芥川賞作家・津村記久子氏のデビュー作『君は永遠にそいつらより若い』の実写映画が9月17日(金)より公開される。「私には、何かが決定的に欠けている――」。自分の不器用さや不十分さに囚われながらも、なんとなく日常を過ごしている卒業間近の大学生・ホリガイが、痛ましい過去を持つイノギと出会い、独特で特別な関係を築いていく物語。同時に、暴力や児童虐待、ネグレクトなどの社会の闇に直面し、そのやり切れなさや悲しみを映し出していく。ホリガイを演じるのは、映画『“隠れビッチ”やってました。』やNHK連続テレビ小説「ひよっこ」、ドラマ「彼女はキレイだった」などで知られる佐久間由衣。イノギ役を、映画『事故物件 怖い間取り』やドラマ「あなたの番です」などで存在感を放ってきた奈緒が演じる。同い年で、今作が初共演となる若き実力派のふたりに、お互いの印象や作品についての思いを語ってもらった。
高身長ゆえに悔しい思いをした過去も 佐久間由衣「ホリガイの容姿が自分と近いということがまずうれしかった」
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、オファーがあったときの率直な感想から教えてください。
佐久間由衣(以下、佐久間):すごくうれしかったです。個人的な話になりますが、自分が持っている身長の高さやショートカットであることが理由で役に合わなくて演じられないという悔しい経験がこれまでありました。なので、原作に描かれているホリガイの容姿が、自分と近いということがまずうれしくて、ぜひ挑戦してみたいと思いました。
――ホリガイの内面についてはどう思われましたか。
佐久間:最初に原作を読んだとき、一見、どこにでもいそうな大学生の女の子だけど、悩みがあって、出会いや別れがある中で彼女のひりひりするような気持ちが繊細ににじみ出ているのを感じました。もしやらせてもらえるならば、大切に丁寧に挑みたいと思いました。
――奈緒さんは、原作を読んだときにどんな感想を持ちましたか。
奈緒:作品自体がものすごく魅力的だなと思いました。ホリガイさんは、社会と向き合いながら、もがいていて、不器用で、他人のことを気にしすぎで、生きていくのが上手じゃない人。そんなホリガイさんの姿に惹きつけられました。イノギさんも多くは語らないけど、放っておけないような人。二人とも日常にいたらあんまり注目されないような人だけど、それを見過ごしちゃいけないというメッセージを感じました。
「言葉を発さなくても落ち着いていられるような関係性」佐久間由衣&奈緒、初共演で感じたお互いの魅力
――おふたりは今回が初めての共演ですよね。初めて会ったときの印象、それぞれの役を通した後の印象を教えてください。
佐久間:顔合わせの日、私が扉を開けると奈緒ちゃんが先に到着していました。その姿を見たとき「わぁ、イノギさんがいる」と思いました。その瞬間、この映画はステキなものになるって確信しました。後日聞いたのですが、奈緒ちゃんは役をイメージした姿で顔合わせに行くことがよくあるみたいで、本当に素敵な女優さんだなって思いました。
――その後、関係が深まる中で印象は変化しましたか。
佐久間:現場では、言葉を発さなくても落ち着いていられるような関係性でした。奈緒ちゃんは面白くて、遊び心があって、ユーモアがあって、ちょっと毒を吐いたりすることもあって(笑)。私が奈緒ちゃんのことをステキな女優さんだと思っていた理由が一緒にいるにつれてわかった気がします。
奈緒:なんだか、ずっとお互いを褒めあってるよね(笑)。
佐久間:そうだね(笑)。
――ステキな関係ですね。奈緒さんは佐久間さんに対してどんな印象を持ちましたか。
奈緒:初めてお会いしたときにはすごく「凛とした人」だなって感じました。たたずまいが綺麗で、由衣ちゃんの周りは静かに空気が流れているような印象でした。その一方で、ものすごく大きい口を開けて笑っていたりとか、おちゃらけていたりとか、ひょうきんな部分もたくさんあるんです。こんなに綺麗な人なのに周りを緊張させないんですよ。第一印象の静かな部分、話していく中で見えた由衣ちゃんの親しみやすさや無邪気なところは、ステキな魅力だと思います。台詞がないシーンもあったんですけど、安心してホリガイとイノギの関係でいられました。
佐久間:二人でカキなべをするシーンがあるんですが、あそこは台詞がなかったんですよ。
奈緒:そうそう。楽しかったよね。
履歴書を作ってキャラクターを細部までイメージ
――監督の印象的なエピソードがあったら教えてください。
奈緒:現場では細かい指示はなく、どちらかというと準備段階で演出をしてくださる人でした。イノギさんが持っているリュックの中身一つまで何が入っているかを共有しました。内面的なところを追求する監督で、役としてどんな動きをするのかではなくて、どういう気持ちでそこに存在しているかを作れた気がします。
佐久間:監督は原作をボロボロになるまで読み込まれていました。奈緒ちゃんの言うように、監督のイメージはクランクインの前にたくさん話して、現場では役者たちにゆだねてくれている部分がありました。
――クランクインの前にはどんなお話をされましたか。
奈緒:イノギさんの履歴書を監督と一緒に作りました。血液型から好きなお酒、サボテンが好きそうとか、どんな映画が好きかとか、甘いものが好きかとか。まるでイノギさんという人が本当に存在するかのように「イノギさんってどんな人だろうね」って、細かい癖一つまで話しました。
――佐久間さんも履歴書を作ったんですか。
佐久間:作りました。ホリガイの部屋のシーンが何回かあるので、どんな部屋だろう、とか。散らかっているんだけど、具体的にはどこが散らかっているか。汚れているのではなくて、片づけられないから物が散らかっている。散らかっているけどなにがどこにあるかは把握しているとか。水回りは綺麗とか、細かいところまで話し合いました。
――イノギとホリガイの内面がお二人の中にしっかり落とし込まれていたことが、演技に反映されたんですね。最後に、完成作品をご覧になった感想と見どころを教えてください。
佐久間:私は、観終わった後に涙が止まらなくなってしまいました。自分が出演した映画でそういう感情になったのは初めてでした。
「大丈夫」って笑っているけど本当は大丈夫じゃない人、そんな人のための作品
――どのシーンが特に印象的でしたか。
佐久間:小日向星一さんが演じるヨッシーが「人は朝起きて歯を磨くみたいに、簡単に死ねちゃうんだよな」という台詞を言うシーンがあって。その言葉が当時の私に響いて涙が止まらなくなってしまいました。みんな、生きていく中で選択をしています。朝起きて生きるか死ぬかを選び、歯を磨くか顔を洗うか、すべて選択して生きています。毎日、生きていくと選択していますが、もし死ぬということを選択したら……って想像したときに、すごくストレスのかかることだと思いました。でもそれって生きているから感じることですよね。明日も明後日も生きていくことを選択することへのメッセージを感じました。
――奈緒さんはいかがでしたか。
奈緒:もし自分が関わっていなかったとしても、すごく好きな映画でした。観た後に、めちゃくちゃみんなに勧めなきゃと思いました。強くて真っすぐな「生きろ」というメッセージを映画から感じました。監督が「大丈夫?」って聞かれて「大丈夫」って笑っているけど本当は大丈夫じゃない人、そんな人のためにこの作品を作ったとおっしゃっていて。まさに監督が思い描いた映画になっていました。この作品に関わったみんながそういう思いをもって作っているので、「あなたを気にしている人間が、私たちがここに居ます」という気持ちが届いたら良いなと思います。
――ありがとうございました! 公開が楽しみです。
取材・文:氏家裕子
写真:藤木裕之