「寝ぼけているんじゃないの?とか、お前バカなんじゃないの?ということを言われると傷つく」。

 YouTuberの笑歩さん(24)は長年APD(聴覚情報処理障害)という、音や声は聞こえるのに相手が何を話しているのか理解できない症状に苦しんできた。居酒屋などの賑やかな場所、あるいは静かな場所でも複数の人が発言する会議の場でも、話が理解できないことがあるという。それはちょうど、携帯の電波が悪いときに近い感じなのだという。

・【映像】聞こえるのに聞き取れない症状「APD」とは 当事者が語る苦悩...社会の理解は?

 「渋谷とか新宿みたいに街中に大きなテレビがあったりするところとか、BGMが流れている店内で、人の会話が聞き取れないということがある。名詞が落ちるような感覚なので、前後が聞き取れればなんとかなる。でも大事なところが抜け落ちると、聞き返さざるを得ない」。

 笑歩さんが初めて異変に気づいたのは高校生のとき。「友達に、話聞いていないよね?とか、適当に相槌打っているよね?と言われることがあって。えっ、そうなの?これ普通じゃないの?という感じだった」。

 耳鼻科で聴力検査を受けても結果は正常。以来、複数の医療機関で10回以上受診したが、原因すらわからない状況が続いたという。しかしネットで調べるうちにAPDの存在を知り、22歳のとき、診断を受けた。「モヤモヤが晴れたので、あっ、そうだよねと確信した。分かってよかったと感じた」。今は自身の経験をもとにAPDの理解を広めるべく、YouTubeなどを通じて困り事などを発信している。

■「複合的なところに原因がある可能性」

 大阪市立大学大学院の阪本浩一准教授(耳鼻咽喉病態学)は、難聴とAPDとの違いについて「“聞こえにくい”という点では同じだが、一般に難聴というのは、外耳、中耳、内耳の付近で何らかの原因を起こしていることを呼んでいる。一方、一般にAPDは聴覚器官には異常がなく、いわゆる中枢に問題があって聞き取りにくい症状を起こしていると考えられている。

 例えば英語が苦手だと英語を聞いても分からないが、あれもいわばAPDだ。要するに、音は聞こえているけれど語彙がない。そのように、複合的なところに原因がある可能性がある」と話す。

 「言葉や音楽を聞き取るということは、耳から入ってきた音を脳がきちんと理解するからだ。つまり、私たちが聞いているというのは、脳で聞いているというわけだ。例えば脳に機能的な障害や外傷などがあるというのが典型的だが、実はそういう方は非常に少なく、むしろ発達に“デコボコ”があったり、ワーキングメモリー、特に長期的な記憶が苦手であったり、言語的な能力の部分で苦手だったりする方が、聞き取りという形で表に出ているケースが多いと思う。

 やはりそういう方はどこに行っても診断されないというのが今の状態だ。私たちとしては、当事者ニーズに応じ、困っているたくさんの人たちに診断名としてのAPDときちんとつけていきたい、そのための基準作りをしたい、というところで、今年から研究を行っている」。

■コロナ禍でコミュニケーションが困難に…

 騒音が激しい建設現場で働いていたにゅららさんもAPDの当事者だ。症状を自覚したのは5歳ごろの時だったが、笑歩さん同様、やはり検査では異常が見つからなかったため、職場にうまく伝えられない日が続き、指示の声が聞き取れず「お前、聞いているのか!」と叱責されることもあったという。

 今年に入りAPDだと診断された。「本当に見えない何かと闘っている状態だったので、正式にAPDだと名前がきっちりと付いたことに、すごく安心感があった」。ところが報告をした職場で返ってきた答えは「自分で対策を取って欲しい」「何かあっても責任は取ることが難しい」。にゅららさんは仕事を続けることを断念した。

 そんな当事者たちに追い討ちをかけたのが、コロナ禍だ。感染防止対策のマスクやビニールカーテンが、店員とのコミュニケーションを困難にしている。「人間はヒントを使って理解しているので、やはり対面で顔や口元を見るといった、視覚的な情報があると分かりやすかったりする」(阪本准教授)。

 コロナ禍や当事者による発信、メディアで取り上げられる機会が増えたこともあり、阪本准教授の元を訪れる新規患者数も増加しているのだという。

 「全く気づいていなかったが、実は患者さんだった、という方はかなりたくさんおられると思っている。そういう方が情報を受けて、自分もそうかもしれないなということで来られるようになった。特に10代~20代前半の方が非常に多いが、やはり就職などを機会に気がつく方も多いということだと思う。

■「障害者として認定されている人だけではない」

 笑歩さんの場合、ゆっくり話してもらうようお願いしたり、文字化してくれるアプリを活用したりしているという。近年、こうしたテキスト化のソフトの精度も向上、ノイズキャンセリングイヤホンをはじめ、周辺の騒音をカットしてくれる機器も選択肢としてはある。さらに当事者によるLINEオープンチャットも登場しているという。

 阪本准教授は「大人の方の場合、補聴器などを使うこともできるが、やはり全員が使えるわけではない。環境調整”といって、周りの理解を求めるというのが一番だ。例えば、話しかけるときに声をかけてもらう、まず相手の人から言ってもらうというだけでもだいぶ違うと思う。その上で、向いている人については訓練によって少し良くなることがあるんじゃないかとも考えているが、まだエビデンスはあまりない段階だ」と話した。

 38歳のときに右耳の神経の腫瘍を取るための開頭手術を受け、右耳の聴力はゼロだというジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「APDでは無いが、“佐々木さん”と声をかけられた時、どこから?とキョロキョロしてしまう。あるいは街を歩いていて騒音があったり、静かな場所であっても右側から話しかけられたりすると何を言っているのかわからず、適当に相槌を打ってしまうことも多い。それは会う人ごとに、右側から言われると聞こえないということを、理由も含めて説明するのが面倒くさくて嫌だという気持ちがあるからだ、でも、それでは認知が広がらないという難しさもある」と話す。

 「僕の場合は片耳失聴だが、両耳で一定の聴力レベル以下という基準があるため、障害者としては認定されない。世の中にはありとあらゆる障害や病気があるし、軽い人もいれば重い人もいるので、認定されている人だけではないということだ。我々は運良くその中で生きているんだなということを、自分がいろんな障害や病気を抱えて初めて分かった。多様な生き方とはそういうことだと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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