レディオヘッドが5月23日にパリ公演で初期のヒット曲「Creep」を久々演奏しファンの間で驚きと共に話題となっている。彼らが最後にこの曲を演奏したのは2009年8月30日のイギリス・レディングフェスティヴァルのステージ以来7年ぶりとなる。

「Creep」は、レディオヘッドの中でも長い間「扱いの難しい曲」として、熱狂的なファンの間でも「もう演らない曲」という認識が強い曲だ。トム・ヨークはこの楽曲というよりも、1stアルバムの『パブロ・ハニー』自体をキャリアからノーカウントにしたい作品とまで公言して来た。
ニルヴァーナが「Smells Like Teen Spirit」、オアシスが「Wonderwall」を嫌ったようにレディオヘッドが「Creep」を毛嫌いした理由は非常に判りやすい。
デビュー作のシングル・カット曲で、まだまだ発展途上の時期にリリースした曲であることもさることながら、処女作故に「But I'm a Creep」=オレはジメジメした糞野郎だ、オレはここで何をやっているんだ?居るべき場所ではないのにーと若気のいたり歌う厨二病全開の歌詞を、年を重ねて歌い続けることはトム・ヨークじゃなくても恥ずかしい筈だ。
それに加え、当時「レディオヘッドはクリープだけの1発屋」とここぞと叩きまくったメディア、ツアーやフェスに出るたびに「Creepを演奏してくれ」と要求するイベンター、普通に考えても嫌になるのは当然だろう。
そんなバンドにとってトラウマ的な扱いだったこの曲だが、徐々に彼らの中でもここ数年時間をかけて「和解」する兆候があったのは確かだ。例えば2008年にプリンスがコーチェラ・フェスティヴァルで「Creep」を演奏したが、この映像の公開を2015年まで粘り強く働きかけて来たのがトム・ヨークだった。プリンスはインターネットで自由に音源や映像が公開される現在の状況をこころよく思っていなかったが、トムは「あれは僕たちの曲だから、プリンスはブロックすべきではない」と発言。7年と随分時間がかかったが、プリンスも最後は折れて映像の公開を許可、さらに紹介ツイートまでして暗に認めた。
これは今回のツアーでのレディオヘッド自体にも芽生え始めている変化かもしれない。最新作『A Moon Shaped Pool』を引っさげてのツアーではあるものの、キャリアを俯瞰した日替わりのセットリストが連日話題にあがっている。「Creep」だけでなく「My Iron Lung」「True Love Waits」「No Surpises」「2+2=5」もかなり久々にセットリストに加えられ、バンドの中でも自分たちの過去のキャリアと向き合い新しい解釈で演奏するという新しいレディオヘッドのライブスタイルの構築が進んでいるような雰囲気だ。
今年『サマーソニック2016』に出演する(8月20日大阪、8月21日東京)レディオヘッドだが、やはりファンとしては「Creepが聴きたい」という人は圧倒的に多いだろう。日本で奇跡的に聴けた2003年のサマーソニックでの演奏は今でも語り草となっている。「全ての歌詞を非英語圏の日本人のファンが大合唱したあの風景を彼らも忘れていない筈」と信じて待ちたいところだ。