竜王が採用したことで驚きを隠さなかった。また、タイトルをかけて戦う重要局で選ばれるほど、期待が持てるものだったとも言える。
ところが、この戦い方を考えていたのは都成七段だけではなかった。タイトル獲得経験を持つ高見泰地七段(28)の証言はこうだ。
高見七段 佐々木大地五段ともしゃべったんですけど、研究パートナーの若手もこの形をすごく指していたって。自分の中では初めて見た形だけど、研究会とかでは指されている。情報収集能力も大事ですね。
多くの棋士が将棋ソフト(AI)を活用するようにもなり、以前からある棋譜のデータベースももちろん使う。世に出た将棋はすぐに研究対象となり、そこから枝分かれする戦い方がどんどんと探られていく。無数に分岐する中から「これは有力」と目をつけたものが、他の棋士にも研究されていたとなれば、いざ実戦で用いた時には効果も半減する。公式戦で指される前から、いつ誰がどこで研究しているかを把握する。まさに水面下の情報戦だ。
将棋の世界には「新手」という言葉ある。字の如く、新しい戦い方、指し手を意味する。研究者たちが我先にと新たな論文を発表するかのように、棋士には自分の名がつくような新手を生み出したいという欲求もある。これまでも、その新手がトレンドとなり、トップ棋士から若手までがこぞって採用する、という歴史も繰り返されてきた。
タイトル戦で指されるような手が、既に各地で研究課題となっていたとすれば、次にどんな戦い方が模索され、発表されるか。無限とも思えるほど広がっている将棋の世界には、まるで終着点が見えない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)