憶測や陰謀論がはびこってしまう背景も… 大規模爆発によってレバノンにロシアや中国も進出か
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 多くの死傷者を出したレバノンの首都ベイルートで起きた爆発事故。約5km離れた日産自動車前会長・カルロス・ゴーン被告の自宅も被害を受け、窓や門が壊れたという。

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 5日の『ABEMA Prime』に出演した中東政治に詳しい青山弘之・東京外国語大学教授は「ベイルートには西側と東側にメインの街区があるが、現場周辺は車で通り過ぎる場所だ。市民があまり近寄るような場所ではないし、特に港湾施設には入らない。非常に大きな爆発だったので民間施設や居住地への被害も大きかったが、距離が離れていたのは不幸中の幸いだったかもしれない」と話す。

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 現場となった港湾地区の倉庫には爆薬の原料にもなる硝酸アンモニウム2750トンが保管されていたとも報じられており、事故との見方が大勢を占めているようだ。今回の爆発の原因についてレバノンのディアブ首相は「予防措置もないまま2750トンの硝酸アンモニウム貨物が倉庫に6年間保管されていたなど受け入れがたい」「今日起きた惨事についてはその責任者が代償を払うことになるだろう」と話しているという。

 青山教授は「ほとんどのアラブ系のメディアは事故の可能性が高いと報じているし、硝酸アンモニウムの入手経路も分かってきているようだ。私も事件の可能性は低いと感じている」と話す。

 「レバノンの首相もメディアも言っていることだが、硝酸アンモニウムの管理が不適切だったようだ。私が調べたところでは2013年から置かれていて、本来であれば消費されたり移転されたりしなければならないところが、そのまま保管されていたという。首相が“責任を持っている人たち”と複数形で言及しているのも、関与していた人たちは追及され、処罰を受けることになる、というような意味合いで、軍事作戦や、その背後にいるような国家、政治組織を想定した発言ではないと思う」。

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 一方、一部の中東メディアは、爆発が起こったのがレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の倉庫だと伝えている。ヒズボラをめぐっては先月、隣国のイスラエル軍によるものと見られる空爆で戦闘員が死亡。その後、国境地帯でも交戦が起きるなど、緊張関係にある。そうした背景からか、イスラエルの外相は「爆発は火災によって引き起こされた事故だろう。憶測では話さない方がいい」と強調している。

 そんな中、トランプ大統領は軍幹部の話として、「彼らは爆弾のようなものによる攻撃だと考えているようだ」とコメントした。アメリカはイスラエルを支援し、イランとシリアはヒズボラを支援しているという関係性がある。

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 青山教授は「イスラエルにとって、ヒズボラはここ10年くらい国内の安全保障上の最大の脅威になっている。2006年には大規模な戦闘があり、イスラエル側は大きな犠牲を強いられた。その後も、ヒズボラにどう対処するのか、ヒズボラを支援しているシリアやイランとどう対峙するのかということに常に腐心してきた。先月辺りからヒズボラはシリア国内でも活動してイスラエルに対峙しているので、そこを狙うような爆撃も頻繁に行っている。ヒズボラ側も挑発的な行動をしており、非常に緊張状態が高まっていた。そういう中で爆発だったので、様々な憶測を呼んでいるという気がする」と説明した。

 その上で、トランプ大統領の発言についても「あまり根拠がない中で反射的に言ったのではないか。アメリカがそのような批判をする場合、中東において何らかの政策を打つための布石みたいなものがあって然るべきだが、今回に関してはイスラエルが不利になってしまうようなシチュエーションが出てきてしまう。逆にイスラエルと対立している組織の方に嫌疑が向けられたとして、アメリカがどう介入するのか、どういう対抗措置を取るのかという具体的な青写真が全く見えない。ツイッターで注目されるということくらいしか効果がないという印象を持った」と指摘した。

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 今後のレバノンと中東情勢について青山教授は「レバノンは危機に立たされている国だ。今年の初めにデフォルト状態に陥ってしまって、経済的に非常に苦しい状況にある。3日には外務大臣が政府の無策を批判して辞任したばかりだ。自分たちの延命、保身を考えるのであれば、事故の責任を何が何でも第三者に押し付けることもあるかとは思う」と話す。

 「また、今回の事件を機にレバノンが世界的な注目を集めることによって、結果的には海外からの人道支援、救援支援を勝ち取ることにもつながると思う。実際、政治家、首相、大統領も、国際社会に対して支援を求めるアピールをしている。一方、イスラエルと対峙しているということ、地中海に面していることなど、地政学的に非常に重要な位置にあるレバノンを戦略上必要としている国も少なくない。旧宗主国であるフランスはレバノンを足がかりに中東に進出してきたし、ロシアもレバノン政府側の呼びかけに真っ先に応えた。ロシア同様、中東やアフリカの様々な地域にマンパワーや資金を供与している中国も必ず来ると思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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