菅総理の不出馬表明を機に活発化する、自民党総裁選をめぐる動き。元朝日新聞政治部デスクで、現在は言論プラットフォーム『SAMEJIMA TIMES』を主宰するジャーナリストの鮫島浩氏は、自民党内における“本当の実力者”は安倍前総理であり、今回の総裁選も、“安倍路線か反安倍路線かを見極める争い”との見方を示している。

・【映像】鮫島浩氏が語る総裁選

 「安倍さんは史上最長の7年8カ月にわたって総理大臣を務めた。だから今の政府の主な官僚も政治家も、ほとんどが安倍さんに任命された人たちで、1年前に菅さんにバトンタッチされてもほとんどが残っている。そういう意味では菅さんよりも安倍さんによって偉くなり、忠誠を誓っている人が政府を仕切っていると考えていい。国会議員についても、やはり解散総選挙を打たなかった菅さんよりも、安倍さんのおかげで当選できたという人が多い。

 こうした状況から見て、菅さん自身も安倍さんには逆らえない、いわば“安倍傀儡政権”という要素が強かったのが菅内閣だと思う。不出馬に追い込まれたのも、この最大の“キングメーカー”の応援を得られなかったことで自信を失い、自滅したということだ。だからこそ今回の総裁選の最大の争点は、この路線を引き継ぐのか、それとも安倍さんにあまり遠慮をしない人を選び、路線を大きく変えるのか、ということだと言える。有力候補者のうち誰が安倍さんに従う人なのか、誰が安倍さんに楯突く人なのか、ここを見極める必要があると思う」。

■「石破さん、河野さんの総裁就任は阻止したい」

 世論調査で人気の高い河野大臣は7日、8日と相次いで、自身が所属する派閥のトップ・麻生太郎財務大臣ら幹部を訪問。今週後半にも会見を開き、正式に出馬表明する見通しだ。また、同じく世論調査で期待され続けてきた石破元幹事長は出馬を見送り、河野氏を支援することを検討しているとも報じられている。安倍前総理の“最優先課題”は、「石破政権」の阻止だったという鮫島氏は、2人の連携について次のように分析する。

 「2012年の総裁選挙で、安倍さんは1度目の投票で党員の人気が圧倒的に高かった石破さんに敗れている。だから石破さんに苦手意識があり、人気があるので幹事長や閣僚に任命したこともあったが、途中で切った。石破さんはこの何年間か、ずっと冷や飯を食ってきたが、閣外にいた非主流派なので、安倍さんをめぐる様々な疑惑を批判することができた。もし石破さんが総理大臣になれば、そうした疑惑を蒸し返されてしまう。安倍さんとしては、ここを一番恐れている。

 そして麻生さんが一番総理大臣にしたくないのも石破さんだろうが、2人が2番目に総理にしたくないのが河野さんだと思う。仮に若い河野さんが総裁になれば、世代交代が一挙に進んでしまう。しかも国民人気があるので総選挙で圧勝できる可能性がある。それは自民党にとっては万々歳だが、安倍さん、麻生さんは自分が“過去の人”になり、影が薄くなってしまうかもしれない。それはおもしろくない。石破さんになって過去の疑惑がほじくり返されるよりはマシだけど、過去の人にもなりたくない。やはり河野さんの総裁就任も阻止したいはずだ。

 一方、ジャーナリズム的に言えば、河野さんの立ち位置はよくわからない。医療崩壊も起きているし、菅政権のコロナ対策については怒っている国民が多い。河野さんは最低限、“これまでのコロナ対策には間違って失敗したところがあった、ごめんなさい”と謝った上で、“こう立て直す”ということを言わないと信用できない。そうでなければ、やはり今までの安倍=菅路線を受け継ぐということだろうし、それは岸田さんと何が違うの?若いだけ?という話になってしまう。報道記者たちが河野さんに対して、“あなたは安倍さんの疑惑を追及する立場なのか、それとも安倍路線を継承するのかどちらなのか”、“菅さんのコロナ対策を受け継ぐのか、抜本的に変えるのか、どっちなのか”ということをどこまで厳しく追及し、立ち位置をはっきりさせられることが大切だろう」。

■「岸田さんか高市さんのどちらかを勝たせられるという、安倍さんの巧妙な手口」

 他方、当初は岸田前政調会長を推すと見られていた安倍前総理が一転、支援する意向を示しているとされるのが高市早苗前総務大臣だ。

 「安倍さんにとっては自分に忠実な人、絶対刃向かわないのは岸田さんだと思っていた。しかも岸田さんは有力な派閥の会長ということもあり、当初は本命だったと思う。しかしここにきて河野さんという強敵が出てきた。このままではヤバい、負けちゃうということで高市さんの支持を表明したのだろう。

 総裁選挙は1度目の投票で過半数を取った候補がいなければ、決選投票に持ち越される。1度目は党員投票が半分だが、決選投票ではほぼ国会議員だけで決まってしまう。安倍さんとしては河野さんに過半数を取らせず、決選投票で決めたい。そのためには候補をたくさん立てて、党員の投票先を分散させたい。リベラルというイメージがあり、石破さんとかぶる宏池会の岸田さんと、保守のイメージがあり、河野さんとかぶる高市さんと、毛色の違う人を立てることで河野=石破という2枚看板への票をバラバラにすれば、最後は派閥の力で岸田さんか高市さんのどちらかを勝たせられるという、政治的に非常に巧妙な手口だ。

 迎え撃つ河野さんとしては、できれば一発目で勝負を決めてしまいたい。そのためには反安倍陣営を一本化する必要がある。しかし安倍内閣で抜擢され、菅内閣でもワクチン担当大臣というド真ん中にいる、つまり広い意味では安倍さんや菅さんに支えられてきた河野さんが本当に反安倍なのか。石破さんが降りて河野さんに一本化できるのか、やっぱり河野さんでは信用できないと言って石破さんが出るのか、これが当面の争点だ」。

■自民党総裁選の裏で埋没していく野党…「話題を作ることが必要だ」

 自民党総裁選後に控える衆議院選挙とあわせ、この4年間の自公政権を総括しなければならないと話す鮫島氏。一方で、メディアが自民党総裁選を報じれば報じるほど野党の動きが埋没し、かえって自民党に有利に働くとの声も少なくない。

 鮫島氏は「マスコミの報道の仕方も非常に重要だが、野党が勝つには投票率を上げなければならない。民主党が政権を取った時の総選挙の投票率は7割近くあった。自民党の総裁選の報道ばかりで取り上げられないと嘆くのではなく、政治への関心が良くも悪くも高まっている今こそ、関心を引き寄せなければならない。一生懸命に政策を出しているのかもしれないが、工夫が足りない。例えば政府の専門家会議に対し、貧困問題の専門家や現場のお医者さんを入れた全く別の形の専門家会議を作り、野党はこういうコロナ対策を打ち出しますと言えば、ニュースにもなると思う。あるいは、まず枝野さん以外に顔が浮かんでこないということに対して、かつての“ネクストキャビネット”のように、『なぜ君は総理大臣になれないのか』の小川淳也さんが官房長官、共産党の田村智子さんも入閣させます、などの大胆な人事案を流して話題を作ることが必要だ」と指摘した。

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「結局、野党がやっていることからは“反自民”、“反菅政権”で、どういう社会にしたいのかというビジョンがいまひとつ見えてこないというところがあると思う。それでは以前から野党を支持している層には受けるのかもしれないが、その外側にいる、自民党支持じゃないけれどどうしたらいいか分からない、いわゆる大量の浮動票層から見たときに、“支持層向けに菅政権叩きばっかりしている”と見えてしまう」。

 リディラバ代表の安部敏樹氏は「自民党に人気が無くなってきたら党員だけがアクセスできる総裁選でメディアジャックをし、再び人気を高めることで政権を維持できるという構造が良くないと思っている。それでは政権が良かったのか悪かったのかを総括することもできないし、党員以外の人たちが総選挙で投票する意味もなくなってきてしまう。その観点で言えば、菅さんは総裁選に出るべきだった。

 また、自民党の若手議員の間からは派閥の力学をやめて、河野さんや石破さんに付きたいという意見も出ているようで、それもリアリズムを持って自民党を変えていくための一つの手ではあると思う。ただし、それが“このままでは選挙に勝てなくなりそうで怖い”という思いからのものだったとすれば違和感を覚える。人のふんどしで戦うのではなく、まずは自ら有権者と対話し、信頼を得た上で物を言うべき姿で、自分の議席を守るための保身というのはダサい。一方で、野党の側も政策議論が起きているということを可視化し、野党連合が勝った場合、誰が総理になるかの模擬選挙をやってみてもいいのではないか」とした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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