カタールワールドカップも、終盤に入ってきた。日本代表はPK戦で敗れたが、同じ形で大会を去るチームは他にも出た。また、同じ数だけPK戦での勝ち上がりもあるのだ。ワールドカップとPK戦には、どんな因果関係があるのか。サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。

■PK戦は合理的な決着方法か?

 PK戦のような、サッカーの本質から離れたルーレットによって、ワールドカップの順位が決まってしまうのは望ましいことではない。

 本来なら、大昔のように再試合を行うのが理想だが、そんなスケジュールの余裕はない。PK戦以外に方法はないのだろうか?

 JリーグのJ1参入プレーオフでは試合が引き分けに終わった場合には、リーグ戦上位のチームの勝ちとすることになっている。ワールドカップでもこの方式を採用できるかもしれない。

 たとえば、ラウンド16であれば、引き分けに終わった場合には1位通過のチームが次のラウンドに進むことができるようにする。

 そういう方式にすれば、2位通過のチームは同点のままでは負けになってしまうので、リスクを負ってゴールを狙いに来る。そして、2位通過チームが勝ち越せば、今度は1位通過のチームが必死に同点ゴールを狙う……。こういうレギュレーションにすれば、グループリーグで消化試合が減ることにもなるだろう。

 準々決勝以降についても、同様に前のラウンドまでの成績によって上位のチームが勝ち上がるようにすればいい。

 抽選よりも、PK戦よりも、ずっと合理的な方法だと思うがどうだろうか?

■4年後からPK戦の重要性が増す?

 さて、しかし、実際にはワールドカップではPK戦という決定方法が採用されている。そして、48か国参加となる2026年以降のワールドカップでは、3チームずつのグループリーグの後、32チームによるノックアウト・ステージで優勝を争う方式になると言われている(まだ、正式決定ではない)。

 もし、この方式が採用されるとすれば、ラウンド32からPK戦が採用されるから、実力のあるチームでも運が悪ければ(あるいは対戦相手がクロアチアだったら)、いきなりPK戦負けでラウンド32で敗退してしまうかもしれない。

 PK戦というのはサッカーの本質とは関係のない勝負だ。そんなことの準備よりも、90分で勝利できるような努力をする方が正当なやり方だという価値観もある。イビチャ・オシム監督は、「PK戦などルーレットのようなもの」と言ってロッカールームに引き揚げてしまった。

 だが、そんな「つまらないこと」の結果で、長い年月をかけて努力してきた目標を逃してしまうとしたら、もったいないことである。

 PK戦という方式が採用されている以上、やはり対策を練っておくべきだろう。

 クロアチアと引き分けた後、日本代表の森保一監督は希望者をキッカーに指名して3人が失敗して敗れてしまった。一方の、PK戦を得意とするクロアチアは事前の準備に従ってキッカーを指名してきちんと決めてきた。やはり、PK戦となった時の戦略は事前に立てておくべきだろう。

■PK戦に勝つ方法

 さて、では、キッカーはどのように決めればいいのだろうか?

 まずは、通常のトレーニングの場でも定期的にPKの練習をしてPKのうまい選手を10人以上用意しておくことだ。そのうち、延長戦終了時にピッチに立っていた選手がキッカーに指名される。

 次に、120分の戦いを終えて疲労をため込んでいる選手はキッカーを務めさせられるべきではない。

 日本戦の後のPK戦で、クロアチアは2人目のブロゾヴィッチ以外は途中交代の選手が蹴っていたし、ブラジル戦でも3人目のルカ・モドリッチ以外は途中交代選手だった。

 日本も4人目の吉田麻也以外は途中交代の選手だったが、1人目の蹴った南野拓実は、87分にピッチに入った後もゲームに入り切れずにいた。南野としては、だからこそ責任感に駆られて難しい1人目に志願したのだろうが、やはり、1人目の重責はゲームの中でテンポよくプレーしていた選手に任せるべきだったろう。

 なお、120分戦って疲労した中でもしっかり蹴ることができる選手もいれば、疲労が溜まると精度が落ちる選手もいる。これも、普段のトレーニングの中で負荷をかけた状態でPKを蹴らせてみることでデータを揃えておくべきだろう。

■今からすべきPK戦対策

 キッカー選びのポイントとしては、GKとの相性も考えるべきだ。

 GKの中にはキッカーと駆け引きをしてコースを予測して動くタイプもいれば、勘で動くGKもいる。あるいは、キッカーが蹴る瞬間まで動かずに反応するタイプもいる。

 日本人選手のPKとして思い出すのは遠藤保仁の「コロコロPK」だが、キッカーと駆け引きをしたり、ヤマを張ったりするGKにはこれが有効だ。だが、相手の動きを最後まで見るタイプのGK相手には「コロコロPK」は決まらない。最後まで動かずに反応するリヴァコヴィッチのようなGKには、たとえばゴール中央に強いキックを蹴り込む本田圭佑のようなキッカーの方が有効かもしれない。

 こうした点で、僕が感心したのはジネディーヌ・ジダンで、相手のGKのタイプによってさまざまなキックを蹴り分けていた。

 さらに特殊な条件が加わることもある。

 日本にとって忘れられないPK戦と言えば、2004年アジアカップ準々決勝のヨルダン戦だろう。1対1のままPK戦に突入。日本はいきなり中村俊輔と三都主アレサンドロが連続して失敗。ここで、キャプテンの宮本恒靖がレフェリーに対して「ペナルティースポット付近の芝生が軟弱なのでゴールを変えるべきだ」と主張。反対側ゴールに移ってからはGK川口能活の神がかりのセービングもあって、0対2の状態から日本が逆転したのだ。

 しかし、芝生が軟弱だということは事前に分かっていたはずだ。それなら、立ち足を斜めに大きく踏み込んでキックする中村や三都主ではなく、直線的に助走をつけて立ち足に力がかからないタイプのキッカーを選ぶべきだったのだ。

 もちろん、PK戦というのはあくまでも抽選の代わりであって、いくら周到な準備をしても必ず勝てるものではない。90分での勝利を目指すべきだ。だが、勝利の可能性をほんの数パーセントでも上げるためには十分な準備と相手チームのGK、キッカーについての情報収集を行っておくべきなのだ。

 4年後にベスト8を目指すつもりなら、すぐにでもPK戦の研究と対策に着手すべきだろう。