7年8カ月のアベノミクスの成果は? 夏野剛氏「印象論ではなく、数字に基づいた冷静な分析を」
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 菅官房長官と岸田政調会長は80点、石破元幹事長は70点。これは8日のテレビ朝日報道ステーション』に出演した“ポスト安倍”の3候補が示した、7年8カ月のアベノミクスへの“採点結果”だ。

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 菅官房長官は「本当は90点以上あると思う。為替は70円台、株価は8000円前後だったのが、7年8カ月の間に大きく変わっているじゃないか。今、株価は2万3000円だ」、岸田政調会長は「“6重苦”と言われた状態からスタートし、GDP、企業収益、雇用。大きな成長、成果は確認できている。ただ、成長戦略という部分についてはもっとエンジンをふかさないと、持続可能性はどうだろうかと」とコメント。そして石破元幹事長は「大企業の経営者やそこで働く人は豊かになっただろう。だけど、そうじゃない人たちはどうなったか。地方、農林水産業、中小企業、女性。そういう人たちの力を最大限に生かす。そういうのはまだ道半ばだと思う」と指摘した。

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 リーマンショックや東日本大震災の影響で経済が伸び悩む中、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という“3本の矢”を打ち出した安倍総理。先月の辞意表明会見では、「20年続いたデフレに3本の矢で挑み、400万人を超える雇用をつくり出すことができた」と、その成果を訴えた。

 アベノミクスの成果とは何だったのか。残された課題とは。『ABEMA Prime』で議論した。

■第1の矢「大胆な金融政策」、第2の矢「機動的な財政政策」が生み出したもの

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 就任直後の2013年1月、デフレ脱却のため安倍総理は2%の物価上昇率を掲げた。同年6月、黒田総裁率いる日銀による“異次元の金融緩和”は黒田バズーカと呼ばれた。これにより株価は上昇、円安も進んだ。一方、これにより大企業が潤い、中小企業、さらには低所得者層にまで経済効果が波及するという「トリクルダウン」は実現していないとの批判もある。

 元財務官僚の小黒一正・法政大学教授は「内閣府によると安倍政権が発足直前の2012年12月が景気の底だったが、そこから景気は戦後最長になるかもしれないペースで拡大を続け、2018年10月でピークを迎えた。異次元緩和で注目されたのは、日銀が国債50兆円分を購入したこと。それでもインフレ率2%の目標が達成できないと焦って80兆円分を買った。さらにETFや株を年間6兆円くらい買うということもやった。政権発足前は株式市場がかなり萎縮していたので、日銀が株式市場に相当なボリュームのお金を流すというショック療法によって株価が上昇したということだ。もちろん海外市場も上昇していたので、タイミングも良かった。ある意味では運のいい政権だ」と話す。

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 「ただ、この株価の上昇が実体経済を反映しているかといえば、それはまだ分からない。ある意味では株を持っている家計に対して集中的に支援するような政策にもなっている。また、景気の拡大に伴い、雇用など様々な経済成長にプラスに働いていたのは確かだが、一番所得が低い階層にまで恩恵が行き渡らなかったというのも事実だと思う。そもそもトリクルダウンというのは経済学者の間でも様々な議論があるが、上から下に行くというのは難しいと思う。やるのであれば税制や社会保障を使った再分配政策だ。徴収した税や保険料のうち、どれくらいを所得が最も低い階層に投下しているかを見てみると、例えばオーストラリアは50%に達している。しかし、日本はどちらかといえば中間層にばらまいているので、なかなか再分配が進んでいない」。

 さらに小黒氏は雇用について「失業率が下がり、労働市場が切迫した状態になると賃金が上がっていくが、安倍政権の7年8カ月で、上昇圧力が強くなるところまではいかなかった。しかし農業分野や地方は都市部に人が取られてしまうので、むしろ労働力不足を補うために外国から労働者を受け入れないと回らないという議論も出てきた。一方で、なるべく少ない人で生産する、いわば“兵糧攻め”にすれば生産性が上り、賃金が上がっていくというメカニズムもあるが、その点の議論は深まらなかった」と指摘した。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「トリクルダウン的なことを人為的にやろうとした政権だったと思う。まず法人税を下げ、金利を下げ、為替を安定させることで、とにかく企業が利益を上げやすい環境を整えた。そして給与を増やせばその分だけ法人税を下げるという条件をつけた。まさに大きな構造改革せず、政策資源を総動員し、コントロールできるファクターは全てコントロールし、税制を使って無理やり所得に落としていこうとしたということだ。結果、それなりに名目の賃金は上がったと思う」とコメント。

 また、慶應大学特別招聘教授でドワンゴ社長の夏野剛氏は「“生活者の実感は”などと言うが、誰の実感かという定義が必要だ。若者でいえば失業率は低いし、ベンチャーが上場しやすい環境になっているので、20代、30代の上場企業の社長が次々に生まれている。つまり世代でひと括りにできない状況になっている。まずは数字に基づいて議論すべきだ」と訴える。

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 「こういうことを言うと炎上するし、安倍政権を擁護するつもりもないが、この7年8カ月で明らかに経済指標は良くなったし、それ以前に比べれば、はるかにましだ。この20年のGDPの成長率を見てほしい。失業率も3%以下になった。これはずっと実現できなかったことだ。そういうところは評価した方がいい。ただ、全てが良くなる時代ではないので、中には色々な問題が出てきた、まだ足りないところがあるよ、という話だ。中でも格差の問題は本当にあると思う。それもメディアが言うようなフローの格差ではなく、ストックの格差の方が拡大していることが問題だ。例えば株取引の税率は20%なのに、所得税率は55%もある。あるいは親が都心に家を持っていたら、子どもはいくらでも家が買える。単なる印象論でではなく、格差が生まれた原因は何なのか、その是正に手をつけていないのではないかということを冷静に分析していくべきだ」。

■第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」は道半ばか?

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 では、規制改革などを含む第3の矢についてはどうだろうか。

 小黒氏は「確かに十分ではなかったと思う。コロナ禍でも明らかになったように、デジタルガバメント、DXの部分についてはもっと積極的にやっても良かったと思う。例えば日本医師会や関係者からの反対もあったオンライン診療や、はんこの問題もコロナによって議論が進んだ。その意味で、この分野は今がチャンスだ。ただ、逆に岩盤規制を壊し過ぎて批判されている部分もあった」と話す。

 規制改革推進会議の委員の経験もある夏野氏は「安倍総理が3期目の規制改革推進会議のメンバー全員の前で言われたのは、“1期、2期は簡単なことから手をつけた。3期目は重い課題しか残ってないので、皆さんぜひ頑張ってください”ということだった。。やはりそんなに簡単で話ではない。規制緩和というのは、既得権益を持っている人たちが現状のビジネスでは暮らしていけなくなることを意味している。そして規制緩和に手を付けようとすると、メディアが“タクシーの運転手さんはどうやって生活していくんだ。今、旅館をやっている人たちはどうやって生活していくんだ”、犠牲になる人がどんなに酷い目にあっているか、という画を取材しようとする。それは弱者保護の立場に立つ方が楽だからだ。これは安倍政権の問題というよりも、日本の構造の問題だ」と憤る。

 宇佐美氏は「金利を0%にした一方、企業の“ゾンビ化”が認められる環境も作ったので、企業の新陳代謝が相当弱まってしまった状態での規制改革となってしまった。一方で新陳代謝するぞと言い、もう一方でゾンビ企業を保護するぞと言っているので、そんなに簡単には入れ替わらない」と指摘した。

 “ポスト安倍”の最有力候補とされる菅官房長官は、安倍政権の政策を継承すると主張しているが、修正しなければならない部分はないのだろうか。

 小黒氏は「菅さんが最終的にどういう政策を出してくるのかに注目している。叩き上げで、政権の内部にいた菅さんは、色んな話を見聞きし、いいところも悪いところも熟知していると思う。それに新しい風を吹かせなければ政権を維持できないということもわかっていると思う」とコメント。宇佐美氏は「異次元緩和の出口を見つけられればアベノミクスは90点、100点だと思うが、それを止められなくなってしまったという点では、僕たちは将来苦しむことになると思う。そういう中で地銀の再編に言及したのは、よく問題を分かっていると感じた。金利が0%のままになっているので、銀行は経営が成り立たなくなってきている。菅内閣は持つかもしれないが、その次くらいになると持たない。だからとりあえず地銀同士をくっつけることでコストを削減させ、何とか生きながらえるようにしたいのだと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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