松井大輔、Fリーグ移籍に本音 背中を押したカズの金言「何があるかわからないから面白い。だからプレーし続けることが大事」
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 サッカー元日本代表MFとして活躍し、フランスなど欧州の各リーグでプレー。昨年末にはベトナム移籍で周囲を驚かせた松井大輔(40)が、フットサル・Fリーグ1部のYSCC横浜とプロ契約を結ぶことが分かった。ABEMATIMESでは記者会見を控えた松井大輔本人への独占リモートインタビューを実施。コロナ禍でのベトナム生活の苦悩、電撃移籍決断に至った経緯、自らの道を探った日々の中で改めて思いを強くした“常に驚きを”という自分自身のこだわり。そして、日本サッカー界屈指のドリブラーが下した驚きの決断の背景には、尊敬するカズの言葉あった。(聞き手・西川結城)

【映像】松井大輔、電撃入団会見の模様

コロナ禍、ベトナムでの隔離で味わった孤独

松井大輔、Fリーグ移籍に本音 背中を押したカズの金言「何があるかわからないから面白い。だからプレーし続けることが大事」
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――「サッカー元日本代表がフットサル選手に転向」――。この話自体、耳にしたときは驚きでしかなかったです。

「実はまだほとんど誰にも話していないんですよ。家族もそんなに事情をわかっていないんじゃないかなと思うぐらいで(笑)いろいろな意味で、いまは楽しみでしかないですね」

――昨年12月に横浜FCを退団し、ベトナムに渡りました。コロナ禍での移籍だっただけに、大変な状況もあったのではないでしょうか?

「移籍自体はまた新しいチャレンジだったのでワクワクしていましたし、実際に最初の3カ月ぐらいは順調に進んでいきました。ただ、監督交代があったり、負けが多くなってくると、『ここはベトナムなんだな』と実感するような事態が多くなっていきました」

――具体的にどんなことが起こったのですか?

「もちろんコロナの影響も多大に受けていたのですが、例えば次の日の練習時間が前日の夜遅くまでわからないことはよくありました。プロとして予定がわからないなかでサッカーをすることはコンディション面でのリスクもあります。他国では当たり前のように計画的に進むスケジュールがなかったところは、正直難しさを感じていました」

――コロナは実際活動にどれぐらいの影響を与えたのですか?

「一番厳しかったのが、6月から8月末までの約3カ月間、完全隔離の状態になったときでした。このときもまず練習があるのかどうかがわからない、やれたとしても次の日の何時から始まるかわからない。生活環境で言えば、道が通れなくなったり、食事のデリバリーサービスが来ないということにも直面しました。ベトナムには単身赴任だったので食事も普段から自分で準備をしていたのですが、隔離のときは最終的にはベトナム軍から支給されるようになりました。隔離されていても最低限体は動かさないといけないので、非常階段を上り下りしたりしていました。ただ、家の中でできるエクササイズも当然限られたものでした」

――これまでも多くの国でプレーしてきた松井選手は海外生活には慣れているでしょうが、この特殊な環境下で一人缶詰め状態の生活は、正直苦しかったと思います。

「本当に孤独でした。朝起きてから、ご飯を食べることぐらいしか考えられませんでした。もちろん自由に外出はできない。さらにベトナム料理をずっと食べていると、すごく体も痩せていきました。僕は自分自身、メンタルは強いほうだと自覚しています。でも今回は、正直心が折れそうになったこともありました。先の見えないトンネルを走っているような感覚でした」

転機となったオファー、そしてカズからの金言

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――フットサル界から声がかかったのは、その隔離中のころだったのでしょうか?

「そうですね。そのくらいの時期だったかと思います。もちろんJリーグのチームへの移籍も考えたりはしましたが、最終的にはフットサル界に行こうと決断しました」

――YSCC横浜からのオファーを最初に聞いたときの、率直な感情は?

「素直に『面白いかも』と思いました。いままでのサッカー人生を振り返ったときに、『楽しそうだな』とか『チャレンジしがいがあるな』という感情を大事にしてきました。そういう選択は自分にとってこれまでの経験とは何か違うものがまた見えてくるものです。その意味で、今回のオファーも自分の人生にとってプラスになるとイメージできました」

――コロナの影響で閉塞感を覚えていたときに届いた話だったということも、松井選手にとっては転機となるきっかけになったのではないでしょうか?

「そうですね。あらためて、僕はこれまで『いままで誰もやったことがないようなサッカー人生を歩みたい』と思ってきたことを再確認しました。ベトナムで閉鎖的な状況にいた中、ここからどういう道を選ぶことが自分らしく進むということなのかを考えました。その結果、やっぱり楽しくプレーしたい、そして人とは違う道を進みたいという思いにたどり着きました。だからこそ、そんな自分をまた思い出させてくれた今回のこのオファーに、ものすごく感謝しています」

――この期間、どなたかに相談はされたのですか?

「カズさん(三浦知良)には連絡しました。僕が18歳で京都パープルサンガ(現・京都サンガ)に入ったシーズン(2000年)に初めて出会い、横浜FCでもお世話になりました。オフの自主トレにも一緒に参加させてもらうなど、僕はカズさんの背中をずっと見てきました。昨年12月にベトナムに移籍するときも、『俺とお前はどこにいても変わらないよ』と言ってくれたこともうれしかったです。カズさんはかつてFリーグの試合にも出場した経験があり、フットサル日本代表としてW杯にも出場しています。だからこそ今回の話を相談させてもらいました。カズさんには『フットサルは面白い。今後またどんな人生を歩むかわからないけど、サッカーにも生かせることがある』と言ってもらえました。そして『この世界、何があるかわからないから面白い。だからプレーし続けることが大事』とも話してくれました。その言葉には背中を押されましたね」

常に驚きを。それが松井大輔らしい生き方

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――実際に『松井大輔×フットサル』をイメージすると、テクニックと創造性あふれるプレースタイルがあの小さなコートでどこまで繰り出されるのか、楽しみでしかありません。

「そこは自分も本当に楽しみにしているところです。今回コロナ期間の隔離中に思ったことは、今年40歳にしてあらためて『常にボールに触れる、戯れていないとダメだな』ということでした。そうでないと技術は錆びてしまう。毎日触れて、感覚を研ぎ澄ましていくことで足に癖がつく。フットサルはテクニックや楽しい動きが満載ですよね。自分の武器を生かしていきたいです」

――これまでフットサルという競技自体にはどんな印象がありましたか?

「バスケットボールやハンドボールと同じで、守備のブロックを組みながらサインプレーで崩していくイメージがあります。例えばFリーグを見ていても、名古屋オーシャンズはサインプレーが多彩ですごく組織的なチームだと思います。僕が加入するYSCC横浜は、そこにちょっと自由が加わり、イマジネーションあるプレーも特徴的だと思うので、僕のプレースタイルには合っているのではないかなと感じています」

――とはいえ、サッカーとフットサルは似て非なるものでもあります。転向するにあたっての不安要素はありますか?

「少しあるというのが正直なところです。これまでずっと柔らかい芝生の上でプレーしてきた環境から、屋内の床の上が主戦場になります。長年サッカー選手をやっていると、例えば天然芝ではなく人工芝のような下が固い場所でプレーすると膝や腰に痛みが出てくるものです。ただそうした環境が違うところでもうまくいくかどうかも含めての、挑戦です」

――あとは当然プレーエリアの大小も大きく異なります。

「コートの縦の長さがフットサルは40m。サッカーの半分以下ですよね。もちろん現代フットボールでは多くスプリントすることも大事ですが、どちらかというと1試合を通した運動量や走行距離がまずは求められます。ただフットサルは距離は短いですが、短時間にスプリントを複数回繰り返さないといけません。速く走る、そしてその本数を増やすというところでの強度はサッカー以上に高まると思います。あとは、サッカーよりも”キレ“が重要になってきます。一瞬で敵を剥がす俊敏性や、攻守の切り替えの場面でのキレ。これからトレーナーと一緒に新たな自分づくりに取り組むことも必要です。とはいえ、小さなコートでサッカー以上に技術的なプレーを押し出せる機会が多い競技です。そこで僕の武器が発揮できると思っています」

――これまで日本、フランス、ロシア、ポーランド、ブルガリア、そしてベトナムと6カ国でプレーしてきました。これほど多くの環境で勝負してきた選手は数少ないですが、さらに松井選手は今回競技を飛び越えたチャレンジをします。最後に、あらためて「松井大輔らしさ」とはどういうことなのでしょうか?

「これまで移籍を決めたり、節目となってきたときは、自分がワクワクするような決断をしてきました。今回も同じ文脈で、ここでまた何か違う道を切り拓けるのではないかと感じています。仕事とは言え、やっぱり楽しみがないと意味がないです。もちろん苦しいこともたくさんありますが、その先にちょっとした楽しみがあれば、僕はうれしい人間です」

――常にその選択に驚きやサプライズを与えてきた、松井選手らしい決断ですね。

「やっぱり相手の逆を突かないといけないですからね、ドリブラーは(笑)」  

【映像】松井大輔、電撃入団会見の模様
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