「調整力」と「人柄」が成果を出す 器用貧乏に悩む人に刺さる、『ぼくリメ』の何でも屋最強論
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 終身雇用の崩壊が叫ばれて久しい昨今、「専門性」や「スキル」を武器にビジネスの荒波を泳ぐ風潮が強くなっています。新卒入社でジョブローテーションして社内に詳しくなるよりも、より自身の専門性を高め、プロフェッショナルとして生きていきたい――そう志向する人が多くなる一方で、世代的に、あるいは職種的に「広く浅く」の仕事に携わり、手に職がついていないのではないか、と危惧するサラリーマンの方々も決して少なくはないでしょう

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 確かに、ドラマや映画、マンガやアニメ界隈を見回しても、「職業もの」で活躍する主人公は、専門性が高いことがほとんどです。医者、料理人、刑事、マンガ家……などと列挙すればわかりやすいでしょうか。

 そんな中、スペシャルなスキルを持たない主人公が活躍するTVアニメ『ぼくたちのリメイク』が、ひときわ異彩を放っています。7月から放送を開始したこの『ぼくリメ』は、ゲームクリエイターの橋場恭也が10年前へと戻り、憧れながらも諦めた芸大進学への道を選び直し、人生を「リメイク」していくというストーリーです。

 「クリエイター」というものの、恭也の職種はディレクターであり、イラストレーターやプログラマーとは異なり、専門性の高いものではありません。作中で描かれていた仕事の内容は、資料整理や各セクションからこぼれた業務というものでした(余談ですが現実でも、特に小規模のソフトハウスではディレクター=何でも屋、という傾向は顕著です)。

 特別な専門分野の強みがない、というのは10年前にタイムリープしても同様です。芸大に入り、シェアハウスの仲間と課題の映像作品制作に取り組んだりしていきますが、そこでの仲間は、イラストや文芸、歌唱などの才 に秀でており、一芸のない恭也と対照的な人物揃いです。

 そんな環境ですが、しかし恭也は明確に成果を出し、周囲からも一目置かれる存在となります。現代のゲームクリエイター時には、「気難しい外注先に、社内の進捗を鑑みつつ発注業務を渡す」という1シーンがありました。何気なく描かれているシーンですが、社内の人間から感謝される描写もあり、なかなか難しい仕事であったことがうかがえます。

 タイムリープ先の10年前では、課題の映像制作で、クリエイティブへのこだわりが強い友人・貫之の意向を汲みつつ、いい作品を作り上げようする姿勢に、貫之からの信頼を得ています。また機材準備のミスで撮影ができない状況になっても諦めず、創意工夫で映像を完成させ、助教授の加納 から、「問題解決能力は尋常じゃない」と評されていました。

 これらの活躍の根底にあるのは、恭也の「調整力」です。突発的なトラブルに限らず、常在している小さな課題、人や人、あるいはセクション間のすり合わせだったり……会社組織で生きる方の少なくない割合が、こういった業務を日々こなしているのではないでしょうか。

 そういった日常に身近な、けれど成果の定量化されづらいワークに光を当て、その業務能力が評価されているという点は、ビジネスパーソンにとってある種の「癒し」にもなりえるものでしょう。一方で、ただその業務をやることが無条件に評価されているかというとそうではなく、恭也が特筆すべきポテンシャルを持っている点は、作中の描写からも見て取ることができます。

 恭也の「調整力」を評価されうるもの足らしめている要因。芸大時代には「10年分の経験」というチート部分が存在する面もありますが、根底にはあるのはやはり「人柄」でしょう。クリエイターに寄り添って意志や信条を汲み、彼らの、そして作品のベストを作り上げようとする姿勢が、作中での恭也の活躍に繋がっていると感じる場面は多いです。

 私の知人の雑誌編集者は常々、「ライターさんやデザイナーさんは、100円入れたらクリエイティブ吐き出す自販機じゃない」と言っていました。「人間対人間の仕事ということを忘れるな」という意味合いのようでしたが、やはり仕事であっても、人と人との関わりであるということを念頭に置くのは大事なことのようです。

 加えて、作中で恭也が口にした「仕方なくなんかない! ぜってぇなん とかする!」という言葉にもはっとするものがありました。前述の機材発注ミスが発覚した場面でのセリフですが、「仕方ない」と問題を先送りにすることは、今を「リメイク」している恭也にとって選びえない選択だったのです。

 諦めても仕方がない場面で、考えることを諦めず、自分と周りを奮い立たせる――人と人の間に立つ仕事において、関わる人たちを「やる気にさせる」というのは、立派な「調整力」と言えるのでは、と思います。

 歌い手を志望するもうまく歌えず悩んでいたシェアハウスの同居人・ナナコに、恭也は彼女の歌声の音程を調整し、聞かせることで勇気づけます。ゲームクリエイター時代に主題歌の歌手の歌がひどく、予算もないため自分で音程調整を行った経験を活かしてのことですが、「どんな経験が将来活きるかわからない」という、何でも屋の真骨頂を表したエピソードといえます。と同時に、ナナコへの思いやりという「人間力」を垣間見せた話でもありました。

 こうした『ぼくリメ』における恭也の活躍は、一芸がなく悩む人に深く刺さるものであると同時に、調整業務に日々勤しむビジネスパーソンには、共感できるところも多いのではないでしょうか。突出したスペシャリストでなくてもいい仕事はできる――そういう理想形が、本作には描かれていると感じました。

■TVアニメ『ぼくたちのリメイク』

公式サイト:https://bokurema.com/

公式Twitter:https://twitter.com/bokurema_anime

(C)木緒なち・KADOKAWA/ぼくたちのリメイク製作委員会

テキスト/桜森柚木

ぼくたちのリメイク
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