「バイデン大統領、とんでもない言い草だ」「タリバンとの対話を絶たないことが大切だ」アフガニスタンの過去と未来
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 反政府武装勢力タリバンによる掌握から3日が経過したアフガニスタンの首都カブールでは市内には銃を持った戦闘員が巡回、別の地域ではタリバンに対する抗議活動をしていた住民への発砲などにより、少なくとも3人が死亡したという。

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「バイデン大統領、とんでもない言い草だ」「タリバンとの対話を絶たないことが大切だ」アフガニスタンの過去と未来

 19日の『ABEMA Prime』に出演した同志社大学大学院の内藤正典教授(現代イスラム研究)は「バイデン大統領が“アフガニスタン軍があまりに不甲斐ない。なんで戦わないんだ”と文句を言っていたが、とんでもない言い草だ。むしろこの状況をアメリカが引き起こしたことが最大の問題だ」と断じる。内藤氏によれば、6万のタリバンが30万のアフガニスタン政府軍を破った理由もそこにあるようだ。

■「“女性の解放”“民主化”など、アメリカは戦争の理屈を変えていった」

「バイデン大統領、とんでもない言い草だ」「タリバンとの対話を絶たないことが大切だ」アフガニスタンの過去と未来

 今に至る混沌のきっかけとなったのは、今から20年前の2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件だった。翌月、アメリカを中心とする「有志連合」はテロを首謀した国際テロ組織「アルカイダ」を匿っているとしてアフガニスタンに侵攻。圧倒的な兵力差を前にタリバン政権は崩壊、12月には反タリバン勢力を中心とした新政権が首都カブールに誕生した。しかしタリバンそのものは壊滅せず、駐留する米軍などに抵抗を続けてきた。

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 「アメリカがこの20年間でやってきたことの全てが悪かったとは言わないし、NGOなどによる懸命な活動や人権教育によって、欧米型ではあるが民主主義を根付かせようと努力したことで、女性の人権に関しても理解する人が出てきたことも確かだ。一方で、戦闘機が空を飛び、爆弾を落としている。そういう中で、女性や子どもの人権と命を引き換えにできるかと言われれば、なかなか納得できないだろう。

 また、大都市と農村の格差が全く埋まらなかったことや、アメリカや日本からの莫大な支援の大半が、一部の地方豪族、軍閥のポケットに入ってしまうメカニズムを改善しなかったことは大きい。アメリカ政府もそれを知りながら放置し、だらだらとアフガニスタンに居続けてしまった。単純化して言えば、アメリカが戦後に日本を占領した際の財閥解体や農地改革にあたることをアフガニスタンではやっていない。だからこそ地方の豪族などがそのまま温存される形で反タリバン側に居座ってしまっている」。

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 アメリカが“これは報復のための戦争だ”とはっきり言ったのであれば、それでも良かっただろう。しかしアメリカは当初、テロリストたちを匿っているからという理由でアフガニスタンを攻撃したのに、途中で“女性の解放”“民主化”などと戦う理屈を変えていった。例えばブッシュ大統領(当時)の夫人がラジオ演説で“女性解放のための戦争だ”と言ってしまったことで、世界のメディアも含め、あっという間に“ひどい人権抑圧をしているタリバンとの戦いだ”という話にすり替わってしまった。

 もちろん多くの人はタリバンの残虐な支配を嫌っていたし、解放してくれるなら良いと思っていた。しかしそれによってタリバンとは何の関係もない10万人以上の市民が犠牲になっている以上、アフガニスタンの人々としては簡単には納得できないはずだ。アメリカがアフガニスタン戦争を仕掛けた結果、タリバン政権は簡単に崩壊した。ただ、兵士たちは故郷の村へ帰り、占領軍がいるからしばらく静かにしていただけだった。それがここ数年の間に力を復活させ、地方の村では、政府の方が良いとは思えない、ということになっていった」。

■「バイデン大統領も、こうなることは分かっていたはずだ」

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 そして去年2月、当時のトランプ政権がタリバンとの和平に合意、米軍を撤退させることを約束した。しかし今年5月、アメリカ軍などが撤退を始めると、タリバンはアフガニスタン政府に対し攻撃を開始。わずか3カ月でカブールが陥落した。

 「普通、軍というのは命を懸けてでも外から入ってくる敵から国を守るものだ。ところがアメリカは、アフガニスタン人からなる政府軍に、同胞からなるタリバンを殺せと言った。確かにタリバンとは目指してきたものが違うが、タリバンの兵士の中には、同じ村の出身者もいるかもしれない。それなのに、“はい、そうですか”と言って戦うだろうか。片やタリバンの目標は非常に明確で、“アメリカ軍をはじめ、駐留している外国軍は自分たちの国を侵略し、占領し続けたんだ。これを倒すまでは戦う”ということがはっきりしている。

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 それから重要なのは、タリバンもそうだが、政府軍、あるいは部族長たちが手下として持っている軍閥の私兵、民兵も、多くは地方の農村出身の貧しい若者たちだということだ。彼らは給料が親や兄弟や子どもの生活を支えになるからこそ、兵士になっている。本当に命を落とす危険が出てきたら、戦いを続けようとするだろうか。そういう中で、政府軍は“冗談じゃない。もうこれ以上やる気はない”と事実上解散し、帰ってしまった。それがあちこちで“無血開城”、あまり大きな戦闘をせずにタリバンが勝っていった理由だ。

 そして、政府も機能しなかった。カブールが陥落した15日にガニ大統領は行方不明になり、“自分は国を離れたけど、いつか帰る”みたいな声明を出した。誰がこんな大統領の下で戦うだろうか、非常に無責任だ、という声は市民の間にも多いようだ。

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 アメリカが撤退を表明したのはトランプ大統領の時だが、やはり2000人以上のアメリカ人が犠牲になっているので、選挙キャンペーンで“アメリカ・ファースト”を打ち出していた彼としては、若者を中東に送り出しても何にもならないということで撤退を決めた。しかもああいう人だから、劇的な効果を狙ってアフガニスタン政府の頭越しにタリバンと交渉してしまう。すでにアメリカはガニ大統領には統治能力がないことを知っていたが、そこから深刻になった。そしてバイデン大統領も、トランプ大統領が約束した期限に遅れるということは絶対にしたくない。だからこそ、前倒しにして撤退してしまった。今になって“アフガン政府にやる気がないからだ”などと言っているが、こうなることは分かっていたはずだ」。

■「人々にとっては今が海外に脱出する千載一遇のチャンス」

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 カブール陥落をめぐっては、政府に協力してきた数千人のアフガニスタン人が空港に殺到、離陸する米軍機に追いすがり、落下などによって少なくとも7人が死亡したというニュースは世界に衝撃を与えている。

 内藤氏は「空港の映像は非常に衝撃的ではあるが、気を付けなければならないのは、集っていたのはタリバンのことをほとんど知らない若い世代で、あくまでもカブール市民のほんの一部だということだ。あっという間にタリバンが首都まで制圧したので、多くの人がパニックになっていることは確かだし、命を落とされた方がいるのも非常に気の毒なことだが、アメリカに協力した人たちを米軍が飛行機に乗せるのは決まっていたことだし、かつて人権を抑圧し、非常に残虐なことをしてきたタリバンが帰ってきた、という話だけを聞いて殺到した人たちだ」と指摘。

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 その上で、「タリバンの報道官が、反対勢力や米軍に協力した市民に恩赦を与え、報復することはないとしていることも伝わっているが、必ずしも皆が信用しているわけではない。加えてタリバンの広報官は“去る者は追わず”ということも言っている。今のアフガニスタンは経済格差も大きく、タリバンがいようがいまいが、若い人が夢を実現できるような状態ではない。つまり人々にとっては今が千載一遇のチャンスだという側面もある。アメリカ軍に協力した人であろうとなかろうと、アフガニスタンを離れてアメリカやカナダやイギリスに逃げようと考えるのではないか」との見方を示す。

■「タリバンとの対話の道を絶ってしまわないことが大切だ」

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 一方で、イスラム原理主義を掲げて1990年台半ばに台頭、96年ごろには政権を掌握したタリバンは、汚職撲滅やインフラ整備などによって国民の支持を得ていたものの、女性には全身を覆うブルカの着用を義務付け、教育や就労を制限するなどしたことから、国際社会からの非難を浴びていた。

 そのため、今回の復権についてWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「我々は特に女性や少女たちの健康や幸福を懸念している」とコメントするなど、再び不安の声が上がっている。しかしタリバンの広報官は「学校は開かれ、女性は教師としても学生としても通うことができるようになる」と、かつての政権とは異なることを強調。ただ、別の幹部は「政府体制は明確だ。イスラム法に則った政府であり、民主的な制度が構築されることは一切ない」とも話している。

「バイデン大統領、とんでもない言い草だ」「タリバンとの対話を絶たないことが大切だ」アフガニスタンの過去と未来

 内藤氏は「20年前のタリバンは、まさにイスラム教の勉強しかしていない“学生”だったし、90年代に一度政権を取る前はレイプ、誘拐、略奪もあった。イスラム教は中に法体系も入っているので、“これでやるぞ“となれば、一応の秩序はできる。しかし、人間はそれだけで収まりきれるものではないし、ダメだと言ってもやる者はいる。そういう時には、それこそ残酷なやり方で処刑をしてきたわけだ。だからこそ、人々は今も恐怖を抱いている。

 しかし最初の記者会見を見る限り、随分ソフトになったと感じた。当時はパキスタンで大将をやっていた人がものすごくたどたどしい英語を喋れるくらいだったが、今回はかなり英語のできる人が通訳をしていた。しかも理工系の人も含めて、いろいろなタイプの人材が中に入っている。その意味でも性格が違うし、スマートに見せる術を心得ているのだろう。ただ、報道官が変わったからといって、末端もそれを実現できるかといえば、それは疑わしい」との見方を示す。

 こうしたことを踏まえ、「タリバンの外国に対する姿勢ははっきりしていて、軍隊ごと来るなら絶対に認めないと言っている。だからカブール国際空港から米軍が撤退するまでは、“まだ戦いの途中だ”ということになるだろう。ただ、それ以外の民生支援、教育や医療については拒むとは言っていないし、中国も間に入ってこようとしている。大切なのは、“タリバン政権は承認しないぞ“と言って対話の道を絶ってしまわないことだ。そうなれば、彼らは再び孤立の道をたどる。それは繰り返すべきではないと、私は確信している」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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