「#Amazonプライム解約運動」。16日からネットに出回っているこのハッシュタグ。その理由は、Amazonプライムビデオの新しいCMにある。
CMには、松本人志やリリー・フランキー、清野菜名らタレントのほか、国際政治学者の三浦瑠麗氏も登場。その三浦氏の起用をめぐって、「解約しました。三浦瑠璃に対するボイコットです」「徴兵制主張者をCM採用する外国企業の不買運動に賛同します！」といった声があがっている。徴兵制導入を公言する三浦氏の発言を取り上げ、Amazonプライムの解約や不買運動を呼びかけたのだ。
一方で、そうした反対の声に疑問の声を上げる人たちも。「くっそどうでもいい。サービスが悪くて解約することがあってもCMどうのこうので解約することはない」「嫌なら自分1人で解約すればいいのに。そんなにムーブメントを起こしたいかなぁ。くだらない」。
そして、脳科学者の茂木健一郎氏も「このハッシュタグはおかしい。『お笑い』のことで松本人志さんといろいろあったから、そう思っている人もいるかもしれないけど、コメディアンとしての松本さんを尊敬している。三浦瑠麗さんは自分できちんと考える方。立場が少しでも違うと拒絶というのは人間としてどうか」と苦言を呈している。
このハッシュタグがネット上で出回っていることについて、アマゾンジャパンに取材。次のような見解を示した。
「キャスティングについて、このコマーシャルシリーズはシーズンごとに違う著名人が出演しています。独自の起用基準を設けており、制作意図や起用基準については機密事項です。トレンドワード入りに関しては、お客様の反応を真摯に受け止めて今後の制作に反映してまいります。なおこのコマーシャルは期間限定コマーシャルのため、もう間もなく放映期間が終了いたします」
■相次ぐネットの炎上「怒りの日替わり定食のよう」
BuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は、徴兵制に反対で三浦氏の政治思想には賛同しないとしたうえで、「#Amazonプライム解約運動」について「抗議の手段として共感できない」と話す。
「まず思い出したのは、2010年代の初頭にあった“嫌韓デモ”。この時、わざわざCMのスポンサー企業にデモをかける、凸するということが行われたが、似たような空気を感じる。自分と同じ考えの芸能人に対しては、この前の検察庁法改正案への抗議のように『よく言った』と褒めそやす一方、少しでも気に入らない人には、お金を出している企業側に働きかけて間接的に圧力をかけるようなやり方をする。清々しくない」
また、こうした運動はブーメランになるとも指摘する。
「嫌韓デモの時は右派の人たちが怒ってスポンサーに凸をかけたが、今回はどちらかというと左派寄りの人たちがハッシュタグをつくって抗議の声をあげた。消費者が個人的に不買を決めるのは自由だし、サービスが気に入らないならどんどん抗議すればいい。だが今回、三浦氏はCM内で徴兵制を訴えたわけではない。従来からの主義主張に問題があると考えるのであれば、彼女に対して『徴兵制はおかしい』と言えばいいだけだ。
スポンサーに働きかけてダメージを与えるやり方をよしとするなら、左派が主張する『憲法9条を守ろう』『平和は大切だ』といった意見に賛同する芸能人に対して、右派の人たちが『それは偏向している』『売国奴だ』とスポンサーに圧をかけることもできてしまう。同じことをやられた時に何も言い返せないのではないか」
「政治や主義主張を打ち出すと叩かれるとなれば、スポンサー企業は無色透明で物言わぬタレントばかりを起用するようになる。三浦さんは芸能人ではないので判断が難しいが、こうした不買運動が横行する風潮は息苦しい。テレビに出ている人たちにも様々な思想信条や信仰がある。自分の主張と完全に一致することを求めるなら、自撮り動画ぐらいしか見られなくなる」
さらに、絶えず怒りの矛先を探すようなネットの状況に警鐘を鳴らした。
「徴兵制の導入や核武装を訴える有名人はほかにもいるが、番組やスポンサーへの抗議があったとは聞かない。叩きやすい時に叩きやすい人を叩くやり方はどうなのか。ここ最近、“ポテサラ”“冷凍餃子”“廃棄前提おじさん”など立て続けに炎上事案が起きたなかでの“Amazonプライム解約運動”。まるで怒りの日替わり定食のようだ。まず最初に怒りがあり、その感情を発散するための対象を血眼で探している気さえする。カジュアルに怒っていると、肝心なところで怒れなくなる。怒りをエンタメ化して消費しない方がいいのではないか」
