米アカデミー賞の選考に“多様性ルール”導入も狙いは興行収入? ひろゆき氏「結局“金じゃん”と思っている」
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 アメリカで相次いで問題となった、黒人に対する警察官の暴力。これに呼応し、反差別運動も激しさを増している中、ある変革が話題を呼んでいる。

【映像】米「アカデミー賞」に新基準

 「この基準は、映画を見る観客の多様性をより適切に反映するため、スクリーンの中、外で、公平な表現を促進するように設計されています」

 こう発表したのは、映画の祭典「アカデミー賞」を主催する映画芸術科学アカデミー。作品賞の審査に新たな基準を設け、受賞のためには一定数基準を満たさなければならないと発表した。過去には、俳優部門に有色人種が1人もノミネートされず、授賞式のボイコット騒動が勃発。批判の声が多くあがっていた。

 変革に向け大きく舵を切ったアカデミー賞。新たな基準が適用されるのは2025年に開催される予定の第96回アカデミー賞からだ。しかし、インターネット上ではすでに賛否が分かれている。アカデミー賞、そして世界の映画にどのような影響を及ぼすのか。11日の『ABEMA Prime』は考えた。

■新基準にひろゆき氏「結局“金じゃん”と思っている」

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 新たな基準が設けられるのは、アカデミー賞の中の「作品賞」。具体的には、「A:主要な役にアジア系・黒人などを起用 or 出演者3割に女性や性的少数派など起用 or 作品・テーマが性的少数派や障害者をあらわすもの」、「B:製作スタッフの3割に女性・性的少数派・障害者など起用」、「C:配給会社が少数派のインターン受け入れるなど」、「D:広報などに女性・性的少数派など多様な人材」の4つで、このうち2つを満たす必要がある。

 新基準について、朝日新聞経済部記者で元ロサンゼルス支局長の藤えりか氏は「映画芸術科学アカデミーが起死回生を模索した形」との見方を示す。

 「面白い作品がアカデミー賞を獲らないというのはその通りで、会員はアートに寄った投票をしている。一方、主催母体の映画芸術科学アカデミーは、授賞式のテレビ視聴率を上げたい、もっとヒット作品をノミネートさせたいということで、ある種せめぎ合いで条件変更を重ねてきたところがある。今回思ったのは、映画業界もオールドメディアでジリ貧になってきていて、起死回生の策を色々模索しているんだなと。というのもアジア系、韓国ドラマや映画もそうだが、面白いコンテンツはNetflixやAmazonプライムにあって、客が劇場に来てくれなくなっている。多様性があるものを打ち出した方が劇場に来てくれるのではないかと、色々ジレンマがあった中でのことかなと思った。ただ、文言で“アジア系”が最初に出てきたのは画期的だなと思った。アジア系はずっとビハインドで、白人ばかりのアカデミー賞といっても、黒人を登用しようなどそういう話ばかりだ。日本の人たちが進出しても、真田広之さんはすごく頑張っておられるがなかなか難しい。それが意識されるアナウンス効果はあるのではないかとは思う」

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 一方、2ちゃんねる創設者の西村博之(ひろゆき)氏は「アジア系が出てきたのは、『トランスフォーマー』の米レジェンダリー社が中国資本になってしまったように、大作に中国人が出るのはむしろ当たり前になっている。その事後承認な気がしていて、結局“金じゃん”と思う」と指摘する。

 この意見に藤氏も「それはすごくある。ハリウッドはアイデア不足に陥っていると言われている中で、『パラサイト 半地下の家族』はすごいねとなって、韓国コンテンツにもすごく注目している。今までにないストーリー、金になるものを求めているというのはある」と賛同した。

■「表現の自由」「白人への逆差別」? 懸念する声も

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 新基準の導入に対しては、「表現の自由を妨げない?」「実力のある白人への“逆差別”は?」「実話ベースの映画は作品賞とりにくい?」「作品がマイノリティー重視作品ばかりに?」「男性が中心の世界は描きにくい?」「達成のためのお飾りキャストやスタッフが増える?」など、問題点を懸念する声があがっている。

 こうした声にひろゆき氏は、「表向きは基準が出たが、例えば配給会社でインターンを入れるのは簡単にできる。基準のCやDなどのところにマイノリティーの人を入れるのは簡単で、白人しか出ない映画もちゃんと基準は満たせるので、これらの声は単なる危惧に終わると思う。多様性に考慮しているというプロモーションで、こうしてニュースになってよかったねという話。実際問題、あまり変わらないと思う」との見方を示す。

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 一方、藤氏はマイナス面はないだろうとし、「あまりにも長い間(マイノリティーを)踏んづけてきたというのはある。ハリウッドはリベラルの人が多いことに一応なっていて、人権問題などを映画で出したりしているが、足元では全然。例えば、エンドタイトルロールには多くの人が出てくるが、このスタッフにも入れてこなかったのはすごく重いこと。“ちゃんとやっていないだろう”という批判をリベラルからも浴びる羽目になった。アナウンス効果だけで従わない作品があったとしても、もっとちゃんとやろうと真剣に考えるところも出てくると思うので、マイナスはないしプラスもあるかもしれない」と述べた。

 そんな中、ハリウッドは「#MeToo」運動のきっかけになった面もあり、「当の大物プロデューサー・ワインスタイン氏も、心温まるあるいは人種差別撤廃といったすごくいい映画を配給した。それがあれだけ大量の性的暴行をやっていて、ちゃんと足元を見てやっていかないと中で離反も起きる」とした。

 藤氏によると、映画芸術科学アカデミーの基準は「英国アカデミー賞」を参考に作ったものだという。「ひろゆきさんもおっしゃっている(基準の)CとDは本当に簡単。映画芸術科学アカデミーの基準は英国アカデミーを参考に作ったが、英国アカデミー賞で何が起きたかというと、2020年の作品賞は『1917 命をかけた伝令』で、ほとんど白人男性しか出てこない。第一次大戦の兵士もの、戦争ものが獲れてしまうのは、スタッフにちゃんと多様な人たちがいるから。ノミネートされているのも『ロケットマン』だったりと白人の映画で、何も変わらないと言えば変わらないが、それを受けて動く人がいるかどうか」とも指摘した。

 そもそも、なぜアカデミー賞を獲ることが重要視されるのか。「関係ないという人もいるし、『パラサイト』ように獲ったら大ヒットもしている。DVDでも“◯◯賞受賞”とついていると買われるようなところはあり、昔ほどの経済効果はないとは思うが、まだまだ無視できないところはある」。

■“世界同時公開”で客獲得の狙い? 伸びる中国市場

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 社会的な機運の高まりだけではなく、ビジネス面からもマイノリティーの起用が叫ばれている。アメリカの映画館では白人の来場者数が減少傾向にあり、2017年は2350万人だったのが、2018年は2270万人、2019年は2200万人となっている(出典:米国映画協会)。

 また、興行収入を見ると中国の追い上げが顕著で、アメリカは横ばいなのに対し、中国は2015年の6830億円から2019年は9961億円にまで伸び、アメリカに肉薄している(出店:あまた株式会社)。

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 多様性を訴えているのは、英語圏以外や白人層以外の客を獲得したいという思惑もあるのか。藤氏は「まさにそうで、今は世界同時公開で稼ぐというのが大事になっている。アメリカは人種構成も変わっているし、白人だけが観るような映画を作っていたらもう儲からない。劇場にちゃんと足を運んでくれる人たち向けにも訴えなければいけないということはあると思う。そもそも、映画産業自体が大変なので、いろいろなことをやっていかなければいけない。アメリカ映画業界は“アメリカ経済のエンジン”という風に言っているが、ものすごい雇用を生んでいる。この人たちが路頭に迷うようなことをしてはいけないという危機感もあるし、経済面も結局アカデミーもお金にしなくてはいけないので、そのための策ということは言えると思う。理念だけでやっている訳ではない」と話す。

 基準は2024年から適用されるが、2024年の世の中を見越してのことなのか、それとも準備に2、3年かかるということなのか。

 藤氏は「後者が大きい。やはり2、3年でもできず、10年とかはかかってしまうだろう。アカデミー賞を狙わないような小品も撮れたりするが、やはり時間とお金とマンパワーがかかるところはある。来年と言われたらみんな大慌てだと思うが、3年後くらいだったらインターンやマーケティングなど対応できるところはあるかもしれない」との見方を示す。

 一方、ひろゆき氏は「2024年にはCG映画が増えてきて、“見た目は白人だけど実はアジアの血が入っている”という設定にするとか、いくらでも逃げ道ができる気がする。そういうつまらない逃げ方をするのではないか」と危惧した。

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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